王者の独占的所有宣言と 未だ見ぬ誰かの為の心底居住者の不在。 |
初めて講師生徒共に実務学習をサボり、嫌がらせ的狸寝入りに興じた日から早数日が経過していた――― 「水軍副将!魔王様がお呼びです」 書類を片手に廊下を歩く。 今日も今日とて のらりくらりと行方不明の上司代理として、あちこちを駆け回っている気がする。 水軍副将軍ことバリクは、手の掛かる上司と某特殊階級のお犬様のせいで正直な所ゆっくり休む暇もないような仕事振りで、それはもう魔王軍内でも同情の声が多い人物であった。 全く、気の安らぐ暇もない! まだ昼にも差し掛かっていない時間から既に心労で苛々としていた彼は、周囲に響かない程度に舌打ちする。 ふと、呼び止められたのはそんな時だ。 「魔王様が?」 「えぇ。すぐに謁見室に来るように、との事です」 不審気に問い返すバリクに、内容は知らないとばかりにメッセンジャーは肩を竦めた。 「判りました。すぐに向かいます」 まぁ、魔王様もあぁ云う人だから―――とお互いに苦笑しつつ、廊下を通り抜けた。 直の召還とあれば直ぐに向かわなければならないが、それにしては手持ちの書類が邪魔になる。 「・・・・・失敗した」 こんな事なら、さっきのメッセンジャーに書類の運搬を押しつければ良かったと今更ながらに思う。 機密書類なら問題ありだが、どうせ大した書類ではない。 ・・・・・・・リヴァン将軍のサインがなければ只の紙切れにすぎない書類だ。 しかし、当のメッセンジャーとは先程の廊下で行き違ったため後ろ姿は既に遠い。 今更呼び戻すのも面倒で、かといってそこらに放置する訳にもいかない。 何処かに置いて行きたいが、支障のない保管場所である執務室は遙か後方で、比較するまでもなく謁見室の方が近い。 正に『目と鼻の先』といった所だ。 しばしその場で立ち止まり、考えた結論としてそのまま謁見室へ直行する事となった。 通路の突き当たり、長い回廊の奥には繊細な衣装を施した大扉がある。 魔王が幹部クラスを招集させたりする為に使う大広間のような部屋だ。 「失礼致します」 仰々しいまでの大きな扉の前で、軽くドアをノックする。 ギギィ、と重そうな軋みを上げて押した訳でもないのに開いていく大扉は魔王の施した細工のなせる技だ。 いつものように、まだ半開きの辺りで一礼して踏み込むが 正面の玉座には召還主は居ない。 呼び出しに手違いという事も無いはずなので、訝しみながらも視線を移動させれば、降って湧いたように威圧的な存在感が背後に広がった。 「いらっしゃ〜いVv」 真後ろから、声と共にガッチリと両肩を掴まれる。 一体どういう移動をしたのかは不明だが、声の調子と感じる圧倒的な魔力の波動から魔王である事は間違いない。 「遅くなりました」 バリクはひやりと背筋を凍らせながらも、崩れかけた姿勢を正した。 「うぅん。気にしないで〜」 気さくな言葉使いではあるものの、常にはない異様なプッレシャーを感じるのは何故だろう。 無性に渇く喉を意識しながらバリクは意を決して口を開いた。 「・・・・何か―――」 ありましたか? 続くはずの言葉は音にはならなかった。 遮るように魔王が口を開いた為だ。 「実はね・・・・この間小耳に挟んだんだけど。バリクちゃん・・・・・・・・ノラちゃんと仲良くお昼寝してたんですって?中庭で・・・・」 うふふ、と笑いながらの発言だが 肩に乗せられた手にはジワリと力が籠もる。 先日の出来事を思い返せば確かに魔王の言葉通りで、字面だけでは口の挟みようもない。 「・・・・・申し訳御座いません・・・・・」 実務訓練をサボってしまった事は間違いなく事実なので、とりあえず謝罪するしかないバリクは身を固くする。 しかし、魔王の性格や行動パターンからいって、どうもエスケープに関しての注意という感じではない。 何やらノラに対するあの一連の嫌がらせに近い行為が魔王のカンに障るかなにか・・・・・・・・とにかく軽く地雷を踏んだらしい事は判った。 半封身状態にあるとはいえ、滲み出る意志力は半端ではない。 「謝らなくても良いわ。仕方のない事よ?ノラちゃんってば隙だらけだものね」 豊かな金糸の髪が竦められた肩と共に揺れた。 「ただし―――」 陽光を浴び煌めくウエーブヘアがバリクの肩口から流れるほど耳元に口を寄せて、魔王は警告を下した。 「―――ノラちゃんにオイタしちゃ、ダメよ?」 一言。 幼子に言い含めるようにゆっくりと、一言。 それだけを口にして、クスリ、と妖艶な笑みを浮かべた唇がコマ送りのようにゆっくりと顔の横から離れていく。 蠱惑的な横顔から、言葉にはされなかった魔王の心の声がバリクには聞こえたような気がした。 『あの艶やかで柔らかな銀髪も、色違いの魅了眼も、未成熟の心も躯もまだまだ私の庇護下。 あの子の心には、まだ誰にも触らせはしない』 それは、庇護欲と独占欲の混じり合った鮮烈で強烈な言葉。 完全に魔王が離れきった後もバリクは呆然自失して返答はおろか、頷く事すら出来なかった。 「伝えたかったのはソレだけだから、もう下がって良いわよ〜」 硬直したバリクにひらりひらりと手を振ると、魔王は何事もなかったように奥のリゾートプールへと引っ込んだ。 「・・・・・失礼、致します・・・・・・」 放心状態のまま踵を返し掛けたバリクに、思い出したようにひょこりと顔を覗かせた魔王が『あ、そうそう』と口を開いた。 「書類。落としてるわよ?」 「・・・・・あ」 そこで初めて気が付いたようにバリクは自らの両手に目を遣った。 いつ落としたのかすら憶えてはいないが、確かに落としている。 足下に散乱した書類の束を拾い上げると、やや力の抜けた足取りで大扉から外へ出た。 気力は喪失しているが、礼節を忘れてはいない。 バリクは扉をくぐり、一礼すると、閉じたドアの前でズルズルと壁により掛かり力無く座り込んだ。 「―――こ、・・・殺されるかと・・・・・思った・・・・!!」 恐怖と恐慌の為、いまだに激しく鳴る心臓を軍服の上から押さえつつ、肺の中の空気を全て吐き出すように、バリクはそれだけ口にしてよろよろと立ち上がり、元来た道を戻っていった。 それからしばらくの間、傍目からも不自然なほどノラと距離を置いたバリクの姿が各所で目撃されたという・・・・。 |
魔王様が物凄い危険な保護者と化してしまいました・・・・・。 やっべ!魔王様FANの皆様を敵に回した気分!!┏(|||`□´|||;;)┓ いや!もう魔王様大好きですよ?!!マジで〜!!(愛) ちなみにタイトルは深読みして下さい(笑) ・・・・っていうか、タイトル長過ぎた・・・・…(´Д⊂あちゃー。 |
BACK→ |