12年目の祝福



 ――2月15日
 アル・ボーエン
 ジェフ・ボーエン
 12歳の誕生日。


 だからどうしたというのだろう。
 アルは級友からプレゼントを受け取りつつつらつらと考えていた。
 誕生日など所詮は細胞の老化を年々数えているようなものだ。
 なのに何故こんなに騒ぐのだろう、と。
「アル君お誕生日おめでとう!」
「おめでとうございます」
「バレンタインの翌日だなんて、憶えやすいよね」
「立て続けに大荷物だな」
 周囲が口々に意見を述べる。
 軽く謝礼を返しながら今日の放課後を思って嘆息した。
 この調子だと、きっと今日もキャロルに手伝って貰うことになりそうだ。





 誕生日の思い出。
 家族で祝うことが出来たのは片手で足りる程度しかない。
 パパもママもジェフも。
 もう居なくて。
 誕生日には、プレゼントを貰えるということすら忘れていた。
 とは言え、父親からのプレゼントは当時から学術書とかそんなものだった気がする。
 アルとしてはそれが嬉しかったのだけど。
 それすらもなくなって。
 エグリゴリに入った頃には年を取る事なんて大した意味はなくなっていた。
 多少意見の通りが変わるだけで。

 誕生日そのものの捉え方も変わってきていた。
 細胞の劣化。
 分裂によるテロメアの減少。
 自然死に近ずく目盛り。
 季節を感じることもない、モノクロームのビルの内壁と研究室。
 そんな詰めたい箱の中で、誕生日を実感した出来事があった。

『おめでとう!また一歩冥土へ近づいたね!!』
 その昔、誰だったかそんなことを言ってきたヤツが居た。
 恐らくはエグリゴリで働いていた研究者の一人だっただろうけど。
 名前も顔も思い出せないが、アルとジェフの能力を認めつつもからかうことを止めなかった珍しい人。
 確かその日も誕生日で、アルはジェフにおめでとうと言っていたのを聞かれたのだ。
『君達は双子だから、一方に『おめでとう』って言うのは、自分に『おめでとう』って言ってるのと同じみたいだね』
 そう言って嫌がる二人の髪を一頻り掻き混ぜた後、小箱を渡してくれた。
 びっくり箱だったけど。
 驚いて硬直するジェフを見て、腹を抱えて笑っていた。
 何となく腹立たしく感じてアルが箱を投げつけたら、お詫びだと言って手渡された年代物のCD。それはメジャーではなかったけれど、とても耳に馴染んだ良い曲だった。
 思えば、あれが唯一誕生日だったと感じた日だった気がする。

 次の年に彼は実験中の事故で死んでしまったけれど。
 ジェフはそのCDをかなり大切にしていた。
 それはアルも同じで。MDとCD−ROMにコピーして今でも大切に持っている。
 今では、それが一番強いジェフとの繋がり。

 一緒に誕生日を迎えたかった。
 こんなに落ち着いた記念すべき日を。
 暖かな温もりに包まれた、自分たちの祝福された日を。

 同じ血の楔を背負って生きていくつもりだったのに。
 半身を引き裂かれて、それでも生きていく道を選んだのは間違いではなかったのかと、つくづく思う。
 特にこんな日は。
 傍らに温もりがないことを痛感する。

「ここにいるのは僕じゃなかったかもしれない」
 仮定。
「もしかしたら、ジェフだったかもしれない」
 過去に『もしも』なんてない。
 それでも口を突いて出るのは、科学者としてのアルが常に否定し続けている言葉。
 後悔している。
 ちょっと語弊があるかもしれないけれど。
 窓から遠く月を見上げる。
 離れてしまった温もりを思って。

「だとしたら、俺もここには居なかったかもな」
 言葉とともに大きな手が視界を遮る。
 冴え冴えとした月の光の変わりに、瞼に浸透する肌の暖かさ。
 迂闊にも鼻の奥が痛くなって、身じろぎすら出来なくなる。
「選ばれて生まれてきたのに?君は多くの者を救っただろう?僕は多くのモノを消してきた。僕は居ない方が良かったんじゃないか――」
「そうか?俺はお前が生まれてきてくれてスゲー嬉しいけどな」
 腰を抱かれて引き込まれる。
 言葉を遮られても、不快には思わない。
 アルに、存在しても良いんだと囁きかける存在は確かにここにあって。
 包み込むような温もりがアルを満たす。

 軽い笑いと、差し出されるプレゼント。
「Happy Birthday アル」






 ―――何よりもその言葉が嬉しかった。






終わり。
3日連続企画小説(マジですか?)これにて終幕。
スミマセン、挫折気味ですね。
歯切れ悪くて申し訳ない(´Д`)ノ


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