崩れ掛けの町を走る。
 膝が笑っても構わなかった。
 こんな恐怖は初めてで、恐慌すら起こし掛けていた。
「やめろ、スティンガー!!」
 オリジナルの一体ともつれ合って教会を破壊していくスティンガーの背に悲鳴のような叫びを
投げ付けた。
 けれど、拒否された。
 スティンガーが何を考えているかは分からないが発した言葉が全ての思いではないことぐらいは
読み取れる。

 ダメだダメだダメだ!!
 パパもママも僕を裏切って、エグリゴリは僕らを手駒にして、アルまで僕らから離れていって―――
「お前まで失ってしまったら僕は・・・僕は・・・・・・・っ」
 恐怖も絶望も凍る。
 壊れたレコードのように舌を縺れさせる僕を覆うように巨大な影が降って、頭上を
見上げれば教会の十字架が見えた。
 喉が引きつって悲鳴は出なかった。
 代わりにスティンガーの絶叫が耳に届いく。




「オスカー?気が付いたのね・・・良かった・・・・・・・!!」
 眩しくて目を開けられないが、シャーリーの声と幾つかの影がぼんやりと見える。
 次に目を開けたら、いつもの研究室だった。
 覚醒しきれない脳と身体を叱咤して室内を見回せば、ほぼ全員のチャペルの子供達が集まって
項垂れていた。

 陰鬱とした空気が広まって渦を巻いている。
「僕達どうなるのかな?」
「決まってるでしょ。敗者には死か屈辱か、よ」
「捕虜になったって誰も助けてなんかくれないよ。エグリゴリには見捨てられる。
僕らは捨て駒だもの」
「こんな所で終わるだなんて!」
「ちくしょう!!」
 口々に罵声が飛ぶ。

 そうだ。僕達は負けたんだ。
 敗者にはそれなりの扱いがある。
 悔しさに唇を噛み締めれば血の味がした。
 ひとまず身体を起こして座り直す。
 体制を整えた僕を見て、シャーリーが苦々しげに口を開いく。
「アイツ等はアザゼルを見ているわ。多分・・・・・・アルも一緒よ」
「アルが・・・・・・」
「その内ここに来るでしょうけど・・・・・」
 僕の呟きは聞こえなかったのか、溜め息と共に彼女はそれだけを言い捨てた。




「・・・・・・・・・」
 アルが部屋を訪れたとき、既にみんなが諦めに似た感情を抱えて座り込んでいた。
 誰一人顔を上げはしないが、アルが僕らを睥睨していることは容易に理解出来る。
「なんのつもりだ、オスカー!?」
「・・・決まってるだろ・・・・僕達は敗者なんだぞ・・・」
 眉間に皺を寄せて不快そうに喋るから、改めて自分の立場を突き付けて見せた。
 しかしアルの冷たい目は変わらない。
 そういう所は全然変わってないくせに。
 どうして君だけ立場が違っているのか。
 あるいは、今も君はチャペルの子供時代の『卑下する目』をしているだけなのか?

 僕の思案を余所に、何人かが口を開いた。
「捕虜は監禁するか、殺すものだろう!?」
「ふん、さっさと殺すがいいわ!!」
 一瞬の間が空く。

 ガンッ
 ゴンッ
 ギンッ

 堅い音と共に、脳天を直撃した激痛が走る。
 とてもじゃないが声なんて挙げられなかった。
 頭を抱え込んで痛みの沈静を計る。
 だけど、反射で浮かぶ涙まではどうにもならなかったようだ。

「い・・・・いったーい、なにすんのよ!!」
 いち早く立ち直ったシャーリーが非難の声を挙げた。
 隣で蹲るジーンに至っては涙も出ないほど痛かったらしい。
 他のメンバーもアルのいきなりの暴挙に驚いて声も出ないようだ。
「言っただろう、馬鹿は殴らなきゃ分からないって・・・・」
 反面、僕らの前に立つアルの口からは溜息混じりの言葉が溢れていた。
 かつて君が見ていた視界を自ら打ち砕くような言葉と、考えられないような内容。
 何がそんなに君を変えてしまったのか。
 どうしようもないコドモに言い聞かせるような、表情をして。
 だけど君は、いつかと変わらぬ嫌味を残して扉の奥へ消えてしまった。

「な・・・なんだよ」
 廊下から微かに声が聞こえる。
 一体誰が待っていたのだろう。
 そいつが君を変えてしまったのかい、アル?
 オリジナル共にハウンドが負けた時より、この敗北感の方が強かったと言ったら、君は嗤うのだろうか。



To be continue ....
←BACK