あさきゆめみし



平穏とは夢
揺れれば覚める浅き夢
泡沫と消える 儚き安寧の世界











 山々に若木が萌えている。
 春は山が最も色付く時だ。
 花が咲き、そして散る。
 この国で最も愛されてきた 桜の樹が美を誇るのもこの時期だ。

 はらりはらりと舞い散る桜の花弁を、何に煩わされることもなく鑑賞する。
 これほどまでの贅沢が他にあるだろうか―――





「・・・って、そこぉっ!!」
 先程までの平和な空気は何処へやら、青葉はビシィッとばかりに
隣りに鎮座している童子と少女を指差した。

 モゴモゴモゴと、手に持った草餅を手放すことなく風情を感じるどころか
これぞ正に『花より団子』を実地で表現している二人が居た。
 その周囲に広がる串の山!餅を包む葉!!
 残骸を見ただけで青葉は既に胸焼けを起こしていた。

「はひをほんはひほほっておふ。ほまへほはへへはよはほう
 (何をそんなに怒っておる。お前も食べればよかろう)」
 人差し指を眉間に突きつけられても微動だにせず、童子が何事か喋った。
「ですよねぇ、裂鬼助様。青葉ったら短気この上なくって」
 ベーっと青葉に舌を出しながら、少女は相変わらず口をもごもごさせている童子の湯呑に
溢れんばかりの茶を注いだ。
 少なくとも彼女には童子―――いわく裂鬼助の言ったことが理解できたらしい。
「口の中のものは飲み込んでから喋れ裂鬼助っ!!」
 その有り様に直もヒステリックになる青葉だったが、そんな展開は見なかったとばかりに
裂鬼助は峠茶屋の娘に更なる追加を出していた。


 既に持病となった胃痛と頭痛を抱え、視線を桜に戻せば 風に揺れる太い枝が見える。
 久しぶりに一息ついた気がして、背に背負った大荷物を降ろせば異様なほど身体が軽く感じる。
 こんな時間が続けば きっともっと皆が幸せに生きられるのだろうに。





 一見平和そうに見える世の中でも、実は結構痛んでいる。
 『天下泰平』を謳ったこの時代にも戦乱を起こそうとするものは多くて。
 さらにその中には『ヒトでない存在』も含まれている。

 ―――刀魔。
 血刀紋という印を額に持つ、いわば妖のような存在。
 人を斬り、人の血を吸い取ることで力を増す奴等は現在進行形で町を脅かしている。
 夜だけでなく、昼日向の世界までも。

 しかし、そんな恐ろしい存在を作りだしあまつさえ利用していたのは 他ならぬ人間であったりして。
 よくよく事情を知ってみれば業の深いものだ。
 さらに業深きは その妖物に対抗する為に組織された 俺達『刀狩り衆』なのだけれど・・・・。


 ぼんやりと虚空を見つめていると、何やら膝の上が重くなってくる。
 始めは大した事はなかったが徐々に重さが増し、やがて ずしり、と。
 正直足の骨が悲鳴を上げ出した。
 と、同時に視界を埋め尽くす丸っこいものが―――
「いつまで呆けておる。行くぞ、青葉」
 声をかけてきたからちょっと肝が冷えた。
「・・・・・っ!??」
 必要以上に近い位置で目が合って、思わず仰け反るがそれは不可抗力というものだろう。
 何せ裂鬼助の目はデカイ。
 

「先を急ぐと言ったのはお前ではないか。ワシ等よりものんびりしていてどうする?」
 のほほんと、相も変わらずのほほんと。
 膝の上に鎮座して覗き込んできたのは、先程自分の体重の3倍は餅を摂取したであろう裂鬼助。
 しかも背には破魔鎚を携えたままで。



 ・・・・・・・・ちょっと待て十五貫!!


 意識すれば尚更重く感じて、気分は拷問に合っている罪人だ。
 曰く足の骨がメキメキと・・・・。
「立ちたくても立てなくなるから早く下りろ 裂鬼助っ!!」
 危機感で上げた叫びは、聞き様によっては悲鳴のようだったかもしれない。
 茶屋の親父がビックリした顔で店の外ので出てきたくらいだったから。
 それにしても・・・・いい加減商品を食い尽くして移動する気になったらしく、先を急かしてきたかと思えば―――はっきり言ってこの行為は妨害工作かとも思える。

「ほれほれ青葉、葎は先に元締めの所へ戻って報告をしてくると言っておったぞ」
 腹立ち紛れに柔らかそうな頬っぺたを引っ張れば、そんな言葉が漏れてきた。
 道理で静かだと思ったら。
「珍しいな。葎がお前から離れるだなんて」
 驚き半分、皮肉半分。
 他意はないが、彼女は自他共に認める”裂鬼助ラブ度”は限りなく高い。
 つい2ヵ月ほど前にあった『刀狩り衆』同士の諍いの中では、裂鬼助を庇い命まで投げ出そうとした。
 刀狩り衆に入ったのだって、裂鬼助の手助けがしたいが為らしい。
 とはいえ俺達の様に破魔鎚を手に刀魔を追いかけているわけじゃない。
 『刀狩り衆忍び方』と呼ばれる別動隊だからだ。
 まぁ、今までの行動を見ているととても忍びには見えない気が・・・・・・・いや、言うまい言うまい。

 そんなことを言い出しては、まず裂鬼助の方が問題になってくるからだ。



 全てに納得したわけではない。
 全てを認めたわけでもない。
 だが……全部否定したいわけでもない。


 信じられない相手ではないから。
 最初から話してくれていなかったことには腹が立つけれど、別に騙されていた訳でも誤魔化しがあったわけでもない。
 ただ『聞かれなかったから言わなかっただけ』とか、むしろそういう事なんだと思う。
 ・・・・・・・正直それも腹が立つが。

 どちらかといえば、全く見ず知らずの人間からそういう事実を突きつけられた事の方に腹が立っている自分に―――驚いた。

 聞くのならば。
 どうせ突き付けられる事実だったのならば、裂鬼助自身の口から聞きたかったと思うのは驕りだろうか。
 あの時『裏切られた』と叫びを上げていた、何だか付き合いの長そうな可銀とかいう刀狩りにすら
自分からは教えていなかったみたいなのに。

 こんな事をずっと抱えてムシャクシャしているだなんて、アレだ。
 こういう胸のわだかまりは何て呼ぶんだったか。
 中腰の、立ち上がり掛けの体制でふと思案する。

 何というんだったかな、この感情は?


「青葉、日が暮れるぞ?」
「あぁ。分かってる」
 いまだ痺れる足に活を入れて、振り仰げは夕日を背にした裂鬼助がこちらを見ていた。


 夕日が空を染め、木を染め、道を染め ―――そこに立つもの全てを染め、まるで裂鬼助が朱に染まっているような印象を受ける。 
 ほんの一瞬の幻覚。

 分かってはいたが肩が震えた。
 瞬間の恐怖。
 引きつらないように表情を押さえ込んだが、しかしきっとバレている。
 裂鬼助には絶対に気付かれただろう。
 この男は刀魔なのだから。

 だけれど、恐怖もそれに続く何かも全て押し込んで歩を進めた。


「日が沈む前に宿に入るんだからな」
 もう寄り道はするな、と言外に釘を刺して。




 今日もまた泡沫の夜を往く―――



戻る。


・・・・・取り急ぎ、ゴメンなされ・・・・・・Σ(=△=;)
・・・・・・さぁて、次に書くときは裂鬼助×青葉でGO!!
なーんてね。なーんてねっ!_(__)ノ彡☆ばんばん!
↑反省の色ナーシ(自爆)