嘲笑と微笑み |
「まったくキミたちは・・・・・・」 垂れた目元が笑みを形作る。 それは嘲笑。 そして、捕食者の微笑み。 いつも通りに時間潰しに出掛けた街中で、バッタリ出会ったタレ目の男は大袈裟に肩を竦めながら溜息をついた。 「自分たちが2人で1人前だって事に、気付いて無いのかな?」 それとも気付いていて、その上での単独行動なの? 首を傾げながら口にする。 軽く持ち上げられた手が腰に添えられるのを目にして、ノラは何だか分から無いがとにかく物凄く見下された気分に拳を握り込んだ。 ギリギリと握り込まれた拳を数度開閉しながら言葉を探す。 仕草一つに腹が立つ! そもそも、いきなり出会い頭にそんなことを言われて、腹が立たないヤツは少ないだろうが。 しかもその親切じみた言葉を口にするには、少々お互いの立場が悪い。 タレ目の男は、初対面時にハッキリ敵だと宣告してきたのだから。 「何で俺があんな人間野郎とセットでなきゃいけねぇんだよ!!」 牙を剥くといった表現がピッタリな表情で吐き捨てるが、元々そんな威嚇が効く相手ではない。 普段があまりにもアレなので忘れがちだが、ネルは反乱組織のメンバーだ。 そして今、この状況ではネルの方が優位なことは間違いない。 とても認めたくは無かったが。 ココじゃ会話も出来ないよね? そう笑いながら移動するネルに色々云いたい事はあるが、確かに町中で大立ち回りをして後で一磨に『禁ずる』の連発を受けるのは避けたかったので仕方なくついて行く。 一定の距離を開けたままなのが、唯一無言の抗議だったが。 日中でも影の差す路地裏で、二人は足を止めた。 移動した先は、決して広いとは言えないビルとビルの谷間。 ホント無防備だよね、と前置きをした上で、クルリ、と身体を反転させてネルは指先で軽く眼鏡を押し上げた。 「仮にも魔王軍に所属しているなら聞いてるだろうに・・・・・。キミの首にだって賞金は掛かっているんだよ?」 口にして、自分の首の前でゆっくりと指を横へ凪いだ。 生死不問の賞金首なのはお互い様で、ノラだって公式には犯罪悪魔の取締りという名目で放り出されたのだから。 しかし、ネルの表情はまったく意図したものではない。 自ら人間界にたむろしていた悪魔連中を焚きつけたこともあるというのに、まるでそんな事実は無かったかの様に笑う。 その笑いに背筋が冷える。 生理的に受け付けない、軽く 底の見えないタイプだと思う。 クスクスと笑いながらネルは再び口を開く。 「カズマくんも少しは融通してくれても良さそうなものだけどね。まぁ、彼も自分の人生の方が大事ってコト―――」 だよね?と同意を求めることは出来なかった。 発言そのものを嫌悪するように突き出された拳が、ネルの目にも捉えられない速度で繰り出されたからだ。 耳の横で空気が振動する。 軽い痺れを伝えてくる鼓膜に完全封身状態の体の脆さを感じつつ、続け様に繰り出される蹴りを大きく跳び退ってかわした。 二度三度と繰り返される攻防。 ノラの攻撃も、短期間の内に学習したモノが発揮されているのかヒットこそ無いもののかなりの精度でネルへ追撃を掛ける。 「へぇ、少しは使えるようになったんだねェ」 それでもまだ薄笑いを浮かべながら避け続けるネルには以前、一瞬のみ浮かべた顔の文様すら出していない。 舌打ち一つで一度距離を取りかけたノラの動きに反発するようにネルも後ろへと下がった。 決定的な一撃を―――魔法を使えない事に対して湧く苛つきを上乗せして、鋭い眼光がネルを捉える。 「アイツを悪く言うな」 渋い表情ながらも、口頭に上った言葉は庇うためのモノ。 数度、ノラと一磨が共に居る時に顔を合わせた事もあったが、そんな言葉が零れたのは本当に初めてで。 無意識に口にしたノラは気付いてはいないようだったが、耳にしたネルは目を剥いた。 しかしそれも一瞬の表情で、直ぐにいつもの嘲笑を顔に乗せたが。 「・・・・・上手く飼い慣らしたもんだよね」 災禍の凶犬の名が泣くよ? 笑いの形に歪む口元と、猫のように眇められた笑わない目元と。 言葉の端々から毒のように意識に染み込んでくる。 「飼い慣らされてねぇ!!」 癇癪を起こしたように喚くノラを見詰めて軽く嘆息。 「君は『一筋』という言葉を知らないまま、彼に向かって『ひたむき』な姿勢を貫くんだろうねぇ」 仕方がないなぁ、と笑いながら。 それでも笑わない目がジィッとノラの一挙一動を観察する。 「・・・・・・・・何の事だ?」 云われた言葉を、心底理解出来ないというように眉間に皺を寄せる。 顰められたノラの表情に、解らなくても良いよと軽口を叩きながら。 やはり浮かべる笑みは何処までも偽物だ。 それなのに、ふと混じる寂しげな表情がノラの意識を惹く。 表情が動くわけではない。 ただ、瞳にちらりと過ぎる色が目を惹くのだ。 「前に一度言ったでしょ?僕もキミ達の命を狙ってるって。 ―――けどね、同時に君という存在も狙ってるんだよ、僕達だって」 ゆっくりと、柔らかな表情を浮かべて。 柔らかでありながら、その表情は確実にノラへと刃を突き立てた。 「・・・・俺の、存在・・・・・?」 抉られた傷を確認するように、自ら口にする。 ノラ自身が口にし、周囲もそうであると認めた伝説にも残る『災禍の凶犬 ケルベロス』。 突然変異で産まれるとされているその存在は確かに希少価値が高い。 果たして実在するのかどうか、疑う声も多いほどに遙かな昔に存在していたモノ。 その力故に、畏れられ、疎まれ、私欲に利用される事を恐れた魔王軍によって隠蔽されてきた。 その、結果が此処にいるという事実。 自らの自尊心と、心の何処かでその事実を厭う自分がいる事に気付いている。 沸き上がる嫌悪感に、思わず膝が崩れた。 背後にコンクリートの堅い壁面が触れる。 もたれるように背中を預けて、何とか踏み留まった。 「キミはさ、もっと自分の価値を知るべきだよ。ケルベロス君」 ぐらぐらと思考のループに囚われるノラに、更に毒を流し込むようにネルが囁く。 完全に自分の思考に沈んだのを確認して、開いた距離を詰めると崩れ落ちた視線に高さを合わせた。 「僕もね、欲しいと思ってるよ、君のコト」 追い詰めるように、血の気を失った頬へ手を滑らせる。 健康的に焼けた色をしているくせに傷みのない肌は、ネルが人間界で繰り返しているナンパで触れる事の出来る女達よりもよほど上質だ。 手触りを堪能するように何度も親指を滑らせる。 空いた指はおとがいを軽く持ち上げた。 抵抗らしい抵抗など思い浮かばないとでも云うように、されるがままに顔が上を向く。 泣きそうに歪んだ表情を見られたくないと、子供がするようにイヤイヤと首を振るノラの力無い身体を壁に押しつけて。 こんなに脆いココロで、何を制御すると云うんだい? 大型の肉食獣のように瞳が細められる。 契約だって、僕と交わせばもっと楽に魔法を使わせてあげるし。 キミも悪魔なんだから、本能に忠実に生きようよ。 言葉にせずに、触れ合わせた額から直接心に流し込む言葉。 「奪っちゃってもイイかな?・・・・・・カズマ君から」 囁くように吐き出された声はもう音でもなく―――触れそうなほど近付いた唇が、それでも重ならずに離れたのは本当に瞬間劇。 ガツ!!っと固い音がノラの額を直撃したのも、その瞬間の出来事。 悶絶・・・・とまでは行かないまでも、ノラが声にならない悲鳴を上げて額を押さえた。 正に一瞬の出来事が、ネルとノラの間に1メートル以上の距離を開かせた。 未だ痛みと闘うノラを尻目に、言葉通り『奪い取ってやろう』としたネルを退かせたのは背後に膨らんだ殺気だった。 ・・・・・その殺気の持ち主は、何となく想像は付いていたが。 「―――ふざけるな、ナンパ男」 地の底から湧き出したような低い声が、狭い路地に染み渡った。 声の主は、先程の固い音の発生源を投擲した手を忌々しげに払いながらネルを睨み付ける。 不機嫌さを隠そうともせずに、仁王立ちしていたのは 真狩 一磨。 ノラの契約者、その人だった。 「さっさとその駄犬から離れろ。二度は言わんぞ」 2つ目のコーラの缶を軽く揺すりながら、悪魔であるノラにすら『悪魔』と称された表情で一磨はネルに言い放つ。 しかしそれすら受け流して、ネルは姿勢を正した。 「オヤ?飼い主登場かい??オシイね」 内心惜しかったなー、と本気で思っているような表情は浮かべはしないが。 そして油断さえしていなければ当たってもさほどダメージを受けたりはしないであろうコーラの缶に焦点を合わせる。 しかし、次の一撃は全く逆方向から襲いかかった。 「惜しかねーよ!!」 傷みに涙声になりながらも、先程までの動揺具合など微塵も残さぬ様子でノラが拳を突き上げる。 続いて至近距離で宣言された魔法に、許可が下りるまでのタイムラグを利用して再度距離を取った。 「さっきまでは大人しかったのにねぇ・・・・」 茶化すような言葉に、沸点を上げるのはノラ。 しかし今日は一磨も相当機嫌が悪かった。 「火属 爆炎の牙を『宣言する』!!」 「『許可する!』」 追い打ちで放たれた火属魔法を相殺しながら踏み出せば、咄嗟に半歩下がるノラへ、更に一歩分深く踏み込んで軽く唇を奪う。 「・・・・・・・・・・・っ!!!!!!!!?」 驚きに髪を逆立てるノラに見せ付けるように自分の唇を舐めると、今度は垂直に高く跳躍し、ビルの非常階段へと立ち位置を変えた。 嘲笑と云うにはやや名残惜しい表情を浮かべながらネルは手を振る。 「ふふっ、またね♪」 「2度と来るな!!」 噛み付くノラの声は、いつの間に召還したのかアストを率いた細身後ろ姿にぶつかって霧散する。 ギャアギャアと騒ぐノラに、一磨のきっつぅぅぅぅぅぅいお仕置きが待っていたのは言うまでも無い。 ビルの屋上を、人間では有り得ない跳躍力で移動しながらネルは無口な使い魔に声を掛けた。 「困った事にね、実はどっちも気に入っちゃってるんだよね〜。 確かにノラ君は何をしてでも手に入れたいんだけど・・・・・・、カズマ君の悔しがる顔も見てみたいんだよね!」 むやみに力を入れて語る間も、アストは黙って聞いている。 「ホント、困ったな・・・・・・・二人ともオイシそうで」 ポソリと口にされた言葉が、一番の本音だった。 |
消化不良のまま終了☆ スミマセン。誤爆です。 もっとこうぅ・・・・・・何て言うのかなぁ! 力不足でスミマセン.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆ それにしてもネルさん書いてると、うっかりオネェな雰囲気のキャラになりかけるYO・・・・。 キケンキケン!!(爆笑) |
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