35、処方箋について


薬を手に入れる方法

 体の調子が悪い時、薬を手に入れる方法は、大きく分けて2つあります。1つは、町の薬局に行ってお金を払い薬を買う方法です。町の薬局で売っている薬を市販薬(OTC=Over The Counter Drug)と言います。この方法では、お金さえ出せば、販売されている薬であればどれでも欲しいものが手に入ります。もうひとつの方法は、医療機関にかかって診察を受け、保険診療として必要と考えられた薬を処方してもらう方法です。医療機関にかかって、薬をもらう時には、院内処方と院外処方の2とうりがあります。院外処方箋は、調剤薬局であれば、病院の近くの薬局でも自宅近くの薬局でも自分で薬局を選んで持ってゆき薬をもらうことが出来ます。ですがもらう薬は同じでも、院内処方と院外処方ではかかる費用や手間ひまの他にも調剤の待ち時間の問題や薬の説明を十分受けられるかどうかなどいろいろ違いがあります。
 現在、院外処方箋の割合は、全国平均で30%を超えてきたところです。
 医療費抑制の観点から、行政は「医薬分業」をとなえて、院外処方の利用を推進していますが、実際のところどちらがいいのでしょうか?医療費抑制と院外処方の関係は分かりにくいかも知れませんが、薬価差益が得られる院内調剤だと、「薬づけ」と言われるように要らない薬でもどんどん出してしまう傾向が起こりがちですし、院外処方だと薬の内容が患者さんに分かり易い上に老人医療にならない若い世代の場合は薬局で薬代を別に支払うことになりますから、自分が要らないと思う薬を次回から出さないように医者に言い出し安くなると考えられています。また、処方箋をもらっても、診断に納得がいかなければ、薬局まで持ってゆかない患者さんもおられるかも知れません。

薬価と薬価差益について

 医療機関が薬代で儲けていると以前から思われていますが、これは現在ではあたりません。医療機関への薬の仕入れ値と診療報酬との差額が以前は10〜15%以上あり、これが収入源になっていた時期もありました。しかし、消費税が導入されてから、医療機関への仕入れには消費税5%がかかるのに、患者さんに渡す時には消費税をもらえませんから、5%は医療機関が損をすることになりました。このため、薬の種類によっては「逆ざや」となって 薬を出せば出すだけ損をするようなものも発生してきています。現在では、公定薬価は、平均価格に2%の利益率を加えて算出されていますので、ほとんど薬価差益は無いといっても過言ではありません。
 また、日本の薬価は国際的に見て非常に高く、同じ成分の薬でも欧米の2〜3倍の値段がついているものが沢山あります。薬価は、中医協(中央社会保険医療協議会)で決められますが、非公開の会議で、製薬会社などが献金をした政治家などを通して圧力をかけ、高い薬価を維持して多くの利潤を上げているといる指摘もあります。

患者負担から見た処方別費用の比較

□院内処方と院外処方の費用の比較 (H12.3.3改定)、薬局規模は、玉島「虹の薬局」の例
気管支炎で抗生物質(1回1カプセル=100円を1日3回、5日分)、と鎮痛解熱剤(1回1錠=20円、10回分)を処方された場合
院内処方 院外処方 備考
処方箋料 810円 7種以上の内服薬の場合は530円になります。
処方料
420円
  7種以上の内服薬の場合は290円になります。一定の慢性疾患を主病とする方で
診療所または200床未満の病院の場合は、月2回に限り150円が加算されます。
調剤(技術)基本料 80円 390円 処方箋取扱い回数などで210円から490円と幅あり。
施設基準を満たせば220円増。院内では、薬剤師がいる場合に月1回だけ算定。
調剤料 90円 510円 処方の日数により変化。この場合60円x5日分+頓服210円
その他に、注射薬260円、外用100円などもあり。
薬剤服用歴管理指導料 220円 220円から100円まで幅があり。重複や相互作用の加算100円もあり。
薬剤情報提供(加算)料 100円 100円 お薬手帳では150円、文書によるものは100円です。
薬剤料
1700円
1700円 これはどちらも同じです。このうち2〜5%程度が医療機関の「利ざや」となります。
薬代が高ければ、製薬会社の利益が大きくなります。
医療費合計 2390円 3730円 このうちの1割から3割または、定額では一定の金額が患者さん負担となります。
医療機関の収益(概算) 775円 895円 利ざやを薬剤料の5%(85円)として計算してあります。
調剤薬局の収入(概算) 1305円  同上

院内処方のメリット

 院内処方の時の患者さんのメリットは、
1.医療費負担が軽くて済む
2.院外薬局までゆく手間がかからない
  などです。
 医療機関側でのメリットは、小さな医院などでは、カルテから直接調剤を行うことも出来るので、医者は院内処方箋を書く手間が省けます。大きな病院で同じ建物内でも薬局が離れていれば院内処方箋を書いてこれを院内薬局に送ることになります。こうなると医者の手間ひまは院外処方と変わりません。急いで薬を作ると間違いも出てきますし、詳しい服薬指導はなかなか困難です。(これはデメリット)人間のすることですから、薬剤師の調剤でも約100調剤につき1つ位は間違いがでますが、これを2重にチェックすると100x100=1万に1つに減らせると言われています。

院外処方のメリット

 これに対して、院外処方の時の患者さんのメリットは、
1.薬の説明を納得するまで聞きやすい。薬の説明のプリントなどももらえます。(院内でも渡す所が増えています)
2.同じ薬局を利用するれば、複数の病院からもらった薬の飲みあわせをチェックしてもらえる。
3.稀にしか使わない薬や薬価が高い薬でも、処方してもらいやすい
4.自分の気にいった薬局に都合の良い時間に処方箋を持っていって調剤してもらえる。(処方箋の有効期限は通常4日間)
5.薬剤師は通常2重チェックを必ずするので、薬の投薬ミスが少ない
などです。

 医療機関側のメリットは、
1.薬仕入れ値交渉の軽減(薬価差益を出すために、仕入れ値を値切る必要が無くなる)
2.薬剤の在庫管理の軽減(仕入れた薬の有効期限が過ぎて使えなくなるので損をする心配が無くなる)
3.医療機関持ち出しの消費税の軽減(薬の仕入れには消費税が掛かるのに、処方するときは消費税がもらえないから)
4.薬剤師をおかなくても良くなるので人件費の軽減が可能
5.毎日の会計計算とレセプト(保険請求書)作成が簡単になる。
6.外来会計・投薬待ち等の混雑緩和
7.入院のある病院では、病院薬剤師の病棟活動が可能になる
8.包括点数の場合、薬の内容、量などを気にすることなく処方できる(投薬がいわゆる「丸め」になると、薬を出せば出すだけ損になる)
などがあります。

院外処方の今後

 いずれにしても、経済的にメリットをつけて「医薬分業」を推進するような厚生行政がされていますので、多くの医療機関では、最近院外処方を増やしているのが現状です。医療生協阿新診療所でも、往診の患者さんは原則的に院外処方として、薬剤師さんに患者さんの家まで薬を届けてもらっています。また、患者さんの希望や院内薬局の薬剤在庫も検討して、院外処方箋をお渡ししている場合もあります。
 院外処方がこのまま増えつづけるかどうかは、まだわかりませんが、院内処方が全てなくなる事は無いでしょう。どちらを選ぶかは、個々の患者さんの希望を尊重して対応して行きたいと思っています。
 薬に関してのご質問・ご要望があれば、医師または看護婦にご相談ください。


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