『黒い羊の数え方』


 真っ黒な夜を駆ける。
 同じ素足であっても生前とは感触の違う地面。
 見上げても星の光がまともに見えない濁った空。

 何もかもが違っている。

 同じなのは―――人の心の闇だけ。


 十字路に差し掛かったところで統兵衛は立ち止まった。
 目を凝らしても、追っていたはずの咎は既に影すら見当たらない。

「どっちに行きやがった!!」
『お前の足で追い付けないとはな』
 苛々とトガリを握りしめる統兵衛に苦い返答を返したオセだが、まさに虫の居所の悪い統兵衛の気分を逆撫でしたようだった。

「うるせぇ犬ッコロ!!」
 八つ当たりといわんばかりに、犬に化けたオセを足蹴に・・・・・出来なかった。

『物騒な男だ・・・』
 ひらりと統兵衛の一撃を避けたオセは、犬の姿のままでわざとらしく溜息をついた。



 軽口のように口にはするが、オセの中で『統兵衛』という存在は、超一級の罪人に位置している。
 彼が天国から地獄に赴任したばかりの時、最初に目にした地獄の住人が統兵衛であったのだから仕方がないといえば仕方がない。
 まだ幼い容姿に不釣り合いな、生きる事への強烈な執着―――そして、その身に纏う空気。
 在駐の鬼共でさえ『これほどの罪人は珍しい』と表現したほどの相手だったのだから。

 ―――死者は二度死ぬ。

 そんなことはあり得ない。
 死ぬことすら出来ないのが地獄という世界だからだ。
 何度も脱走しようとして失敗して、その度に処罰を受けていた。
 しかしその瞳の光が衰えることはなく、より一層強い光を滲ませる。
 恐ろしいまでに強靱な精神力の持ち主だと感じた。

 悪。
 ―――深い深い闇。

 オセが統兵衛の中に感じたのは大きな虚ろの存在。
 他の罪人とは全く異なる者に思えた。
 それが第一印象。

 その男が地上に戻り、咎を狩り、その都度新しい顔を覗かせる。
 新鮮な衝撃。

 『悪』という認識定義を覆されるような行動・言動。
 それに伴う結果。

 特に顕著なのは周囲への影響力。

 強く鋭く抉るように―――
 生存本能に基づいた発言。

 統兵衛の言葉は魂に響く。


 オセが統兵衛を『罪人である』と考えていることに変化はない。
 それは主人のエマが治める地獄に居た事からも明らかだ。

 けども―――
 トガリが発動しないことがある。

 強い悪に呼応して力を発するトガリが。
 ・・・・それはすなわち、そういうことではないのか?




「―――セッ!おい バカ犬!!」
『・・・・・っ!?!』
 耳を強く引っ張られる激痛と、その中に放り込まれた怒声にオセ言葉もなく蹲る。
 その姿を見て統兵衛は鼻を鳴らした。
 最近気が付いたことだが、統兵衛が見る限り、オセは時折自分の思考世界に沈むことがある。
 何度呼んでも反応を返さないと思ったら、また下らないことを考え込んでいたらしい。

「今日はもう追っても無駄でぇ。戻るぞ」
 未だに蹲ったままのオセを一瞥して、統兵衛はさっさと新しい寝床へと帰っていく。
 その後ろ姿は、やはり地獄で見たときとは異なる。

「置いて行くぞ!」
 そう。
 一声掛けることでさえ、無かったことだったのに。
『分かっている』
 返答する声は小さく、遠くなる背中に届いたかどうかすら分かったものではない。

 だが、今は振り向かれたくはなかった。

 人の姿になったオセに、統兵衛はひどく警戒心を露わにする。
 犬の姿のままなら特に何も感じていないようなのに。

「・・・・だからどう、という訳でもないのだが・・・・」
 風にさらわれる様な呟きをもらし、オセは人型のまま統兵衛の後を追った。



「・・・・う゛ーっっ!!」
 手負いの獣のような声が風に溶ける。
 統兵衛にしてみれば地獄の鬼の姿であるオセを見ると、威嚇・警戒は当然の条件反射で。
 ほぼ無意識の動作だけにタチが悪い。
 役目とはいえ、顔を付き合わせているのが辛くなる。
 だからよっぽどのことがない限り、オセは元の姿に戻ることはなかった。

 ―――今までは。


「なんでぇ・・・・!!」
 別に喧嘩を売っているわけではないのだが、どうにもオセが統兵衛に視線を固定すると統兵衛は過剰に反応する。
 彼にしてみれば睨み付けられているという程度の認識力しかないのだが。



「・・・・トガリの力が弱まっているのか・・・・?」
「なに?」
「トガリの力が弱まっているのか、と聞いている」
 視線を逸らすきっかけとした呟きは統兵衛にとがめられ、オセは言うつもりの無かったことを口にしてしまった。
 恐らくこのことは、統兵衛自身が気にしていることでもあったから。
 オセが見るに、時折統兵衛の腕はトガリに浸食されかけている。
 それは地上に出て、多くの人間と接触を続けたせいだろうか。

 ふとした瞬間に瞳の色が翻る。

 無自覚に被害者が出るのを避けたり、何かを庇ったり。
 その根幹はやはり濁っているように感じるのに。

「知るかよ。訳わかんねーこと言ってねぇで咎のニオイの一つでも探ってみやがれ」
「生憎と、私はお前のように鼻が利くわけではないからな」
「チッ。犬のくせに役に立たねぇ・・・・・・」
 吐き捨てるように口にして、珍しく統兵衛から視線を逸らした。
 大概、野生の獣のように先に視線を逸らした方が負けだと感じているらしい統兵衛は、決して自分から視線を逸らすことはない。

 それを覆したということは―――

 ちょっとは気を許してくれているということだろうか。
 そういえば以前『オセ!テメェも俺の敵か?!』とか錯乱したことを聞いてきた。
 あの時は『当たり前だ』と答えておいたが、事ここに至ってはあの発言すら心の底では悔やまれる。
 決して。決してエマ様への忠誠を失ったわけではないのだけれど。

「何でも良い。俺はもう寝るからテメェはどっか行きやがれ!」

 ・・・前言撤回。
 オセは内心深い溜息と共に肩を落とす。
 早々に風の当たらぬ物陰で寝に入った統兵衛を視界の端に捉え、深い溜息と共に姿を犬へと変えた。

「お前・・・・何の為にそんなにコロコロ姿変えてやがんだ?」
 気配の変化を神経質に悟って、統兵衛は上半身だけを起こしてオセを眺める。
『お前には理解出来ぬ色々な事情があるのだ』
 適当に答えておくと、生返事と共に興味を失ったように統兵衛は再び身体を横たえた。

 ・・・・・・・。
 しばらく距離を保ったまま沈黙が流れた。
 それを破ったのは意外にも眠っているような統兵衛の動きで。

 手を伸ばせば届く距離だったオセを掴まえて、容赦なく枕元にまで引きずり寄せた。
『何をする!!』
 あまりの事態にオセが声を荒げて身を捩れば、統兵衛の寝言のような言葉が耳に溶けた。


「あったけー・・・・・・」


 たった一言に、オセは雷に打たれたような衝撃を受ける羽目になった。
 更に腹の辺りにすり寄られて、犬の姿のまま金魚のように口をパクパクと開閉とさせる姿を夜に見せつける。

 あまりにも予想外の動きに。
 あまりにも素直で正直で、子供じみた動きに。


 この穏やかな眠りを妨げてはいけないような・・・・・・・不思議な気分に陥る。
 今まで持ったことはなかった、ある種、庇護欲のような。
 その、胸の奥がじわりと温かくなるような焦燥感を、オセは初めて体感した。

 規則正しい呼吸がオセの前肢をくすぐる。
 身動き一つ取れない状況下で、それでもオセは一つの決意を固めた。



『お前の進行を妨げる咎を私が排除することは出来ないが、せめて・・・・・この一時だけは私がお前の安息を守ろう。
 眠りを誘う羊を数えることは出来なくとも、お前の解放の元になる黒い羊は数えることが出来るから』





 ただ、ひとひらの夜の為に。





良し!書いた!!
ただし果てしなく意味不明!しかもニセっ子ども!!(号泣)
取り敢えずオセ→統兵衛。
本音ではラブい話も書きたい・・・・・あわわ!!(°°;))。。オロオロッ。。''((;°°)
しっかーし!現在進行形で、原作のオセはアヤヤ オヨヨって状況ですが・・・・・(謎)
困ったにょー〜〜(´Д`)〜〜。
何はともあれ、統兵衛ガンバじゃよ〜〜ヽ(*´▽`*)ノ


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