| 女の子の祭典 |
「はいっアル!昨日はありがとね」 目の前に差し出された包みにはピンクのリボンが架けられている。 視線を交差させれば、何が楽しいのか満面の笑みを浮かべた制服姿のキャロルが隣に座り込んでいた。 「いや・・・うん、ありがとう」 キーボードを叩く手を止めて受け取れば、一層破顔されて。 アルはちょっと驚いた。 ・・・・・・・何なんだ? 正直、バレンタインの習慣など日本に来てから初めて知ったようなモノである。 両親が健在の頃もチョコレートを貰ったような経験はない。 チャペルの子供達に組み込まれてからは、余計にそういう世俗的な習慣とは縁遠くなって。 去年隼人にチョコレートを強請られて初めて知った異様な盛り上がり。 これから学校だというのに、このハイテンションが周囲で繰り広げられるのかと思うと、流石にちょっと気が重いアルだった。 「おっす、アル!これD組の坂本からお前にってよ」 「僕に?」 下駄箱に入っていた一抱えの包みを教室の机に積み上げて、一息付いたら挨拶とともに押しつけられた可愛い包み。 「何だかんだでお前も人気あるよなー。ちょっとムカツクぞ」 ケラケラと笑いながら席に着いた男子の一人が机の中を指さした。 つられて視線を下げれば、詰め込まれた小さめの包みに気が付いた。 しかも一つではない。 さらに机の上に積めば、出てきたのは5箱。 反対にアルから出たのは深い溜息だった。 休憩時間に立て続けに呼び出され、別の時間には数人の女の子に取り囲まれ。 端から見れば羨ましい光景でも、当人にしてみればある種の拷問にすぎない。 そうこうして放課後までにはアルの眉間にしわが寄るほどの量がロッカーの内外に積まれる事となった。 「手伝ってあげるから、一袋かしなさいよ」 気を利かせた友人から借りた袋に、無理矢理詰め込んだ状態で3袋。 かなり悲惨な光景にキャロルが苦笑半分で助け船を出した。 あまり気が進まなくはあったが、現状を鑑みて渋々一袋手渡す。 受け取った少女もその重さにちょっと驚いたように目を見張って、とりあえず家路へ急ぐことにした。 「はー・・・・・スゲェな、ガキ」 「五月蠅い馬鹿」 半ば癖のように切り返して、袋の中身を眺めた。 帰宅早々キャロルはユーゴーの所へ行くと言って出かけ、入れ替わりに隼人が帰ってきたがその手にはやはり紙袋を抱えていて。 我知らずアルが不機嫌になったことなど誰も気づかない。 何となく胸が悪い気がしたが、原因を思いつかなかったために、本人ですら黙殺するような感じだったからだ。 「毎年それだけのチョコをどう始末しているんだ、お前は」 「・・・・・・・・・食う・・・かな?」 「この量をか!?」 ただ眺めているだけでは埒があかないので、ひとまず解決策を練ることにした。 が、肝心の参考意見は何の役にも立たなかった。 食べる心意気があるだけ隼人は楽で良い。 しかし、甘いモノがさほど得意ではないアルにしてみればそれはとても出来ない選択だ。 一年掛けても食べ終わるかどうか・・・・・、考えただけでアルの気は遠くなる。 「だってよ・・・・・義理ならまだしも、手紙付きとかってヤツは勇気要るじゃねーか」 頭を抱えたアルに、隼人はぽつりと呟いた。 隼人は結構気持ちを大事にする傾向が強い。 多分それは重三の影響が強いのだろうけど。 「ま、俺が本当に欲しいのはこの中にはねーんだけどな」 独り言のつもりで言ったのだろうが、十分すぎるほどにアルの耳に入った隼人の言葉。 続く溜息。 さらに続くアルの溜息。 軽い沈黙が降りる。 お互い今更のように繰り返している遣り取りなので重苦しいムードにはならない。 「・・・・・・ちょっと」 沈黙を破るように短く断りを入れて、アルは台所へと足を向けた。 冷蔵庫を開けて、中にあった袋を取り出す。 そのまま居間に戻って、振り向いた隼人に投げつけた。 「お・・・おい、コレ!?」 受け取ったモノを見て隼人が泡食ったように狼狽える。 「義理だからな。昨日料理教室を開いたついでの産物だからな!」 隼人の狼狽ぶりに触発されてアルも慌てたように言葉を投げつけた。 しかしその顔は、予想外の出来事に赤く染まっている。 説得力はなかった。 「おう!分かってる分かってる!」 まったく判ってない様子で笑う隼人。 そんな微笑ましい二人の遣り取りを、遠くから眺めていた3つの影を知る者はいない。 「隼人お兄ちゃんの馬鹿!今がチャンスなのに!!」 「甲斐性無いからねー、隼人って」 「でも、明日はアルの誕生日ですから。勝負は持ち越しかもしれませんよ?」 遠くのビルから望遠鏡で光景を見守る三人の女性は、それはそれは楽しそうに意見の交換を行っていたという・・・・。 |
| 2月15日(アル's B.D.)へ続く・・・・・・かも。 |