- HAPPY MERRY CHRISTMAS - 


 ――12月24日 クリスマスイヴ――

「じゃ、もう夜も遅いし、僕たちもう帰るよ」
 武士がコートを着込む。
 それに習って、涼と恵、ユーゴーも衣を正し、各自手元の皿をまとめ始めた。
「もう帰るのか?まだ良いじゃねーか」
「そうもいかないよ。女の子も居るんだし、ちゃんと送っていかないとね。
第一、アルが凄く眠そうだよ」

 シャンパングラスを傾ける隼人に、武士は苦笑しつつアルを盗み見た。
 うつらうつらしながら隼人に肩を預ける姿など、平常のアルなら決して見せはしない。
「あぁ・・・・そうか。コイツも何だかんだで忙しい奴だからな」
 隼人はサラサラと流れる猫毛を梳きながら、微かに微笑みを浮かべる。
 誰にともなく呟く言葉は、ぶっきらぼうではあるが声は優しい。
 玄関まで送りに行くことは出来ないが、どうせ明日も会うだろうしという思いがそれぞれの
胸の内に無かったわけでもない。

 他のメンバーもその事は良く知っているから、寝た子を起こさないようにその場で別れの
挨拶を交わした。

「ほらっ!遊んでないで行くわよ武士!」
 恵に急かされて、慌てて踵を返した武士だったが、隼人の送りオオカミになるなよ、との
一言に盛大にコケて見せたというのは余談だろう。


「さて、片づけは明日にでもするかな・・・・」
 使った物を粗方流しにまとめて、軽くため息。
 実際、今日は慌ただしかったし、それなりに浮かれ騒いで忘れていたが、アルは忙しかった。
 夕方までは今日のパーティー用の時間を作るために、アルが研究所から離れられず、結局
2人きりの時間がなかった。

 折角のクリスマスだからと全員で集まってはみたものの、料理を作ったのもやはりアルだった。
「料理のレパートリー多すぎるんだよ」
 当然それば自分のためであると知っているからこそ何も言えなかったし、そうでなくても
言うつもりは無かった。

 アルの探求心が留まるところがないということは、彼を引き取ってすぐ知ったことの一つであったし、
今日のそれは自分に対する謝罪の意味もあったのだろうという自意識過剰なことも考えてみたりもした。

 自惚れても良いのか?俺は。
 声にならない声で問いかけて、既に熟睡気味の少年の頬を指先でつつく。
「・・・・んぅ〜〜」
 微かな身じろぎに、起こしたかもしれないと慌てるが、どうやら杞憂のようで。
 起こさないように気を配りつつ小さな身体を抱きかかえる。
 晒された喉に瞬間ドキリとするが、最大の自制心で欲望を押さえ込み、何とか布団へ入れる
ことに成功した。

「まいるよなぁ・・・・。なぁ、お前って本当に俺のこと好きなのか?」
 闇に吸い込まれる問いかけ。
 相手が起きていないからこそ口に出せる言葉。
 “本当は嫌いだ”なんて言われたら目も当てられない。
 確信の持てない辛さが胸のうちに滲み出してきそうで――聖前夜に浮かれる町中のカップルに
軽い嫉妬のような感情を持て余してみたりもする。

 なぁ、お前は俺のことどう思ってるんだ?
 今度は声にも出さず。
 夜の帳に紛れて口だけを動かしてみて――聞こえない問いかけ。
 自分のやっていることに恥ずかしさを感じて、隼人もそそくさと布団に潜り込む。
 出来れば同じ布団に入りたいなどと不埒な事も考えつつ、深い眠りへと落ちていった。


「・・・・・・・・・・寝たか?」
 呟きは冷たい空気に溶ける。
 微かに首を巡らせて、隼人が起きていないことを確認すると静かに布団から出た。
 予想外の寒さに、意識が覚醒していく感覚が心地良い。
 枕元に畳んであったセーターに袖を通して、一息ついてからゆっくりと隼人の顔を覗き込む。
「独り言が多いぞ・・・・バカ」
 困ったように囁いて、隼人は寝た振りではないことを確認する。
 とは言えアルとて狸寝入りをしているつもりはなかった。
 ただ――眠りが浅くて全部夢物語に聞いてしまっただけなのだから。
「僕が・・・・・好きでもない奴の傍に、こうして留まるような性格かどうか知らない訳じゃないだろう?」
 長くはない。しかし決して短くもない時間を共に過ごしていながら、何故まだ不安になるのか。
 自分が隼人ほど思いを口にしないからか?
 しかし、自分が隼人にベッタリまとわりついている所を想像してちょっと違和感に悩まされる。
 自分には今のスタンスが合っていると思うし、隼人も今の生活を維持しなければならないと思う。
 その為に、23.24日と無理をして作業を済ませてきたのだから。
「明日は1日フリーにしたんだからな。ちゃんと僕の相手をしろよ、隼人」
 言って額に軽くキスを落とす。
 顔が真っ赤になるのを自覚しつつ、布団を頭まで被る。
 ――慣れないことはするもんじゃないな・・・・。
 多少の経験学習もこなしつつ、隼人への思いを今のキスに込めた。

 願わくばサンタが二人の思いをプレゼントしてくれますように――――


【Fin】


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