3/14の出来事。




 バレンタインのお返しは、3倍返しが常識よ?
 本命にはキャンディーかマシュマロ。
 でも女の子って欲張りだから、やっぱり3倍返しを期待しちゃうわね。
『でも、アルはどーかな?』
 愛らしい白の日傘がくるりと回って、その下の金髪が風に揺れた。


 その日、隼人は非常に悩んでいた。
 それはもぅ朝からずーっと唸っていた。
「そこにいると掃除の邪魔だ、馬鹿」
 アルがゴーッと音を立てて掃除機をかけてもまだ唸り続けているぐらいには悩んでいた。

 原因は一つ。
 バレンタインデーのお返しである。
 そこそこ数を戴いた隼人ではあるが、全員に返す余裕はないし、先だってキャロルに指摘されたばかりだ。
『返すのは本命だけにしといた方が良いわよ。隼人おにーちゃん』
 くったくない笑顔で日傘を回すキャロル。
 ついでにバレンタインのお返しについての鉄則も教わった。


 そして問題の本命は―――部屋を掃除している。
 鼻歌交じりで楽しそうに。
 それはそれは楽しそうに。
 あのチョコの3倍返しなら、いっそ掃除機でもプレゼントしてやりたいぐらいに充実した時間を送っているようだ。
 しかし、アルの性格は日増しに主婦化している。
 その点を考慮した場合『この掃除機はまだ使えるだろう!』と説教される可能性がある。

 意味がない。
 せっかく送るのだから、喜んでもらえる物が良い。
 喜んでもらえる物と言ったら、やはり実用的な物なのだろうけど。


「あぁ。そーいやアレがあった!」
「出掛けるのか?」
「んー。ちょっとな」
 しきりに捻っていた首を定位置に戻し、隼人は手を打つと返事もそこそこに家を飛び出していった。
 後に残されたアルは、3/14が何の日であるかも知らずに、洗濯物を取り込むべくそそくさと庭へ出るのであった。




 バタバタと足音がして、迎えに出たアルの視界を隼人の手荷物が塞いだ。
「おマメ。これ!バレンタインのお返しな」
 突きつけられた紙袋に、今度はアルが首を傾げる。
「お返し?」
 何の?と瞳で問い返されて、ホワイトデーの説明をすれば、ちょっと目を見開いて信じられないと呟いた。
 不思議に思って聞けば、3倍返しなんて日本特有の商戦で。
 それでもまぁ、とりあえず受け取ってもらうことで隼人の肩の荷は下りた。

 カサリと音を立てて、アルが包みを開いて絶句した。
「実用性高いだろ?」
 可愛いリボンの付いた袋の中身は子供用のシャンプーハット。
「この間言ってただろ?シャンプーが目に入るって」
 怒りに震えるアルに気付かず、隼人は胸を反らせて言い放った。
 悪気はなかったのだろう。
 しかし、隼人が聞いた『シャンプーが目に入る』状況を作り出したのが、その時一緒に入浴していた隼人自身であったことまでは憶えていなかったらしい。

「こぉの大馬鹿野郎!!」
「いってぇ!!」
 アルの叫びは輪ゴムと共に隼人へと命中し、隼人は望み通りの悲鳴を上げた。
 思わずしゃがみ込む隼人。
 それ故、アルが口元に小さく笑みを浮かべたことに気付かなかったらしい。

 ちょっと溜飲の下がったアルは『今度隼人と風呂に入る羽目になったら使おう』と心に誓い、問題の物品をいささか嬉しそうに部屋へと持ち帰ったのだった。





 例えばそんなホワイトデー。
 3/14のお楽しみ。



終わりの予感。

済みません。
見逃してあげてください。
和樹は哀れなヤツなんです(吐血)

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