30,癌と癌予防のはなし


○ はじめに

 日本で年間100万人くらいの人が死亡しています。癌による死亡は、約30%を占め、1981年以来、わが国の死亡原因の1位となっています。年間の癌罹患数は約50万人ぐらいですから、6割の人は、癌を治すことが出来ずになくなっている計算になります。

 さらに、詳しい癌の情報を得たい方は、国立がんセンターのページ

○ 癌細胞の特徴

@寿命がない:不死化=癌の細胞はテロメラーゼで染色体の端にあるテロメアと呼ばれる部分を伸ばしてしまいます。テロメアは、ふつう細胞分裂を繰り返すたびに短くなって、ついには分裂が出来なくなってしまうもので命のローソクのような物ですが、癌細胞ではこれがどんどん延びるので死 なくなってしまうのです。
A転移する:もとの組織から離れて、リンパ管や血管を伝わり飛び火します。これが癌が治しにくい原因の一つです。
B周囲の組織に浸潤する。:直接まわりの組織に染み込むように広がって行きます。ですから手術の時には、癌そのものだけではなく、周りの組織も安全域を見込んで切り取ります。

○ がんは、なぜ起こる


 癌は、遺伝子に傷が付き、細胞が正常な分裂のコントロールを失うために起こると考えられています。
癌を引き起こす「発癌遺伝子」は、現在約200種類が発見されており、また細胞増殖を抑制したり異常を感知してその異常を修復する「癌抑制遺伝子」は、約20種類が知られています。これらの遺伝子が変異を積み重ねることによって、人間を死に至らしめる病気として現れてくるのです。癌細胞の増殖のスピードから逆算して、1個の癌細胞が発生してヒトを倒すまでに15〜30年の時間がかかると考えられています。

 遺伝子異常をおこさせる物質(変異原物質)を「イニシエーター」といい がん細胞を増殖させる物質を「プロモーター」と呼びます。「イニシエーター」には 放射線や紫外線・ウィルス・魚の焼け焦げなどがあり、「プロモーター」には 女性ホルモンや胆汁酸・高塩分・タバコ・人工甘味料・農薬(DDT・BHC)・PCBなどが知られています。

 生活習慣や食物などを広く「環境」とすると癌の95%は環境要因によるとされています。特に食物と喫煙で癌の2/3が発生すると推定されています。


癌の原因の寄与割合(Dollらの推計、1981年)


○ 癌の1次予防(かからないようにする)

発ガン促進要因 抑制・予防要因
アルコールの飲み過ぎ
やけどするほど熱い食べ物や飲み物
低栄養
食道癌 野菜(緑黄色野菜)・果物
高栄養
牛乳・乳製品
喫煙
大気汚染
粉塵
肺癌 高栄養
緑茶
緑黄色野菜
ビタミンA・カロチン
大量の穀物
塩分の多い物
やけどするほど熱い食べ物や飲み物
不規則な食事
ヘリコバクター・ピロリ菌の感染
喫煙
胃癌 新鮮な野菜(緑黄色野菜)
果物
牛乳・乳製品
高脂肪食
アルコール
食物繊維の不足
大腸癌 食物繊維
野菜
豆類
牛乳・乳製品
魚類
カビ
アルコール
肝臓癌 高栄養
高脂肪
高カロリー
乳癌 穀物
ビタミンA

 世界の癌発生は、毎年約1千万人といわれますがこのうちの約3割は食事等で予防すること が可能であるとされています。
 ビタミンCとビタミンEとカロチンは発癌物質であるイニシエーターの働きを抑え、 ビタミンAとカロチンは細胞膜を強くして発癌促進物質であるプロモーターの働きを弱める働きがあることが解っています。
 (右の表を参照)

 それでは、具体的にはどのような食事・どのような生活を心がければ良いのでしょうか?以下に「癌の予防15か条」を掲げますが、食生活の改善、特に植物性食品を 主体とする食事が、癌予防に非常に有効であることを強調しています。



癌の予防15か条:出典、世界がん研究基金・米国がん研究協会(1997)

1.食品と食事:野菜や果物、豆類、精製度の低いデンプン質などの主食食品が豊富な、植物性食品を中心にした食事をする。

2.体重の維持:BMI(体重s/(身長m)×(身長m))を21〜23に維持し、成人期の体重増加は5s未満になるようにする。

                BMI=体重(kg)/身長(m)^2。22が標準体重。

3.運動の維持:仕事であなり体を動かさない場合は、1日1時間の速歩を行い、1週間に合計1時間は強度の強い運動を行う。

4.野菜と果物:1日400〜800gまたは5皿以上(1皿は80g相当)の野菜類や果物類を食べる。

5.その他の植物性食品:1日に600〜800gまたは7皿以上の穀類、豆類、芋類、バナナなどを食べる。なるべく精製していいないものが良い。

6.アルコール飲料:積極的には飲酒は勧められない。飲むなら1日男性は2杯(=日本酒1合)、女性1杯(=日本酒5勺)まで。

7.肉類:赤身の肉を1日80g以下に抑える。(赤身の肉とは、牛肉羊肉、豚肉)。

8.総脂肪、油脂:動物性脂肪を控え、植物油を使用して総エネルギーの15〜30%の範囲に抑える。

9.塩分:塩分は1日6g以下。調味に香辛料やハーブを使用し、減塩の工夫をする。(酢の使用も良い)。

10.食品の貯蔵:常温で長時間放置したり、かびがはえた食物は食べないようにする。

11.冷蔵庫での保存:腐敗しやすい食物の保存は、冷蔵庫で冷凍か冷却する。

12.食品添加物と残留物:添加物、汚染物質、その他の残留物は、適切な規制下では特に心配はいらない。

13.調理法:黒焦げの食物を避け、直火焼きの肉や魚、塩干薫製食品は控える。

14.栄養補助食品:この勧告を守れば、あえてとる必要はなく、癌予防にも役立たない。

15.タバコ:タバコを吸わない。


 口腔咽頭癌は、禁酒と野菜・果物の大量摂取で33〜50%が予防できることが分かっています。食道癌も同じ予防法で50〜75%は予防可能。肺癌は、禁煙と野菜摂取、胃癌は食塩を控え野菜・果物を十分摂り、食物をきちんと冷蔵することで66〜75%予防できます。結腸・直腸がんは、野菜摂取を多くし、適度の運動と禁酒、肉類の摂取を控えると66〜75%予防できます。


癌をどれだけ予防できるか:WCRF/AICRの報告書(1997年)

○ 癌の2次予防(早期発見する)


 H11年度から、老人保健法の保健事業に組み込まれていた胃癌・子宮癌・肺癌・乳癌・大腸癌の検診は、一般財源化されましたが、これは癌検診の有効性に疑問があるという理由ではなく、すでに地域の行政サービスとして定着しているという厚生省の考えからでした。

H10年厚生省「がん検診の有効性評価に関する研究」班による勧告

A.胃癌検診
  逐年のX線検査を用いた胃癌検診受診を勧奨する証拠がかなりある。ただし、検査の限界に関する十分な説明を事前に行うべきである。

B.子宮頚癌検診
  1)30歳以上の女性を対象とした細胞診による子宮頚癌検診の有効性を証明する十分な証拠がある。
  2)ただし、検診を行う適切な年齢、間隔について検討を続ける必要がある。
B’.子宮体癌検診
  現行の子宮体癌検診の有効性は十分に証明されているとはいえず、早急に検討する必要がある。

C.乳癌検診
  1)視触診による乳癌検診は、生存率の比較による研究において無症状の場合は死亡リスク低減効果が認められるが、有効性を示す根拠は必ずしも十分ではない。
  2)マンモグラフィによる検診は、有効性を示す確かな証拠がかなりあることから、マンモグラフィの導入に関して、早急な対応が求められる。

D.肺癌検診
  肺癌の生存率は一般にきわめて低い。しかし、肺癌検診を逐年受診することの有効性は示唆されている。ただし、現行の方法による肺癌検診の効果はあっても小さいことは事実である。(中略)また、集団検診へのCTの導入など一層の早期発見の研究が必要である。

E.大腸癌検診
  便潜血検査による大腸検診を勧奨する十分な証拠がある。免疫便潜血検査2日法による逐年検診の効果とその大きさを実証していくべきである。また、2日法については、特異度、精検受診率を高く維持することが重要である。精検は全大腸内視鏡検査か、S状結腸内視鏡検査と注腸X線検査の併用で行うのが望ましい。



○各種がんの特徴と人口10万人あたりの死亡率(H11年:総数782.9、癌すべて:213.6、男286.5女179.1)

 男性の方が、女性よりたくさん癌で死亡しています。主に喫煙率が男性の方が高いことによると考えられています。以下の統計数字では、前立腺癌・乳癌などは男女別の死亡率をほぼ全人口に対する数字に修正して、頻度の多い順に表示しています。↑は現在増加中、↓は減少傾向の癌です。
 いずれにしても、検診で診断可能なものばかりではないので、癌予防がいかに重要であるのか再認識させられます。

@肺がん(41.6)↑:早期発見が難しく、転移しやすいので健診で見つかっても半分位しか治りません。診断がついて助かる見込みは20%程度です。アメリカのメイヨークリニックでは、肺癌検診は、死亡率を減らさないというデータが出て、アメリカでは健診を止めていますが、ヘリカルCTを使って、肺癌検診をする試みが行われています。一般的には胸部レントゲンと喀痰細胞診を行います。初期の症状は、血痰、胸痛、繰り返す肺炎などです。男性は女性の3倍です。肺がんは予防が一番です。すなわち禁煙することです。

A胃がん(40.4)↓:健診で見つかる胃がんの治る率は 100%近いですが、症状が出てから見つかった胃がんでは50%です。早期癌の場合、胃レントゲンで10%程度、胃カメラでも3%程度の見逃しがあるとされ、健診は毎年受けた方がいいでしょう(特にレントゲンでは)。ペプシノーゲンを測る血液検査で慢性胃炎の強い人を対象に精密検査をする場合もあります。ただし、分化型の癌は慢性胃炎と関連がありますが、未分化型のものは関係が薄いので、見落とす危険があります。初期の症状は、胃の痛み、胸焼け、食欲不振などです。胃潰瘍や胃炎と見分けることが必要です。男性は女性の2倍弱です。

B大腸がん(28.2)↑↑:便潜血は30%も見逃しがあり、かなり鈍感な検査です。そのために、2回検査します。血便、便通回数・性状の変化、腹満などがあるときは、潜血陰性でも精密検査を受けた方がよいでしょう。一度便潜血が陽性で、再検査したら陰性だったので大丈夫と考えるのは、大間違いです。全大腸ファイバーをするか、S状結腸ファイバーと注腸レントゲンを組み合わせて行います。

C肝臓がん(27.0)↑:特に慢性ウイルス性肝炎の人は、ハイリスクですから、定期的に腹部エコーをする必要があります。肝炎の人は、しっかり治療をして、癌が出ないようにすることです。男性は女性の倍です。

D膵がん(14.9):早期発見が難しい癌です。腹部エコーである程度診断が可能ですが困難です。初期の症状は、膵炎に伴って腹痛、下痢などです。

E胆嚢胆管がん(11.9):腹部エコーや肝機能の血液検査が役に立ちます。胆石の有無と発癌率は関係ありません。進行が早く早期に発見できないことがしばしばですが、場所によっては黄疸などが早期に出て診断できることがあります。

F食道がん(8.0):男性の喫煙者でお酒を飲む人によく起こります。胃レントゲンでは見落としが多く、胃カメラをする方が無難です。初期の症状は、飲み込んだものがつかえたり、熱いものや冷たいものがしみて痛んだりします。

G乳がん(7.1)↑:乳がんは自分で発見でき、自己健診が最も有効な手段となります。集団健診は、この自己健診を普及させる一つの手段とさえ言われています。乳房の大きい人は特に、触診だけでは発見しにくいので自己健診だけに頼らず、毎年健診を受けましょう。マンモグラフィーは触診では判りにくい癌も発見できる利点があります。

H悪性リンパ腫(6.1):リンパ球が悪性腫瘍になったもので、白血病の親戚です。早期発見は難しく、変なしこりがだんだん大きくなってくる場合は精密検査を受ける方がいいでしょう。化学療法が割と有効です。

I前立腺がん(5.7)↑:PSAという血液検査が早期発見に役立ち検診にも取り入れられています。発育は遅いのでおとなしい癌です。

J白血病(5.3):血液検査でわかりますが慢性白血病以外では早期診断は困難です。

K子宮がん(4.0)↓:頚がんでは、ヒトパピローマウイルスが関係することが判っています。頚がんの健診は30才以上。体がんは不正性器出血があるひとで、@50才以上A閉経後、B未妊婦で月経不規則のもののいずれかに該当する人が対象です。体がんが全体の20%ぐらいまで増えてきています。30才以下でもがんがあることがあり、妊娠時に調べてもらう方がいいでしょう。

L舌がんおよび咽頭がん(3.9):喫煙が関係し、男性は女性の倍です。治りにくいびらんがあれば、耳鼻咽喉科で見てもらいましょう。
M膀胱がん(3.8):化学物質(染料)が影響します。男性は女性の倍です。検尿や腹部エコーが有効です。
N卵巣がん(3.2):腹部エコーで発見可能です。
O中枢神経系のがん(1.3):早期発見は困難で、小児でも起こります。
P喉頭がん(0.8):喫煙するとリスクが20倍になります。嗄声(させい=しわがれ声)が続く場合は、耳鼻咽喉科へ受診しましょう。
Q皮膚がん(0.7):紫外線が影響します。フロンによるオゾン層の破壊が心配されています。
・  そのほか、甲状腺、腎臓、多発性骨髄腫などがあります


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