NEVER END

 キラキラと光る街並み。
 この時期を目指して設置された数々の光の源が一斉に街を埋め尽くす。

 気が付けばもう、一年が終わろうとしていた。




 カレンダーを眺めつつ紅茶を入れる。
 何だかんだで一年が過ぎ去っていく。
 特別な意味を持たせようとする20世紀の終わり。
 新世紀の始まりで、何が変わるわけでもないのに。
 そう思ったからカレンダーを眺めていた。
 所詮アルにとっては形式上の区切りにしか過ぎない。
「いつまで経っても革変は起こらない・・・か」
 手元を見れば紅茶が溢れ掛けていた。

「じじい今日はトメさん宅に行くってよ」
 和風の居間で紅茶を嗜む。
 隼人から見れば違和感を禁じ得ないが、アルにしてみれば座敷に直に座るなんて非常識、といったところだ。

「あぁ、もう聞いてる。・・・・おかえり」
 こくりと頷いて、思い出したように付け加えた。
「ただいま」
 挨拶もそこそこ。
 居間に腰を落ち着かせつつ、隼人はジャケットを脱ぐ。
 外はよっぽど寒かったらしくアルの入れた番茶を幸せそうに飲んでいた。
 火傷とかいう概念は隼人にはないらしい。
 猫舌のアルは多少羨ましくも感じつつ、ティーカップを掌で包み込んだ。

 じわりとした暖かさ。
 掌から前身に染みわたるような。
 優しい暖かみ。

 ふと、顔を上げると視線がかち合う。
 見つめられることには、何となく免疫が出来けれど、今でもアルの頬は少し朱に染まる。
「君の方こそ何処に行ってたんだ?朝早くから」
 照れながら、思っていたことを口走ってしまった。

 寂しかったわけではないけど。
 早朝ちょっとした用事で出掛けている間に隼人は姿を消していて。
 昼過ぎには重三爺さんも出掛けてしまって。

 新宮家は、一人で過ごすには広すぎる。
 そんな、印象。
 今までアルが居たどんな研究所よりも狭いはずなのに。
 感じる孤独感は桁違いで。
 困惑した。

「あ。俺か?んー・・・・ナイショ」
「・・・気持ち悪・・・」
「なに!?」
 寂しかったんだ、という言葉は浮かんでこなかった。
 単なる疑問として吐きだした言葉は胡乱げにはぐらかされる。
 隼人は行動も言葉も単純だから、たまに濁すとろくな事がない。
 アルの経験はそういっていた。

 だけど今日はクリスマスイブだ。
 一応『恋人』同士であるアルを放っておいて何をしていたのか。
 気にならないわけでもない。
 むしろ表面に出さない分、アルの胸中は穏やかではなかった。

 心配と、不安。
 綯い交ぜになった感情の渦に、気分が悪くなる。
 今までは必要なかった感情だったから。余計に。
 隼人と行動を共にするようになってからは、隼人の方がアルから離れなかったから。
 受け身で良かった。
 必要とされている安心感。
 ・・・・・だけど。
 不安。
 心配。

 ―――何に対して? 


 もし隼人が離れていったらどうしよう。

 そこまで考えてしまって、苦しかった。
 だから隼人が帰ってきてくれたことに安堵して、思わず出迎えの言葉が遅れてしまったほどだ。
 だからアルの言葉に隼人が過剰反応したときは、嬉しかった。
 些細なことでも嬉しい。
 初めて覚えた感情。

 隼人と一緒に、居たい。


「なぁ。夕方になったら、街に出てみねぇ?」
 真摯な目で見つめられる。
「・・・・いい、けど」
 紅潮した顔に気付かれないよう、横を向く。
 おう。と相づちを打って隼人はそのまま座敷に寝っ転がった。
 フローリングではないとはいえ、季節は冬。
 そのまま寝てしまえば風邪をひくことは火を見るより明らかだ。

 軽く溜息をついて、声を掛ける。
「そんなコトしてると風邪・・・・・ひくわけ無いか。君は馬鹿だからな」
 忠告し掛けて、止めた。
 何となくアルばかりが気に掛けるのも悔しい。

「じゃ、こうすれば寒くねーな」
「ぅわ!」
 言うと同時に隼人はアルを抱え込んで再び畳の上へと転がる。
 危うく頭を打ちそうになったアルは慌てて手をつくが、お構いなしに抱き込まれて・・・・・・・抵抗を止めた。
 どうせ隼人相手に暴れても無駄なのだから。
 有事には当然抵抗するけど・・・・というのが本心だけれど。
 暖かいことは確かだった。


「後2時間ぐらいしたらな、街道がライトアップされるんだってよ」
 その手伝いに呼ばれていたのだと。
 突然の連絡でアルにも重三爺さんにも伝言する暇が無く出掛けたことに対して、隼人は謝罪を呟く。
 アルの方は別に怒っているわけではないが、改めて謝罪されれば悪い気はしない。
「それを見に行くのか?」
「毎年スゲーんだ。今までは行ってなかったんだけど、今年はお前が居るから、ちょっと手伝いも力入っちまって・・・疲れた」
「・・・馬鹿だな」
「おう」
 苦笑混じりの呟きは、微睡み掛けた声になって戻ってきた。
 抱きしめられた背中の暖かさは、紅茶のカップよりも穏やかに伝わってくる。

 今日は、僕から手を握ってみようか。


 20世紀最後の挑戦。
 21世紀へ続く架け橋。



 隼人がアルのために飾ったライトの下で。

 終わらない恋をしよう。





世界中のみんなへ幸せのお裾分け。

A Merry Christmas to you!