−後日談−




 カーテンの隙間から射し込む朝日に、否応なく意識が引き起こされて、目が覚める。
「・・・・?」
 起こそうとした上半身が力強い腕に拘束されているのに気が付いて、アルは微かに笑った。

 『俺はお前から離れたりしないから』

 落ち行く意識の端で、それでもハッキリと捉えた言葉。
 厳粛なる誓いのようで。
 それでいて、失った何かを埋め込まれたような感覚が四肢に満ちる。

 必要とされているのだと、実感できる瞬間。


 何気なしに眠る隼人の顔を覗き込む。
 まだ子供っぽさが抜けきってはいないが、アルよりはずっと大人びた顔つき。
 精悍な面立ちをしている。

「何を考えてるんだ僕は・・・!」
 小声で自分を叱咤しつつ、隼人を起こさないように布団から抜け出る。

 妙に男くさく感じて照れただなんて・・・・・。 
 いつまでも寝ぼけているから変なことを考えてしまうんだ。きっとそうだ。

 心の中でそう強く自分に言い聞かせると、アルはパタパタと階段を下りた。

 洗面所で冷たい水を手に取る。
 そのままザバザバと顔を洗う。
 その手が正面の鏡を見て、止まった。
 目の端から頬にかけてが微かに引きつった感じを指に伝える。

 ―――涙の跡。

 うろ覚えだが、昨晩隼人の前で涙を見せたことだけは確かなようだ。
 今までの自分には絶対無かったこと。
 ・・・・他人に弱みを見せるなんて。
 半身であるジェフにすら泣き顔なんて見せたことはなかった。
 年相応の顔ですら、二人だけの秘密。
 『強くならなくては』『自分が守らなければ』その思いだけで今まで踏みとどまって来た。
 大人ばかりの、敵ばかりの集団の中で喰いモノにされないためには、とにかく自分の足で立つことが必要だったからだ。

 ジェフはあれでいて結構神経質だったから。

 思い出せば不覚にも鼻の奥が痛くなる。
 唇を噛み締めて、タオルを握り込めば白くなった指先が微かに痺れる。

 それでも、懐かしいものとして双子の兄弟のことを思い出せるようになった、変化。
 何に起因しているかは知っている。
 ただ認めたくないだけ。
 とてもとても悔しいことだから。
 そして同時に、離れがたい誘惑を感じてしまうから。

「いつまでそこで固まってる気だ?」
「・・・・・・・・・・・五月蠅い」
 背後から突然掛けられた声に情けなくも肩が震えて、口を突いて出たのはいつもの悪態。
 見られた、という思いでとてもじゃないがアルは隼人の顔なんて見れなかった。
 タオルで軽く垂れる水を拭って目を閉じる。

 俯き加減で顔を隠しながらすれ違いかけて―――
ポンッと頭に置かれた掌。

「オハヨーゴザイマス」
 挨拶は?といわんばかりの言い方にカチンときた。
「オハヨウゴザイマス!!」
 振り払うように答えて睨み付ければ、意地の悪い笑みが浮かぶ。

 あぁまったくこの男は!!

 寝ているときの精悍さなど欠片も感じられない。
 一時の幻であったかのように払拭されかけた記憶は、不意に鮮明なものになった。

「離れねぇって、約束しただろ。明日からはキチンと声掛けて行けよな」
 笑顔でありながら、その瞳に宿る光を。
 昨夜の痴態を思い出して一気に首まで赤くなった気がする。

 忘れてやるから、といわれて胸を借りたことを。
 あわせられた唇の暖かさを。
 抱き込まれた腕の力強さを。

 それらを全て振り払うように踵を返してアルは叫んだ。



「凡人に付き合うほど暇じゃない!」





【END】



隼人全然男らしくナイネー。
アル全然別人ダタネー。
・・・・・・お待たせしたくせにこんなんで。
・・・・・ゴメンナサイ(脱兎)



←BACK