059:グランドキャニオン


 荒涼とした大地に吹き荒ぶ乾いた風と、見渡す限り一面の侵食を受けた岩の連なり。
 そこは、大地の墓標。
 そして、圧倒的な力によって時間を毟り取られた弟妹達の墓標。
 進む足音につられて足下の岩盤の一部であったものが風に舞う。
 手にした花束すら散ってしまいそうな、そんな場所で 毎年のように顔を合わせる事になるなんて当の本人たちは露ほども予想していなかったのだけれども。


「やあ。今年も時間ぴったりだ」
「そっちこそ。たまには花以外の物でも持って来たらどうなんだ?オスカー」

 かつて共に研究所を席巻し、離れては敵対し、そしてお互いに大事にしていたものを失った仮初の兄弟の再会だった。
 アル・ボーエンは医学界に進み、オスカー・ブレンテンは生き残った極少数のチャペルの子供たちと共に生物化学界にその名を轟かせている。
 そんな彼らに深く残る痛みと悔恨の場所。

 グランドキャニオン


 切り立った岩壁から何百フィートも下を流れる緩い流れに花束を投げる。
 これは既に儀式のようだと―――二人とも心の中で呟いて。
 10年以上の月日を経過しても、かつての光景は近く、記憶は鮮明に。
 こんな時ばかりは自らの優秀すぎる脳組織を思い出し、唾棄してみたり。
 それでも確かに、彼らは此処に居たのだと、ここまでは共に歩んできたのだと。
 原点を回顧する。

 涙すら流れないのに。
 哀し過ぎて、弔いの言葉すら、未だ舌に乗せることが出来ないでいる。
 ただの感傷と割り切るには、やはり失い過ぎたのだと頭では理解して、心が付随していかない。
 元が不要だと切り捨てたものだけに尚更だ。

 呆然と落下中の花束を眺めながら、頭に過ぎるのは万有引力の法則とか。
 そんな事ばかりで溜息すら漏れない。
 仕様が無いのでオスカーが重い口を開いた。


「・・・まさか君が大学の講師をする気になるだなんて、みんな驚いていたよ。素で」
 視界に映ることは無い、花束の流れを目で追いながらオスカーは肩を竦めた。
「ちょっとした成り行きでね。引き受けざるを得なくなっただけさ」
 ふと、その成り行きの一端を思い出してアルは嘆息する。
 どこまでもトラブルメーカーな青年の顔が脳裏をよぎったからだ。
 あれだけコンプレックスだった身長では、ようやく勝利を収めたというのに。
 どこまでも離れられない線上に位置しているのだと、最近諦めをつけたばかりだった。
 周囲から見れば本当に今更で、会社を興した某女王様のご意見によれば『アンタ達端迷惑なのよ!法改正でもしてさっさと結婚しちゃいなさい!!』との事。
 なかなかご無体な発言に元いじめらっれ子のワールドストライカーが滝のような汗を流していたとかいないとか。
 とにかく、断るにはあまりにも周囲の声が大き過ぎた。
 近くでも、遠くでも。

「やってみればなかなか楽しかったりもするんだが・・・・・・、外野さえ居なければね」
 暗に講義を視察に来てはモーションを掛けてくる研究所陣を示しながら、今度は大袈裟なほどに溜息をついて見せた。
 何故なら、引き抜き陣営の中にはオスカー達の所属する研究所も含まれているからで。
 思わずオスカーは渋い顔をした。
 ここで謝るのは場違いな気もするが、聞き流すには相手が悪い。
「善処するよ」
 仕方が無いので逃げてみた。取り合えずの言い訳として、自分はまだ人事には関わっていないのだからと。
 その返答にアルの方は満足そうに10年前と変わらない含みのある笑みを向けた。
 10代になる前から彼が身につけていた、交渉取引用の底の見えない嫌な表情を浮かべている。 これは色々と知っている顔だと悟って、オスカーは早々に諸手揚げた。
「相変わらず情報が早いね」
 無能所長には辞任して頂く方向で話を進めているのだと、水面下の動きで。
「まぁ、有能なニュースソースが居るからね。情報は新鮮さが命さ」
 そうゆう所がまだ読みが甘い、と言外に嗜めながら。
 精々頑張って僕を煩わせないでくれと、笑うその横顔にオスカーは古い記憶を刺激された気がした。
 ふと思い出した、唯一の相棒になる弟以外で彼の横に立っていた人物の事を。

「そういえば、彼は元気なのかい?あの馬鹿な騎士さんは」
 多少の意趣返しを込めて言葉を返せば、今度はアルが苦い顔になる番だった。
「元気だよ。馬鹿だから」
 そう?と返せば、嫌そうに顔が顰められる。
「今日も試合があるそうだ。チケットもあるんだが・・・・・・・僕は行きたくないんだけどね」
 格闘技を見るのはモニター越しで十分だよ、と苦笑する裏側で溜息をつく赤毛の少年が見える。
 どうやら大きな進展は無いようだとオスカーは内心ガッツポーズを取るが、しかしそれも詮無いことよと自らを笑いつつ。
 2枚あるなら一緒に見に行こうと、話を振るタイミングを計りつつアルを促して踵を返した。



 きっと来年も繰り返される儀式のように、懐古しながら今を生きる。
 ただひたすら―――未来に向かって。










エート。ハイ。スミマセン。
折角のお題なのに全然生かしきれてません。
半年のブランクは長かったか〜〜!!(違ッ!)
・・・・ところでこれって・・・・・ハヤアル前提ブレアル未満??Σ(・□・|||)


←BACK