仮定少年

− 少年 アルの未来予測 −



 一難去ってまた一難。
 日常的に平和ボケしている凡人共には判らないだろうけど。

 軍事企業がまたぞろざわついている。
 エグリゴリもアレで潰れたとは思えない。
 だからきっとまた何かが起こる。

 そんな未来予測。
 『予感』なんて曖昧なものは信じない。確率論的な予測。


「ねぇアル・・・・私、何だか嫌な予感がするの・・・・」
 キャロルが不安に瞳を揺らしている。
 二日振りに顔を出した学校の帰宅途中で、彼女は突然呟いた。
 ただの予感にしては断定感が強い発言だと思うけど。
「・・・・君は知らなくて良い」
 そう、何も。
 けれど口に出した後、後悔した。
 この言い方じゃ何かあると言っているようなものだ。
 しかしキャロルは納得したように小さく頷いて再び歩き始めた。

 あぁ。
 またきっと血腥いことが起こる。


 そしてまた今日も学校をサボった。
 隼人達にバレないようにカバンを持って普通に家を出る。
 キャロルには口止めをしておいて、ブルーメンの工作員と落ち合って・・・・。

 薬品臭と金属同士が接触する音が懐かしい。
 袖を通した白衣は既に着慣れたもの。

 足を洗ったつもりだった兵器開発は、胸の内を焼き付かせるほど心躍る行為だった。

 短い時間をやりくりして、新開発の兵器を大量生産する。
 今は亡きDr.サミュエルから譲り受けたデータと、オスカーから預かったCD−ROMのデータから僕なりに解析した対ARMS用の兵器を。
 生身の人間でもARMSに渡り合えるだけの威力のものを。

 ブルーメンの面々はあの4人を今度の戦いに巻き込む気はないと口にしているが、そんな言い分をアイツ等が飲むものか。
 きっと誰が言い出さなくても戦火に飛び込んでいくんだろうから。

 今度の戦いには、きっと僕は同行出来ないだろう。
 そのぐらいは判っている。
 オリジナル4人のARMSが完全に沈黙を守っている今、あの馬鹿共が僕が戦線に赴くことを了承するわけがない。

 だったら―――

 知恵が貸せないなら、技術を託せばいい。
 直にアイツ等に渡さなくても確実に手渡されるだろう方法を選択すれば良い 。
 それが僕なりの発想の転換。

 自分の与り知らぬ所で事態が進行していくことに不安がない訳じゃない。
 キャロルが時折こちらを見つめてくることぐらい、とっくに気付いていた。
 あれは『不安』を湛えた視線。
 僕を通してあの馬鹿を。
 あの馬鹿を通して僕のことを。


 ついて行けないことに不満を感じている場合じゃない。
 僕には僕なりの戦い方がある。
 僕にはこっちでしなきゃ行けないことがある。
 だからあの4人の現在の動きは見て見ぬ振りをする。
 そうでもしないとブルーメンには筒抜けになってしまうだろうから。
 せめてもの贈り物。


 最後の決戦に向けてざわつくブルーメン本部の一室で、ブルーと李の前にコンテナに入ったパラライズ・ガンを運び込ませる。
「これが今度の作戦に使用申請書を上げた対ARMS用の武器だ」
 実践投入用にメンテナンスした一丁を李の掌中に投げ込む。
 それはそのまま彼女の手からブルーに渡り、細部までチェックが入った。
「協力を感謝するよ、アル君。これで少しでも犠牲を減らせられる事を願おう」
 再びそれが李の手元に戻り、腰のホルスターへと収まった。
 どうやら緊急採用に至ったようだ。
「好きでやったことだから別に感謝なんて要らないね。一応ヘリにはそれなりの量を運ぶよう指示を回してるから、後でそっちもチェックしてみる事をオススメするよ」
 ブルーからの感謝に僕は肩を竦めて踵を返した。
 もしここで恵にでも出くわしたら何を言われるか判ったモンじゃない。
 あぁ、そういえば恵は既にカツミと同居を初始めて、ここには居ないんだったっけ。
 不安材料をひとつづつ消しながら扉に手を掛けた。
「手際の良いことだな。これが却下されるとは考えなかったのかい?」
 重い扉を押し開いたところで、背後から声が掛かった。
 ブルーの発言に、僕は振り返ることなく宣告を下した。

「天才の作品だからね」

 1人分開いた扉の間をするりと抜けて、光の差す廊下を1人静かに歩き出す。


 取り敢えず一段落。
 これから動くであろう戦局に目を向けつつ、僕は僕の成すべき事をなそう。


「アルー!隼人お兄ちゃん行っちゃったよ〜?良いの!?」
 今の障子に手を掛けて、キャロルが今日も元気に喚いている。
「知ってる。僕もやらなきゃ行けないことがあるんだ」
 垣根の向こうを通り過ぎていくあの馬鹿には振り向くことなく、僕は手元のモニターに視線を落とす。

 今朝、じーさんと稽古をつけてもらってズタボロになった顔の隼人と挨拶は交わした。
 本当に簡単に。
「じゃ、行って来るぜ」
「勝手に行け」
「冷てぇ!ちゃんと大人しく待ってろよクソガキ!!」
「待っててやるからさっさと行って済ませて来い。馬鹿」
 軽く手を叩き合い、サヨナラ代わりのバードキス。

 最悪なんて考えない。
 何もかもを綺麗サッパリ終わらせて笑いながら帰ってくる。
 それが僕の未来予測。



推定少女  −少女 キャロルの恐怖−

決定青年  −青年 隼人の現状把握−



一歩前へ