| 軍内でも上位階級の者としか触れ合うことが出来ないのは確かに幼子には厳しい環境だろう。 しかしそれも致し方のないことなのだ。 ―――産まれる前から冠されていた称号も、種族も地位も階級も 関係のない所で絶大な支持を受ける、魔王軍の愛し子。 |
至らずとも浅からず |
「将軍は、皆ノラ様に甘すぎます」 ドサリと運ばれてきた書類を執務机に降ろしながら ピシャリと言い切ったのは、まだ水軍副将に昇進したばかりのバリクだった。 几帳面な性格 というよりは真面目過ぎてお堅いのだろう とリヴァンは考えている。 だからこそ 彼の後続に配属されたのだろうけれど・・・・・。 「そうか?」 「えぇ、そうです」 まだ上下関係が成立して間もないが、その苦労性ぶりを遺憾なく発揮する部下に なおかつ気のない返事を返せば 隠すことなく苛立ちを含んだ声で即答された。 真っ直ぐリヴァンに向けられる視線に込められた 揺るぎない『何か』を感じる。 それは魔王軍に所属しているという事への―――魔王様へ強固な忠誠心と、幹部クラスに昇進した事への自負によるものなのだろうが。 その揺らぎのない視線の強さに、逆にリヴァンは面倒くさそうに溜息を吐いた。 ・・・・・・・あぁ、コイツも真実が見えていない。 「まぁ、云われてみればそうかもな」 一見緩そうに見える魔王軍だが、実のところ根幹となる規律はかなり厳しい。 そんな中で叩き上げられてくる新昇格の者には、将軍階級の 特定人物に対する対応が往々にして異様な光景に見えるらしい。 お堅いバリクには余計にソレが、顕著に映ったのだろう。 『災禍の凶犬 ケルベロス』 魔王軍でも幹部クラスに昇格した者にしか知らされることのない、極秘事項の一つ。 秘匿されて生きる 魔王の大事な大事な賓客だ。 まだ、年端もいかない子供だけれど。 だからこそ 将軍クラスは暇を見付けては・・・・・・時間を作っては構いに行く。 それは決して強制されたことではなく 各自が思うトコロあって、そうしているだけなのだけれど。 だがそれは、あくまで個人の意志レベルの行動でしかない。 行動を起こすだけの思いにない者には―――そこまで接触の機会を持たない者には、分からないことなのだ。 幼い双肩に科せられた 重い二つ名の枷の為に。 「御自覚の無いあたり、どうしようもないですね。そんな事だからあの方はあんなに我侭に・・・」 呆れたように紡がれる言葉。 それが自分に対してだけではなく、ノラのことに及んだ事で リヴァンはいつもならする筈のない行動に出た。 「俺達が 何でノラ様を大事にしてるか、お前に解るのか?」 相手に発言を断ち切り、被せるように問い掛ける。 平素から『メンドクセェ』が口癖の水軍将が、能動的に行動したり発言したりする事など目にした事のないバリクは 驚いたように口を開く。 「それはノラ様が―――」 「ケルベロスだから、ってのは大きな間違いだ」 返答など、聞かなくても皆同じ事を口にする そう言わんばかりに、リヴァンは 再度バリクの発言を断ち切った。 「?」 質問の意図が分からない、と眉を寄せて閉口した部下に 水軍将は扇子を揺らしながら 改めて口を開いた。 「確かにそれが大前提だけどな。魔王様を筆頭に、皆それだけじゃねぇんだよ」 ケルベロスであるから。 世界を滅ぼすといわれている大悪魔だから もっと自覚を持つように育てた方が良いと かつての将軍連中が魔王に進言したように、愚かな選択をして欲しくないと 今の将軍階級は考えている。 魔王様が何のために彼を『生かして』引き取って 育てているのかを。 ただ危険だというだけなら、発見時に殺してしまえば良かったのだから。 「・・・・・・ですが・・・・・」 それにしても構い過ぎではないかと。 自分の立場すら自覚していないのではないかと疑いたくなるような 言動や行動があまりにも目の余ると、流石にそこまでは口に出さないが言い淀む言葉の端々に滲む渋さに、リヴァンは吹き出しそうになった。 「あんまノラ様の前で『災禍の凶犬』の事は口にするな。種族名もな」 まだ少年の事を何も知らない新人に、幹部クラスのタブーを伝えておく。 それはノラを守るためのモノであり、同時にバリクを保護するためのモノでもある。 しかし、そういった深謀遠慮こそ 実際は伝わりにくいものなのだ。 「・・・・・はぁ」 案の定 バリクからは生返事が返ってくる。 「御命令とあらば、ってカンジか?本当にお前は頭が固ぇな」 「リヴァン将軍!!」 今度はリヴァンの口から呆れたような溜息が漏れた。 本来なら、ここまでリヴァンが説明する義理はない。 それ以上に、面倒くさい事を何よりも厭う彼の気質を考えると 普通ではない状況だ。 「バリク。お前が思ってるよりも、ケルベロスの名はノラ様にとって重い枷になってる。あまり追い詰めてやるな」 「それは・・・・・、そうかも知れませんが・・・・」 やはり納得がいかないというように、言葉を濁す。 きっと、バリクは彼なりにノラの行く末を心配しているのだろう。 だがソレもコレも全て、魔王の采配に寄るものでもある。 「あんまり苛めると魔王様が乗り出してくるぜ?あの人は本当にノラ様を大事にしてるからな」 怖い怖い、と呟くリヴァンの顔は 声色とは逆に全く笑ってはいない。 もともと表情と言動が乖離気味の人ではあるが、流石に今回は噛み合って無さが過ぎる。 「それほど、大事な方ですか?」 あの幼い子供に何故皆がそれほど執心するのかが理解に苦しむ と表情で語るバリクに、リヴァンは今度こそ笑って答えた。 「一度ノラ様に『大嫌いだ』って言われてみろ。そうすれば嫌でも解るさ」 肩を竦めてリヴァンはお茶を濁した。 そんなモノは、実際に云われてみれば解る事だと。 この時バリクは『馬鹿馬鹿しいですね』と、上司の発言を一蹴した。 ―――そして現在。 まだ水軍副将に就任したばかりに頃 上官と交わしたたわいないはずの遣り取りを、痛切に思い出す。 当時 幼さ故に皆が構うのだと思っていた秘匿された子供は、成長しているにも関わらず やはり対する皆の甘さは変わらない。 そのせいとは云わないが、あの頃の予測より遙かに我が侭に育っている気がしないでもない。 違うのは、正対するこちらの感情だ。 「テメェなんか 大っ嫌いだ!!」 姿だけは大きくなったものの、幼少の頃と何ら変わらない仕草で喚く姿は正に子供そのもので。 瞬間の感情を直球で発露させる、その一瞬の燃えるような瞳の色に文字通り目を奪われて久しいのだけれど。 「それは奇遇ですね。俺も貴方の事が嫌いですよ」 既に約束事のように 切り返す自分の言葉に内心げんなりする。 本当に、時折心の底から不愉快に感じる事はあるのだけれど そんな時ですら 自分の感情に苛ついてしまう。 いつからこういうスタンスが出来上がったのかは既に覚えていない。 ただ、こういう形ですら ノラ様の視線と感情を独占出来るのならば構わないと 何処かで納得してしまった自分がいるのを 薄々バリクは自覚していた。 そして、発する言葉ほどは ノラが自分を嫌っていない事も。 嫌い嫌い と喚く癇癪の奥で、こちらが切り返しで同じ言葉を口にすれば 瞳に動揺が浮かぶ。 恐らく自覚していないのだろうけれど。 逆にいえば 面白くもあるのだろう。 自分が心にもない言葉を吐く事で 確実に相手を傷つけられるというのは、酷く倒錯的だ。 伝説にも残るような 本能的な恐怖を沸き起こさせる大悪魔が ほんの些細な事で傷つく。 そして、それを行っているのは自分だ。 他の誰も口にしない 『貴方が嫌いだ』という言葉を、何度だって繰り返してあげます。 ご自分の云った言葉に戸惑いながら、少しずつ俺の言葉で傷付いていけば良い。 何度でも繰り返し 俺という存在を刻み込んでいくから、ある日突然気付いて狼狽える姿を見せて欲しい。 それはきっと 遠くない日の現実――― |
恋心には至らないけど、好きという感情は浅くはない。 喧嘩するほど仲が良い、を地で行って欲しい二人です゚+。(・∀・)゚+。゚ っていうか、どうなんですか? バリクさんは言い方キツいですけど、一磨さんの云うように 本当はノラの事を力一杯 心配しているとイイ。 だけどお互いそんな事は気付かないまま 唐突に自覚する瞬間まで 喧嘩してるがイイよ。 あぁ・・・・・オイシイなぁ(愛) |