【速報/近況報告】
THE 4TH INTERNATIONAL COFERENCE ON UNIT 731 CRIMES
ハルピンで「731部隊研究国際シンポジウム」開催。
センターから3名が代表参加、斬新な問題提起行う。


-中国、韓国、ロシア、モンゴル、日本などから研究者ら数百名が集う-
【Special Topic】 
731博物館収蔵の重要遺物を実測調査
戦後初の日本人による調査】(後半参照)

 さる9月17日から、20日までハルピン市社会科学院主催により、「731部隊研究 国際シンポジウム」(意訳)が開催され、アジアを中心に世界から数百名の研究者が参加した。
 シンポジウムでは金成民・731研究所所長による最新著作『日本軍細菌戦』(黒龍江省人民出版社刊)の発刊が報告され、満場の拍手で祝された。(同著は、674ページ、字数は百十万字にのぼる731研究についての中国学術史上最大の著書である。同書の巻頭カラーグラビアページには当センターによる軍事鑑定に関しての調査協力風景も収められている。下記写真参照)
 シンポジウムには、当センターから、岡崎、辻田など計3名が代表参加した。
 日本の軍事考古学研究機関を代表して、当センターの岡崎が、関東軍国境要塞と731部隊の関係について代表スピーチを行った。戦争を知らない戦後世代の日本の代表として、戦争のイメージをイデオロギー的視点から脚色するのではなく、事実をありのままに、具体的かつ科学的に考察する必要性を提起した。

 スピーチの中で、
1.当センターは、学術的な技術集団であり、日本国内において、特定の立場に偏らず、思想信条を越えて活動することを旨としている。特定の信条で括られることなく、あらゆる立場の日本人研究者が安心して自由な立場で研究に参加できる受け皿を作ることが最重要だと考えている。
2.その前提の上で、中国大陸に存在する旧日本軍の軍事施設を科学的に解明するためには、当然のことながら軍事専門家が研究の中心に参画しなければならない。
3.若い世代へ戦争の記憶を継承し、歴史的教訓への理解を促すためには、事実の解明にあたり、現地踏査・フィールドワークと学術的視点をもって、事象に科学の光をあてる姿勢が必要である。厳密かつ客観的な共同調査を実施していくことが重要である。

等々について問題提起を行った。

 スピーチは、15分以上にわたって行われ、中国語、モンゴル語、韓国語、ロシア語へ同時通訳された。
 当センターの今回の提案は、従来の731研究史の中では、相当異色かつ大胆な問題提起にも関わらず、会場からの反響はきわめて大きく、満場の拍手が返ってきた。そのなかでも本年春に実施した新手法を解説。人工衛星画像と旧軍資料から、過去の軍事遺構や陣地のデータ復元を行い、それをもとに、新しい遺構を発見した学術的成果を、大型作図図面を示しながら紹介した。一方で、旧軍の軍装サンプルを披露しつつ、遺物の収集ネットワークを通じて、「目で見て感じ取れる」戦争のイメージを大切にする必要があることを述べた。
 スピーチには、参加者と取材各報道機関が大きな関心を寄せた。とくに諸外国の軍事及び軍事博物館関係者は、軍事専門家を中心とした高度な技術集団が中心となって、未発見陣地を次々に発見・鑑定・確定していく手法について驚きの反応を示し、ブレイクタイムで多くの質問が寄せられた。
 

【二日目 分科会討議】
 分科会では、国境要塞と軍事問題研究セクターを代表して、「日中関係・労工問題研究会」で、日本側スピーチを担当した。
日中関係に関しては当センターから、以下の問題提起を行った。

1.日中関係に関しては、「政冷経熱」といわれる現状を悲観する必要はないこと。日米の経済、軍事、政治の全面にわたる基本関係構造の歴史的変化との連関からみれば、今日の日中関係は、成熟した国家関係へ移行する上で、必然的に経験せざるを得ない生みの苦しみとしての過渡期として位置づけられること。
2.今後、日中関係は大きく深く交わる方向へ変わらざるを得ないこと。政治のみならず経済及び金融分野を含めた様々な提携と協調体制の構築において、その過程では、改めて本格的な歴史認識の整理整頓作業が不可欠の要素となること。戦後60年以上歴史認識ではもめ続けているが、これからは、日本のニュートラルな一般国民が中心となってこれを解決する必要がある。これからが新たなスタートとなること。それは歴史的、かつ時代的要請であること。
3.日本が侵略戦争によって中国をはじめアジア民衆を苦しめた事実への人道主義的反省は不可欠かつ重要な大前提である。ただし、その記憶と教訓を日本で継承するには、戦後史における複雑な経過を前提にして、日本人同士の信頼関係とコンセンサスを構築する息の長い、冷静な取り組みが必要であること。
4.項目3を唯一可能にするのは、戦争の事実に関して、日中が共同して「科学的共通軸」に基づく「冷静な調査と忌憚のない議論」を畏れずに実施することへ踏み出すこと。
5.以上1〜4を基礎に日中のみならずアジア世界全体との信頼関係を進展させていくこと。

 軍事遺構をめぐる労工問題に関しては、「犠牲者の規模」などについて、誇張することなく論理的に明確にしなければならない。そのためには、「現地踏査と探査を基礎とした、確かな事実に基づいた科学的な解明作業」が必要であるとの問題提起を行い、時間を大幅に超過しつつ、活発な議論が交わされた。(後日報告予定)
 
 シンポジウムでは、各国を代表する研究機関から感謝牌が交換された。(写真)当センターは日本の軍事考古学研究機関を代表して、ハルピン市社会科学院に対し、731研究事業の発展と両国の平和友好を願う旨を掘り込んだ感謝牌を贈呈、ハルピン市社会科学院からは、当センターへ研究協力と今後の両国友好を願う同様の感謝牌が贈られ、相互交換となった。








731博物館の陶製爆弾の収蔵遺物を科学分析。
日本人研究者が戦後初めて、
同館遺物を調査・実測・鑑定。











 
 

 シンポジウムに先立って、当センターは、陶製兵器研究の専門家により、731博物館収蔵の最重要遺物の一つである細菌散布用の陶製爆弾破砕片の調査分析作業を計画、中国側へ保管区域への立ち入りを要請してきた。
 同館遺物の日本人による実測調査は過去前例がないため、ハルピン市社会科学院は、この間、関係各機関ときわめて慎重に協議し、その是非を含め、検討してきた。
 そして、9月19日、同館内遺物保管区域への当センター専門家の立ち入りに関して、人民政府から公式に許可がおり、直接機材を使用しての計測鑑定作業も認可された。
 日本人が731博物館館内の収蔵遺物を直接調査するのは歴史上初めてのことである。
 今後も継続的な調査が必要となる予定であるが、軍事及び兵器専門家の目を通せば、同館遺物からは、多くの未発見情報が読み取れる。
 分析結果の詳細は後日、学術論文で紹介する。




写真解説】(上から順に 左右配置部分は左から)
ハルピン市平房地区にある731部隊施設跡のボイラー遺構(左は、撮影する朝日新聞本社カメラマン日吉健吾氏 2008年4月)
731研究国際シンポジウム風景(最前列のみ撮影)
731研究所所長・金成民著『日本軍細菌戦』(黒龍江省人民出版社)
同上著書に収められいる当センターの調査風景(一部サイト構築上の都合により左右幅をトリミング)
731研究国際シンポジウムの分科会風景(一部)
当センターから哈尓浜市社会科学院へ贈呈した感謝牌
哈尓浜市社会科学院から当センターへ贈呈された感謝牌
731博物館旧館(バックヤード施設)で実地調査をする当センター調査班
同上の判定作業風景
ハルピン市街風景