しっぽは口ほどに






 一磨の背後に生じる不可視の、しかし物理的な圧力が生じそうな 黒い何か。

 ゴゴゴゴゴ……だとか、ズモモモモ……だとか、そんな音のしそうなアレだ。

 ノラにとっては理解不能な地雷によって発生する其れに対して平然としていられるのは、一磨の両親とせいぜい比良坂ぐらいのものだろう。
 同じ生徒会役員の藤本、矢野は直後に壁に張り付く勢いで逃げを打ったというのに。
 まぁ、あの三人は少々別格 ではあるのだが。

「貴様は……」

 不愉快さを前面へ押し出すことを躊躇わない声は、少年のものとは思えない地の底から滲み出すような低音でノラの鼓膜を震わせる。

「っ!?……何だよっ!」
 その声に気圧されるなどあってはならない事だとノラの矜持が下がりそうになる足をその場に縫い止めた。
 どうせ一磨の機嫌が急降下した原因が何かなんて分かりはしないのだ。


 ノラが比良坂と一緒に居た女子生徒から弁当を分けて貰っていたのを目撃したとか、そういう一磨の無自覚の嫉妬などノラが気付くはずも無く。
 一磨自身でさえそんな自分の感情の揺らぎに気付いてはいない。
 だから不快さが前面に押し出されるだけで。

 けれど、気が付いていないのはノラも同じだ。
 自分を犬ではないと強く否定するくせに、一磨が目にした光景に中で確かにノラの後ろ髪が揺れていた。
 尾ではない。
 位置的には確かに違うが、それでもノラの後髪は尾に等しくその内心を如実に反映している。
 今だってそうだ。
 一磨の前で必死に虚勢を保つその後ろで、くるりと丸まった髪が尾でなくて何だと言うのか。


「貴様は――――――犬以外の何者でもないな。馬鹿犬め」


 一磨には珍しい苦虫を噛み潰したような表情と、纏っていた地鳴りせんばかりの怒気が霧散しする。
 深い溜息と共に吐き出された言葉に、きょとんとしたノラの髪が一瞬後にはぶわりと逆立った。

「オレ様は犬じゃねぇって言ってんだろーが、このクソボケェェェッ!!」

 先程までの怯えも吹き飛ぶ程の怒気が、今度はノラを包む。
 キャンキャンと吠え立てる大型犬を無表情にあしらいながら、一磨の内心は笑いを禁じえなかった。

 尻尾は口程にものを言うとは云うが―――尾どころか耳まで見えてきたな。

「聞いてんのかクソ人間!!」
「何時までも吠えるな馬鹿犬」
「犬じゃねぇって言ってんだろーがっ、聞けーっ!!」

 毎回の事ながら平行線を辿る無い遣り取りは、一磨が禁止コマンドを連発するまで終わることは無かった。













よく丸まる尻尾ですこと(笑)
と、いう訳で『リライト』様にてお借りしてきましたお題でございます。
否定しようもない尻尾具合なのに誰も突っ込まない本編が好きすぎました☆








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