カサカサの季節がはじまった 


   今年の秋は比較的暖かい日が多く、しばらく虫刺されや水虫など夏型の皮膚の病気がおおかったですが、11月中旬より乾燥肌で受診される方が増えてきました。今年もかさかさの季節が来ましたので、乾燥対策を行いましょう。また冬場に多い皮膚の病気を集めましたので、その対策予防策を考えたいと思います。

皮脂欠乏性皮膚炎

 年配の方が、冬になると全身、特に下腿にかゆみを訴えることがよくあります。皮膚の状態を見ると、カサカサし、粉がふいたようになっています。これは老人性乾皮症、もしくは皮脂欠乏症と呼ばれるものです。かゆみのため、引っ掻いてぶつぶつしたものを皮脂欠乏性皮膚炎と呼んでいます。私たちの皮膚にはバリヤー機能があり、角質がその代表的なものですが、その他に保護物質があり、これには @皮脂膜 A角質細胞間脂質(セラミド) B天然保湿因子 が含まれます。これらは加齢とともに減少しますので、高齢の方は誰でも起こりうる現象です。

対策 : 皮膚を乾燥させすぎないことが重要です。可能なら室内の湿度を50〜60%に保ってください。入浴時にタオル、特に健康タオルを使って肌をごしごし洗うのはさけましょう。肌にやさしい綿のタオルか、手のひらで泡立ててやさしく洗ってください。できれば低刺激性といわれる洗浄剤(ノブ、ドゥーエ、ミノン、セバメド、コラージュなど)を使いましょう。石鹸は控えめに使い、特に乾燥症状の激しい方は入浴時石鹸の使用をわきの下と股部のみに限定して使用すると良いという意見もあります。入浴剤を使う場合は保湿、スキンケア用のもの(キュレル、ノブオリゴマリンバス、ドゥーエ、コラージュ等)をお使いください。そして入浴直後に、肌に合った保湿剤をていねいに塗ってください。皮膚が乾かないうちに塗るのがコツです。ぶつぶつした湿疹があれば湿疹の治療薬を使いましょう。またこれらの対策をとっても改善しないときは全身的な疾患が関係した皮膚掻痒症のこともありますので早めに皮膚科専門医へご相談ください。

アトピー性皮膚炎

 アトピー性皮膚炎は皮膚がかさかさしていることが多いのですが、これは角質細胞間脂質のセラミドが減少していることにより、水分の喪失が大きいためと考えられています。冬季に空気が乾燥すると皮膚も乾燥しますので、バリヤー機能の低下がますます著しくなります。この結果、角質細胞の合成能が高まり、それに付随して炎症を起こす物質が局所で増え、皮膚炎が悪化するとの考えがあります。

対策 : 基本的には皮脂欠乏性皮膚炎のところで述べたことと同様です。ただアトピー性皮膚炎の増悪因子として、ハウスダスト、皮垢(皮膚の垢)、細菌(黄色ブドウ球菌)、カビ(ピチロスポリウムなど)がありますので、これらを洗い落とすために毎日入浴し、刺激の少ない石けんで洗浄したほうが良いでしょう。この時もナイロンタオルの使用や皮膚をゴシゴシ洗うことは避け、肌に優しい綿のタオルか手のひらで洗いましょう。入浴後はお肌に合った保湿剤をお忘れなく。また、湿疹部には適した外用剤をお使いください。

進行性指掌角皮症(手あれ)

 主としてアトピー性素因を持つ方が、素手で水仕事をしたり、書類や紙幣を扱ったりすることで、指先に刺激が加わって手あれになります。もともと手指には皮脂腺がないため角質が厚くなって皮膚を保護していますが、慢性的な刺激により、角質が破壊され、水分が失われ、乾燥します。主婦に多い疾患です。

対策 : 薄手の木綿の手袋をし、その上にゴム(もしくは塩化ビニール)手袋を着用し、水仕事をします。どうしても手袋が面倒な方には皮膚保護クリーム(スキンプロテクトクリーム等)をあらかじめ塗ってから作業することをおすすめします。仕事が終わったあとは十分保湿剤を塗りましょう。洗剤は合成洗剤をやめて石鹸洗剤を使用するのも一方ですが、石鹸洗剤を使用した方がよくなったという明らかなデータはありませんので過信は禁物です。一番いいのは仕事量を減らすことです。自動食器洗浄器の使用が有効ですが、無理ならご主人に洗い物をお願いしましょう。

4顔・口唇・まぶたの乾燥

 この季節になると顔にかさかさとした感想を感じる女性の方も多いと思います。空気の乾燥、過剰な暖房、脱脂力の強い洗顔料の使用、誤った化粧法、年末年始の忙しさからの睡眠不足、ストレスなどが加わり生じるものと思われます。

対策 : 刺激の少ない洗顔料で優しく洗顔した後、肌にあった化粧水を十分につけ、さらに保湿用のモイスチャークリームを使います。適当なモイスチャークリームがないときはヒルドイドソフトや親水軟膏が使えます。
  メークする場合はさらにベースクリーム(化粧下地)をのばし、リキッドファンデーションを使います。これで皮膚が赤くなったり、かゆくなる場合は、洗顔後、防腐剤無添加の水(アベンヌウォーター、ドゥーエ化粧水等等)を十分使用し、精製ワセリン(サンホワイトなど)をさらにのばします。ややべたついて使いづらい点はありますが、安全に保湿できます。尚、市販のリップクリームやアイクリームはかぶれる方も多く注意が必要です。精製ワセリンや眼科用ワセリン(プロペト)をおすすめいたします。

5凍瘡(しもやけ)

 外気温が5℃から10℃の寒冷時におこる皮膚の局所障害です。寒冷刺激により皮膚血管まひが起こり、局所に血液がたまり、組織へしみだすために生じる皮膚の障害と考えられています。手足、顔面、耳などに赤い腫れ、痛み、かゆみが出ます。子供に多いのですが、お年よりでも生じます。また湿度が高い時、皮膚がぬれていると生じやすくなります。遺伝的な背景がありますので、小さい時しもやけになったことのある方は、お子さんには特に気をつけてあげましょう。

対策 : 寒冷刺激にあわないようにすることが大事で、手袋を二重にしたり、マフラーやマスク等を使いましょう。ビタミンEクリームやヘパリン類似物質を含んだ軟膏等を使って軽くマッサージすることにより症状は軽減します。また冷温交代浴をおすすめします。これは朝晩2回、温水に2分、冷水に30秒ほどつけることを繰り返し、寒冷刺激になれさせる方法です。

6衣類による皮膚炎

 衣類によるかぶれは乾燥した冬場に特に多いというわけではありませんが、どうしても夏より厚着になるため、接触するアレルゲンも増えることになります。われわれは多くの化学物質に囲まれて生活していますので、これらとの接触をさけることはできません。しかし、すべての化学物質にアレルギーを起こすわけではないので、アレルギーを起こしやすい物質を知ることは皮膚炎を予防するために重要です。冬に起こりやすい衣類による皮膚炎を2つご紹介します。

ネルの寝間着による皮膚炎(ナフトール AS):寒くなると暖かいネルの寝間着を着る方がいらっしゃると思いますが、まれに頚部にかゆみが出現し、放置しておくと茶褐色の色素沈着が生じることがあります。近年これがネルを染色する過程で含まれるナフトールASという物質によるアレルギーであることが判明しました。疑わしい時は他の素材の寝間着を着用しましょう。

ドライクリーニングによる皮膚炎(化学熱傷):ドライクリーニングに使用する石油系溶剤が衣服に残っている場合、そのまま着用するとやけどの様な皮膚障害が発生することがあります。特に合成皮革性のパンツ(ズボン)で起こることが多く、この場合大腿、下腿に被害が生じます。症状はやけどの程度により異なりますが、赤くなってピリピリするだけのものから、水疱を作って痛みの激しいものまであります。対策としてドライクリーニングから戻った衣類は、必ず袋から出し、十分干して、臭いが消えてから着用することです。季節のかわりめにも必ず一度風をとおしてから収納しましょう。おかしいなと感じたら、できるだけ早くぬぎ、水かぬるま湯で軽く洗い、やけどに使用する抗生物質入りの軟膏等をやさしく塗ってください。症状が激しい場合は皮膚科専門医を受診しましょう。

7ひだこ

 正式には温熱性紅斑といいます。こたつやストーブに長期間あたることにより温熱刺激を受け生じる発疹です。女性の下肢に見られることが多く、赤褐色の色素沈着を伴う網目状の発疹で俗に ひだこ と呼ばれています。持続的な温熱刺激を中止すると改善しますが、寒いからといってずっとストーブにあたり続けることはやめましょう。

8低温やけど

 低温やけど(熱傷)とはすぐに熱傷を起こすことは考えにくい比較的低温度の熱が持続的に作用することにより生じるやけどです。具体的には41℃〜51℃くらいの温度域が多いと考えられています。しばしばドライアイスなどによる超低温が原因と誤解されていますが、こちらは凍傷(とうしょう)です。低温やけどは湯たんぽ、あんか、電気こたつ、ホットカーペットなどの保温器具により生じることが多く、従って下肢によくでます。最近は使い捨てカイロの使用で体幹に生じることもときどき見られます。通常のやけどに比べ、低温でも長時間持続した熱が加わりますので、熱は皮膚の深部に達し、深いやけどになることが多く、治りにくい皮膚潰瘍を生じることがあります。特にご高齢でやや皮膚感覚が低下した方や脊髄損傷などで知覚がない方には注意が必要です。低温やけどの治療は通常のやけどに準じますが、皮膚潰瘍の局所的治療や手術的治療が必要なことがあります。通常のやけどと異なり冷却は不要です。

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