馴れと甘えの境界線。






 例えば―――
 キスをするとき目を閉じるだとか。
 気持ちが好いときは声を出すだとか。
 欲しいときには、金糸の部分に触れて来るだとか。


 妙な癖と共に、色々な事を学んでいる。身に付けていく。
 この、手の中の犬は。

 それでも長年の孤独により培われた独り立ちへの渇望のせいで なかなか理解する事の無かった『甘える』という行為が、漸くどういった意味を持つものか分かってきたらしい。




 以前に比べてすっかり大きく成ってしまった一磨の手にすら 引っ掛かりのないサラリとした手触りに、変わらぬペースで指を通す。
 4、5回髪を梳くごとに 軽い音を立てて紙面が内容を変えていく。
 片手で捲る事の出来る文庫本が、かつて好んでいたハードカバー本より確実に数を増やして来ているのは 恐らく今の野良犬に出来る最大限の譲歩のせい。
 髪を解いたノラが一磨の膝枕で大人しく転がってからまだ一時間と経っていないのだが、
「……寝たのか」
 出会った当初よりも、僅かばかり伸びた髪から するりと指先を抜けば、深く落ちかけた呼吸が微睡みに浮き上がる。
「……ぅ?」
 一磨の太股に乗る 頭を少しだけ動かして見上げる瞳には、まだ覚醒の色はない。
 改めて覗き込む事も、本を降ろす事もなく。
 乞われるままに髪を梳く手を再開させれば、程なく聞こえる深く一定のリズムを刻む呼吸音。

「何処の犬も、飼い主の膝の上が好き、か」
 猫などは 特に。
 けれど、犬も飼い主の膝の上に乗りたがるのは 良く見る光景だと笑いながら話していたのは比良坂だっただろうか。
 長時間腰を下ろしていたせいで熱の移ったソファーに、背を預ける。
 完全にくつろいだ体勢など滅多に取る事はないが。
 多少の振動など意にも介さぬように、一磨に身を委ねてソファーに寝転がるノラ。
「……カズ、マ…」
 寝言ですらも名を呼ばれる優越感に口角も上がる。
 格好だけだった読書は 一磨の脳内に意味など残さず、分厚い身体に栞を銜えて主の傍らにその身を降ろした。

「俺も、まだまだ甘いな……」
 眼を細めて、長い銀糸に指を絡めて遊ぶ。

 穏やかな空間と、ほんの少しの甘えのエキス。










渡里様主催の2 THE NIGHT(05.09.09〜05.10.31)に
奉納させて頂きました。
ホントにもうお目汚しで!!ガクガク(((゚Д゚)))ブルブル
しかも有り難い事に 対のような作品まで頂いてしまいましたVv
頂き物の方に、家宝として祀らせて頂いております.。.:*・゜.。.:*・゜☆


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2005/09/15(Thu) 23:53
引用





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