42、食中毒について(1)


食中毒は年中おこります

 食中毒と言うと、気温が上がる夏場を中心に起こりやすいと言われていましたが、最近は暖房の完備、冷蔵庫の過信などからか1年中とうして起こっています。昔は、日本人の食生活に海産物が多いこともあって、腸炎ビブリオなどが多くありましたが、今では、サルモネラ・カンピロバクター・ウエルシュ菌などの家畜や鶏に由来する食中毒も増えています。今回は、様ざまな食中毒の原因菌の特徴をまとめてみました。

食中毒の種類
 食中毒には以下の3つの型があります。
 ◆1:感染型──サルモネラ、カンピロバクター等でおこり、細菌に汚染された食品を口にすることで、生きた菌自らが食中毒を引き起こすもの。腸管にたどり着いた菌が腸管内でさらに増殖し、腸管組織に侵入して組織を壊し、炎症を起こします。この結果、腹痛や下痢などの症状が現れ、 ひどくなると血便が出ることもあります。
 ◆2:生体内毒素型──腸炎ビブリオ、病原性大腸菌等でおこり、菌が腸管内で作り出した毒素により発症します。菌によって作り出す毒素が異なり、症状も様々ですが、主に腹痛、下痢、発熱などが見られます。
 ◆3:毒素型──ボツリヌス菌、黄色ブドウ球菌等でおこり、食品内であらかじめ細菌が増殖し、そのときに産生した毒素を経口摂取することで発症する中毒です。

食中毒の原因菌とその特徴

●食中毒原因菌とは…  現在日本で食中毒原因菌に指定されているのは16種類です。その中でも、特に注意が必要な原因菌は、サルモネラ属菌・腸炎ビブリオ菌・黄色ブドウ球菌・ボツリヌス菌・病原性大腸菌の五つです。

種類 すみか 特徴、性質など 潜伏期 主な症状 原因になりやすい食品と注意点
サルモネラ属菌 家畜やニワトリの腸内
卵の殻はもちろん、中身も汚染されている可能性あり
イヌ、ネコ、ミドリガメ、ヘビのペットにも高頻度で住みついている
煮沸程度の加熱て死滅する
加熱調理で容易に殺菌できる
6〜72時間
(通常12〜24時間)
発熱、粘血便、腹痛など 糞便などにより汚染された食品・飲料水、
卵原料の生クリームや自家製アイスクリームなどにも注意。菌が増殖しないよう、早めに食べること
腸炎ビブリオ 海水・海泥。海水温が上昇する夏季はとくに要注意 最も発生頻度が高い。
 煮沸程度の加熱て死滅するが、増殖力が強く、8〜10分で倍に増殖する。5時間で約10億倍まで増える。調理器具の扱いには特に注意が必要。
2〜48時間
(通常10〜18時間)
激しい腹痛、下痢、発熱、嘔気嘔吐 魚介類、その加工品や漬物。
生鮮魚介類は全て10℃以下に保存する。
黄色ブドウ球菌 人間の鼻やのど、傷口やあかぎれなど  菌が食べ物の中で大量に増殖して作られる、エンテロトキシンという毒素によって発症。加熱してもこの毒素は消えないので加熱処理では予防できない。
 また、ブドウ球菌は少々の塩気はもちろん、塩漬けの中でも生き続けることができるので、塩ものでも油断せず、保冷に努める。
1〜6時間
(平均3時間)
嘔気嘔吐、腹痛、下痢 食品全般。
 大きなアカギレなど、傷のある手で直接握ったおにぎりなどは危険。手に傷のある時は手袋など使うようにして、食材には直接触れないようにする。 くしゃみなどから感染することもあるので調理中、マスクをするとさらによい。  
ポツリヌス菌 土壌を中心に芽胞として、自然界に広く分布。海水、湖、川等の泥砂や魚介類等にも広く分布。  症状が重く、死亡率が高い。
 酸素のないところで生息する“嫌気性菌”で、増殖する時に毒素を産生する。発酵食品や缶詰、真空パックの食品も安心できない。ただし、毒素は加熱処理で死滅する。(80℃、30分で不活化)
12〜36時間 嘔吐・下痢
神経症状
(複視、瞳孔散大、言語障害、呼吸困難など)
嫌気性食品(びん、缶詰など)
缶詰、瓶詰め、真空パックが膨れあがっているような食品は食べない 。
乳幼児の離乳食に、蜂蜜は用いない。ボツリヌス菌が含まれていることがある。
病原性大腸菌 動物などの腸管内  通常、細菌による食中毒は原因となる菌が約百万個以上体内に入らないと発症しないが、病原性大腸菌O157はわずか数個から数十個の菌があれば発症 する。
 また人から人へと直接伝染することもあるので、感染が確認された後の対応も重要。
 大腸菌は熱に弱く75℃1分で死滅するので、食品を十分に加熱する。特にミンチ肉は中まで熱が通るよう心がける。
2〜9日
(平均5.7日)
初期症状
【発症1日目】 下痢、腹痛、かぜ様症状
【発症2〜3日目】 血便、激しい腹痛 合併症は発症から5〜10日で出現 ●溶血性尿毒症症候群(HUS) ・尿毒症(腎不全)血尿や尿量の減少、顔や手足のむくみ ・血小板減少症 ・溶血性貧血
●脳症:意識障害、けいれん、手足のしびれ
肉が最も危険
保存や調理過程で他の食材を汚染しないよう注意が必要。
井戸水を含め、動物の糞便の汚染のおそれのあるなま水の使用には十分注意し、飲料には絶対に使用しない。食材を洗うときの水も清潔なものを使用すること。
また、 病原性大腸菌は人が高く保菌しているので手指からの汚染を防止するために手洗いを励行する。手指の消毒も重要
カンピロバクター 鶏、イヌ、豚、牛等の家畜やペットの腸内  60℃20分で死滅し、乾燥に弱いが低温には強く、微好気で増殖する。 2〜7日
(通常35時間)
下痢、腹痛、倦怠感
発熱(38〜39℃)
食肉および肉製品
エルシニア 自然界に広く分布
豚など家畜、ネズミ、ペット等の腸内
 5℃でも発育し、25〜30℃で活発に増殖する 3〜7日 発熱、腹痛、
下痢、頭痛
食肉および肉製品
セレウス菌 土壌・河川等自然界に広く分布 食品中で増殖する時は、毒素を産生
毒素は熱に弱い(56℃5分で不活化)
耐熱性の芽胞を形成する
嘔吐型:1〜 6時間 嘔気・嘔吐 米飯
下痢型:6〜16時間 下痢・腹痛 食肉製品、スープ、野菜
ウエルシュ菌 牛、馬、羊、イヌなどの動物の腸内
人や動物の糞便や土壌、下水等自然界に広く分布
嫌気性菌。腸内で増殖する時に毒素を産生毒素は熱に弱い(60℃10分で不活化)
最適発育温度は43〜47℃
耐熱性の芽胞を形成する
6〜18時間
(平均12時間)
下痢、腹痛 大量に調理し、長時間室温で放置される食品。カレーライス、シチュー、スープ等。
食肉、魚介類等。


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