きせつのおはなし 

『 きらきら輝く季節に 』

1・花粉の季節

2・太陽の季節
 

1・花粉の季節

 今年も明るい春を迎えるころになってきました。花だよりもきこえてきます。薄着になって、明るい陽射しの中、でかけたいですね。

 でも、春といえば人との出会い、別れ、引越し、そして新しい生活環境などストレスになることも多い季節です。精神的にも不安定になりやすいこの時期はアレルギーの起こりやすい時でもあります。まず思い出されるのは、花粉症ですね。 お悩みの方も多いと思います。花粉症は主としてスギ、ヒノキなどの樹木の花粉によって引き起こされる鼻炎、結膜炎をいいますが、さらに、スギ花粉症の方の顔面に発疹が生じることもあり、皮膚科ではスギ花粉皮膚炎と呼んでいます。患者さんの9割が女性で、年齢は10代から60代にわたっています。特徴としては、顔面、眼瞼、頬に赤く、腫れたような急性の湿疹ができ、かゆいです。また、こまかい落屑を伴ったやや慢性的な皮膚の変化もみられることがあります。花粉の影響とは気付かずに、悩まれる方も多いのですが、鼻炎、結膜炎で苦しい上に、皮膚までかゆくてはたまりません。 早めの治療でおさえることができますので、皮膚科専門医へご受診ください。

2・太陽の季節

 春は急激に太陽の紫外線量が多くなる季節でそれによる皮膚のトラブルも生じやすくなります。紫外線量は4月ごろより増加し、5月が1年で最も線量が多くなるというデータもあります。梅雨の関係で6月は5月より低下しますが、7月、8月と再び増加します。この間の紫外線量の月平均は12月の3倍にもなりますので、注意が必要です。また1日のうちでは午前10時から午後2時の間がとくに紫外線量が多い時間帯といわれています。
 では、紫外線とは何でしょう。そして人体にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
紫外線とは電磁波放射線で可視光線より短い波長領域のものです。波長の長さから、紫外線A(UVA=長波長紫外線)、紫外線B(UVB=中波長紫外線)、紫外線C(UVC=短波長紫外線)に分けられます。波長の短いUVCはオゾン層で吸収されるため、現在日常生活で問題となるのはUVAとUVBです。しかし、フロンの影響でオゾン層が破壊されるとUVCも地表に届くようになり、その影響も考えなければいけなくなる時代も近づいているようです。
 紫外線の利点は活性化ビタミンD3を作ることです。ビタミンDは抗くる病因子とも言われ、腸管からのカルシウムの吸収を高め、骨代謝に必要なカルシウムの濃度を保ちます。太陽にあたり、活性型ビタミンD3の産生を高めるのは人間にとって、欠かせないことです。しかし、現代の日本で通常に生活して、バランスのとれた食生活をしていれば、十分ビタミンDを摂取できるものといわれており、必要以上に紫外線をあびるとかえってデメリットが増えてくると考えられています。
 紫外線の皮膚への影響で好ましくない点はたくさんあげられます。
 1)強い陽射しによる日焼け
 2)発癌性
 3)皮膚老化を促進し、しみ、たるみ、しわなどの原因となる
 4)日光過敏症による発疹、かゆみ:内因性、薬剤性、化粧品など
などがあります。1)〜3)については、新聞、雑誌等でもよくとりあげられているので、ご存知の方も多いと思います。 ただ、最後にあげた 4)の日光過敏症は自分では日光が原因と思われず、症状が悪化する一方になることがあります。そこで、今回は少し詳しくご説明してみましょう。

 日光(光線)過敏症として考えられるものには、@日光が直接アレルギーを引き起こしているもの A飲み薬と日光が反応して発疹をつくるもの B塗り薬や化粧品と日光が反応するもの C全身疾患を反映するもの D食物や植物と日光が反応するもの E先天的に日光があわない場合 などがあげられます。

@日光が直接アレルギーを引き起こしているもの(いわゆる特発性光線過敏症)

1)丘疹小水疱型日光疹(あせものような小さいぶつぶつ)
これは春〜夏にみられる光線過敏症です。日光にあたった当日の夕方から夜にかけて手の甲や前腕、首に小さなぶつぶつしたかゆみのある発疹がでます。真夏には抵抗性ができて、発疹は生じなくなることがあります。成年以上の女性によく見られます。治療は日光をさけ、ステロイド外用剤を短期間使用すれば治ります。大事なことは遮光です。
2)種痘様水疱症(みずぼうそうのような大きい水疱)
これも春〜夏にみられる小児の光線過敏症です。顔、首、手背など露出部に少し中央がへこんだ水疱が多数できます。男の子によく見られ、水疱はあとかたを少し残します。日光にあたると発疹が誘発されますが、成長と共に治っていきます。長い間原因不明の光線過敏症とされていましたが、最近、現岡山大学教授の岩月先生らの研究でE-Bウイルスというウイルスが露光部に感染し病変を形成している可能性があることがわかりました。治療は軽いステロイド剤(キンダベート、ロコイド軟膏など)を外用し、その上に遮光のためサンスクリーンを使います。
3)日光蕁麻疹(じんましん)
日光のあたる部分に生じる蕁麻疹のことです。治療は通常の蕁麻疹とおなじですので、蕁麻疹の項目をごらん下さい。

A飲み薬と日光が反応して発疹をつくるもの(薬剤性光線過敏症)

飲み薬の中には日光と反応して、露光部に発疹を生じる場合があります。血圧の薬、抗精神薬、糖尿病治療薬、鎮痛解熱剤、など長期に飲んでいる薬でも日光過敏を起こすものがあり、注意が必要です。この他、抗生物質(テトラサイクリン系)、水虫薬(グリセオフルビン)、抗ヒスタミン剤(メキタジン=ゼスラン、ニポラジン)などがあります。露光部には発疹が出た場合、飲んでいるお薬を必ずお持ちになって、御来院ください。

B塗り薬や化粧品と日光が反応するもの(光接触皮膚炎)

化粧品の香料、色素、紫外線吸収剤の一部、痛み止めの軟膏、湿布(ケプトロフェン=モーラス、ミルタックスなど)、またそれぞれに含まれている防腐剤(チメロサールなど)と日光が反応して、皮膚炎をおこすことがあります。

C全身疾患を反映するもの

全身的な疾患で光線過敏症、または光線によって悪化するものがあります。主な病気としては、
1)膠原病(全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎など)

2)代謝異常症(晩発性皮膚ポルフィリン症【アルコール大量摂取】、ぺラグラ【ニコチン酸欠乏症】)など)

があげられます。その他にも日光にあたり悪化する皮膚疾患は多数ありますので、この季節に皮膚症状でお悩みの方は、ぜひ一度皮膚科専門医にご相談ください。

D食物や植物と日光が反応するもの

イチジク、セロリ、パセリなどフロクマリンという物質を含む植物などがあります。またキク科の植物も光線過敏を起こす可能性があります。

E先天的に日光が合わない場合

色素性乾皮症、骨髄性プロトポルフィリン症など、遺伝的に日光があわない疾患があります。

光線過敏症の診断

 紫外線に過敏かどうかは厳密には紫外線照射テストを行って、診断をつけます。しかし、日光にあたった後、発疹が出て、それが顔面、頚部、前腕など光線にさらされた部位に限られている場合、可能性が疑われます。正確な診断を早く受け、的確な治療を受けるために、皮膚科を受診される時は、使っていた飲み薬、塗り薬(湿布も含む)をご持参下さい。できれば、食べたもの、飲んだもの、着ていたもの、日光を浴びた場所などをメモしていかれることをおすすめ致します。
光線過敏の予防(サンスクリーンについて)

 光線過敏症の方は適切なサンスクリーン(いわゆる日焼け止め)を用いることで、有害な紫外線から皮膚を守ることができます。光線過敏でない方も、老化を早めるなど紫外線の悪影響を避けるために、適切に使用されるとよいでしょう。市販のサンスクリーン剤に表記されている指数にはSPF(sun protection factor)およびPA(protection grade of UVA)があります。SPFは紫外線B(UVB)、PAは紫外線A(UVA)から皮膚を保護する能力とされています。
 こうした数値が大きいほどその効果は大きいとも考えられますが、一番重要なのは自分の肌に合うかどうかです。実際、日焼け止めによる皮膚炎に悩まれる方がよくいらっしゃいます。 数値が大きいものは肌への負荷もそれだけ高くなります。一時サンスクリーンのSPFの大きさを競うような製品がでまわりましたが、現在は50以上でも50+と表現するように決まりました。(SPF30あればUVBの96.7%は遮断され、これが100になっても99%の遮断で、数%増加するだけです。)
 一般的には健常者の日常生活ではSPF5、PA+で十分と言われています。海水浴や晴天下でのスポーツ時にはSPF15〜20、PA+++を目安にされるとよいでしょう。光線過敏の方にはSPF30、PA+++以上のものが適当ですが、まずサンプルなどでテストして自分に合うかどうか必ず確かめてから、お求めになったほうが良いと思います。紫外線吸収剤(ベンゾフェン系、パラアミノ安息香酸、桂皮酸系、サリチル酸系など)を含むものは、かえって光線過敏の原因となることがあり、ご注意下さい。



サンスクリーン(日焼け止め)の使い方の基本は
   自分の肌に合ったのもを適量(多すぎない)、日のあたる部分に塗る
   汗をかいたら(できれば2〜3時間おきに)塗りなおす
ことです。

きらきらの季節、 思う存分楽しんでください。
<参考文献>
福池良一、他:皮膚科診断治療体系、Suppl.1、1990
吉川伸子、他:臨床皮膚科、49巻5号増刊:12-16、1995
市橋正光:子どもと皮膚と太陽、1996