086:肩越し
「悪魔くんもココに一緒に住めば良いんだもーん!」



 その日一蕃の衝撃発言。
 発生源は百目。ターゲットは『悪魔くん』こと 埋れ木 真吾くん。
 ココ、とは当然 見えない学校in魔界。
 人間界より少し紅が強い月がチャームポイントの、多少澱みの多い世界の事だった。

 うわぁぁぁんっ!と声を張り上げて泣く百目の前で、悪魔くんは困ったような顔を浮かべてメフィスト二世を見やった。
 彼もまた、壁により掛かり眉根を寄せて腕を組んでいる。
 そのままの表情で口を開いた。
「―――百目。あんまり無理言うなよな」


 そう。
 それは簡単なようでありながら、何より難しい、彼らの問題であった。

















「ファウスト博士。
 やはり人間は魔界へ移住する事は出来ないのですか?」

 泣き止まない百目を鳥乙女や幽子に任せ、悪魔くんはファウスト博士との話し合いを始めていた。
 悪魔くん自身も考えていなかった訳ではない、魔界への移住の話。
 思いも掛けなかったところから浮上してきていたのだから、渡りに船とばかりに、これを機にじっくり腰を据えて相談しても
おかしくはないだろう。
 不自然に切り出して理由を聞かれるのは、ちょっと避けたかったから。

「そうじゃな。まず、現在の悪魔くんでは難しいと云えるじゃろうな」
 不可能ではない、が難しい。
 しかし、現にファウスト博士は見えない学校で生活している。
 ―――不可能ではないのだ。
 既に数百年を生きている博士を前提に考えるのは気が遠くなる気もするが。
 表情の下でグルグルと考察を繰り返しながら、彼は次の言葉を待つ。
「確かに最近は頻繁にこちらにきておったからのう。元々迷い込み易くはあったのじゃろうが、それでもまだ耐性は作られて
おらんようじゃ」
 ゆっくりと目を覗き込むような動きの後、博士はそう告げた。
「耐性・・・ですか」
 溜息をつくように反応が漏れる。
 姿形はこんなにも似ているのに、彼等とは違うモノなのだ、と胸の奥に澱が溜まる。
 嫉妬ではなく、妬みでもなく。
 ただ 羨望という名の欲が身の内を焼いていく。



 ―――何故、誰よりも彼の近くに居られないのか・・・・と。











 カチャリ、とドアを開け校長室を出れば 何時から居たのかタイミング良く黒衣が翻った。
「あんまり思い詰めんなよ?悪魔くんの悪い癖だからな」
 悪戯っ子のように口元に笑みを浮かべて、メフィスト二世は手にしたステッキで帽子の鍔を押し上げる。


 灯りの乏しい煉瓦造りの廊下で、蝋燭の僅かな光の下 緩やかに広がるマントと、彼を象徴するタキシードとシルクハット。
 手には白い手袋をし、いつ見ても誰が見てもその姿は貴族然としている。
 仕様がない。
 彼は文字通り魔界の上流貴族。
 名門中の名門、メフィスト家の嫡男なのだから。


 ・・・・第一使徒とはいっても、何だか身分の違いを感じるよね・・・・。



 しかし、そんな悪魔くんの胸の内など全く気付かぬ様子でメフィスト二世は肩を竦める。
 一応こんな態度でも心配してくれているのだ、と微かに顔を綻ばせて、
「うん。気を付けるよ」
 と答えれば、
「ウソツケ。もう無理してるってーの。 顔、ぎこちねーぞ?」
 と返されるモノだから。


 また、自惚れてしまうよ?


 心の中でそう呟いて。
 思わず破顔しても誰にも責められはしないはずだ。
「僕の表情をそうやって見分けられるのは、君ぐらいだよ」
 吃驚したように目を見張る二世の腕を掴んで引き寄せて、驚きのあまり抵抗しない彼を抱き寄せて。
 勢いづいて合わせた唇は、悪魔くんが想像していたよりもずっと柔らかかった。
 角度を変えて口内を探れば、微かに震える舌先と犬歯が舌に当たる。
 風呂敷マントごと腕を掴みながらも、押し遣る事も出来ずに当惑する二世を壁に押しつけて、貪るように呼吸を奪う。
 悪魔くんのマントを掴む手が、やがて縋る腕に変わる頃には二世の腰は完全にくだけていた。
 名残惜しげに上顎を舐め上げて、ビクリと反応する体を愛おしげに抱きしめる。


「二世・・・・あんまり僕を甘やかさないでね―――つけ込んじゃうよ?」
 語尾は溜息のように。
 床にへたり込みそうになる二世の肩に顎を乗せて、肩越しに悪魔くんは空虚な通路へ向かって嘯いた。


『僕の方が君よりずっと悪魔らしい』











ゴメソ・・・・・・・。
ダイインッグメッセージ↑     



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