河岸の岩に腰を下ろして、リヴァンは心の底から『面倒くさい』とでも云わんばかりに溜息を吐いた。
「・・・・・・・・・古種族の特殊能力を利用する気か・・・・・ あんなモン将軍階級でも正当に知ってる情報じゃねぇのによ・・・・」

 フラッシュバック。
 脳裏にノラによく似た―――いや、彼の全てを反転させたような髪の長い少女の後ろ姿を思い出す。
 ―――アレを、利用しているのか。

「・・・・・・反乱組織のボスは何者だ?」






勝手に捏造 第12話
−プーソンの『先行透視』が『先行投資』と
読めて仕方ない方 挙手希望−








 扇子を、軽く打ち振るって 背後に生じた気配に切っ先を向ける。
 問い掛ける声のトーンには変化もないままに。


「心当たりはないんですか? カイン様」

 振り向かずとも、気配だけで分かりそうなものだと リヴァンは内心向けた扇子に舌打ちをする。
 反対に、水軍将の武器ともいえる扇子を向けられた程度では動じもしない総督補佐官は こちらもまた 抑揚のない声で平然と答えた。


「少なくとも、私には無いな」

 痩躯を包む黒いコートが風に揺れる。

 魔界にいる時に付けられているバイザーの代わりに その視界を覆っているのはサングラスだ。
 完全封身されたその姿は 細身ながらも風格を兼ね備えており、どこかの貴族といわれても遜色ないほどに気品に満ちあふれている。

 そんな姿を確認することすら リヴァンには容易に行えることではなかった。
 何故なら―――

「前回。勝手な行動は慎むようにと、釘を差したつもりでしたが」

 リヴァンの足下に流れる河よりも澱みのない声で、カインはそれだけを口にする。

 そう。
 確かに釘を差されたばかりだ。
 つい最近、地軍将を巻き込んで。

「私の『言葉』では足りなかったのですか?リヴァン将軍」
 澱みはない。
 だが、確実に重いモノを含むカインの言葉に リヴァンは『今度こそ殺されるかも知れねぇ・・・・』と表には出さないままで 深く深く溜息を吐いた。

「いえ、そんな事はないですが」

「では、此処で何を?・・・・・・・・とは愚問ですね。先走りすぎると足下を掬われかねませんが」
「・・・・・・・」

 堅苦しい遣り取りの中でも、恐らくさっきキングジェリーを始末した時の魔力の放出は察知していたのだと言外に告げられれば返す言葉はない。
 反乱組織の規模も構成人員も分からない以上、幹部階級が一人でフラフラ出歩くのは歓迎されたことではない。
 ましてや今の人間界には 魔界きっての問題児が既に一人預けられているのだから尚更だ。
 何かあった時 双方に戦力を割けるほど魔王軍だって暇じゃない。

 そんなことは分かってはいるが、リヴァンも簡単には引き下がれない。
 色々な意味で、コレは好機なのだから。


「それはそうと、カイン様何しに人間界まで来たんすか?」
 あからさまな軌道修正だった。
 だったが、カインはその件については特に触れず 背後の森林へと視線を走らせた。
 釣られてリヴァンも顔を向けるが何があるわけでもない。

「魔王様が・・・・・・・」
「魔王様が?」
 呟きに耳を傾ける。
 促すように問い返せば、サングラスの奥の読めない瞳がリヴァンを映した。


「ノラ様の生活態度、その他諸々に変化が出ているか知りたいと切に願うので足を運んでみた」


 どうしようもなく事務的なトーンで呟かれた言葉が、それでも少し楽しげな響きを纏って聞こえたのは決してリヴァンの聞き間違いではなかったのだろう。
 普段から感情を表立って表さないこの上司ですら、やはりノラを見守る時は纏う雰囲気が柔らかくなることを将軍達は知っている。
 そうでなければ いくら魔王たっての願いだろうと総督補佐官が職務を放棄して人間界まで足を運ぶわけがない。


「この間ウチの副官が出してませんでしたっけ?近況報告書」

 穿って聞いてみれば微かに縦に振られる頭。
 普段は側頭部に揺れる翼も、今は髪型の一部に変化してしまっている。
 ぼんやりと やる気のない目を向ければ『提出の事実を知っていたこと自体が意外だ』という空気が見て取れた。

「バリクの報告書は受領済みです。ただ、もっと詳しく『日常生活』が知りたい との御要望でして」

 リヴァンの頭の中に ノラの近況報告を楽しみにしている魔王の姿が浮かぶ。
 時間が余っているわけで無し、忙しい合間を縫って幹部階級だけで行われるノラの近況調査は そう頻繁に出向けれるモノではない。
 よって報告書の提出も多いわけではなく、担当によっては酷く簡潔な内容のモノも多いのだろう。
 そう。例えばリヴァンが担当した時とかは特に。

 彼女は別にサボリ癖があるわけではない。
 ただ時々 執務室横の秘密の部屋でくつろぐ習慣があるだけだ。
 どうやら今回はそれが長引いているらしい。
 引きずり出す餌として―――いや、交換条件として提案されたのかも知れない。

 まるでリヴァンとバリクのような位置関係だ、と他人事のように思考を巡らせる。


 そのボンヤリとした表情の奥に潜む反乱組織への苛立ちに気付いているのかどうなのか、カインは踵を返してノラとその契約者の居るであろう場所へと足を向けた。

「今すぐにとは言いませんが、帰り次第職務は遂行して頂きます」

 鋭く釘を差すのは忘れずに。












「で、情報屋とはどんな奴で何処に居る?」
「そんなに離れてはいないんでヤンスが・・・・・・一言で言うと変わり者でヤンス」
 人気の途絶えた教室を占拠して 市街地図を広げる。
 一磨の問い掛けに やや怯えた様子でケトケトは地図に指を落とした。

 ツイツイと走らされる指先に視線を落として、一磨は道順を頭にたたき込む。
 どちらにしろ一度は案内させるつもりだが 今後のことを考えれば記憶しておくに越したことはない。

「人間から見れば 貴様ら悪魔なんぞは 全員変わり者に見えるがな」
 鼻で笑いながら意見を述べれば、横合いから小さく罵声が上がった。
 耳聡く顔を向ければ 素知らぬ振りをすれば良いのに馬鹿正直に逸らされる視線。
 泳ぐ視線を釣り上げるように首輪を引き寄せれば、潰れたカエルのような悲鳴が漏れた。

「言いたいことがあるならハッキリ言え、馬鹿犬」
 躾はその場でしっかりと。
 後から指摘しても理解は出来ないものだと、物の本に書いてあったことを思い出す。
 机一つ挟んだ先に腰を下ろす野良犬との距離は、伸ばされた一磨の腕ギリギリの所で。
 引っかけた指をカギ状にして引き寄せれば否応なく息が詰まるのだろう。

 軽く力を抜いてやれば、もぎ取るように指は首輪から抜け去った。

「クソ!!」
 吐き出された罵声に 荒々しく咳を立つ音が続く。
 そんな風に距離を取っても 一磨の言葉一つで自由を奪われることを失念しているかのような行動だ。
 口角に薄く嗤いの色を乗せれば、ノラの表情は逆に引きつり 血色の良い顔からは血の気が引く。
 その一連の流れを見て、ケトケトが更に怯えの色を濃くした。

「聞こえなかったのか?言いたいことはハッキリと言え」
 最強の悪魔をもってして『悪魔』と云いたらしめた笑みを浮かべて、一磨はノラに発言を促した。
 フルフルと横に振られる銀糸。
 ノラの頭の動きに従い、くくられた髪が宙を舞う。

「改めて口に出来ないのなら、最初から口にするな 馬鹿犬」
 文字通り馬鹿にしたように指摘すれば、無駄に高いプライドに傷でも付いたのか 米神に青筋を立ててノラは一磨に噛み付いた。
「テメェだって、人間にしちゃぁ変わりモンだろって言ったんだよ!!」
 今度は怒鳴るようにハッキリと。
 その両極端な動きに一磨の眉間に軽く皺が寄るが、そんな事にノラは気付かない。
 こういう所が一磨に言わせれば『学習能力皆無』となるのだろうが、ノラからしてみれば当然の行為だ。

 腹が立てば怒る。
 頭に来れば怒鳴る。
 感情と行動は常に直結だ。
 一磨の取る行動や言動こそ、ノラには理解出来ない。

「下らんな。貴様が比較対照に出来る程どれだけの人間を見てきたと云うんだ。そしてどれだけ人間という存在を理解している?前もって言って置くが俺はきちんと悪魔について考察を重ねているぞ。貴様と違ってな」
 一息でそれだけ言い切ると、恐らく人間界に来てから―――あくまでノラの認識の中で―――『まとも』と認識出来る人間は数える程もいないだろうと 一磨は己の思考に一人頷いた。

 『いえ、あっしが見てきた人間の中でもダンナはかなりの変わり者でヤンス』とノラに加勢したい気持ちは山々だが、その後の無体な仕打ちを想像してオロオロと目の前の遣り取りを眺めるしかないケトケトの前で、二人の間に冷たい炎が灯る。
 やや劣勢ながらも、ノラの色違いの双眸が腹立たしさに輝きを深めた。

 今 正に手が出るか口が出るかと思われた瞬間、廊下に生じた人の気配に 三者三様に動きが止まった。
 一触即発かと思われた火花散る室内に、消化器をぶちまけた後のような妙な沈黙が降りる。

 一磨は上がり掛けた腰を再度椅子に降ろし、ノラは力の限り握り締めていた拳を 所在なさ気に傍らへと下ろした。
 そして、学校などに来るのが初めてのケトケトは如何にして身を隠そうかと 頭を抱えて蹲った。

 パタパタという軽い足音と、躊躇い無くカラリと引かれた扉から覗くのは 一磨とノラには見慣れた人物の姿。
  
「会長、今度提出の書類―――」
 ヒラヒラと掌中に揺れる紙切れを翳したまま、ドアに手を掛けたままで比良坂嬢は静止した。

 視線の先には、頭隠して尻隠さずといった感じで隠れ損なったケトケトがいる。
 当の本人は ドアを背にしてしゃがみ込んでいるため、気付かれているとは露程にも思っていないのだろう。
 いっそ哀れな程 必死な様子で元々小さな身体を縮込ませている。

 その姿を見て何を思ったか、比良坂嬢はゆっくりと視線をノラへと移して首を傾げた。

「え・・・・・・・・・と、SPさん何時の間に産んだんですか?」

「どういう結論だ!!」

 コトリと傾けられた、それだけを見れば可愛いと形容しても差し支えない行動に 間髪入れずノラは叫んだ。
 何をどうすればそういった結論に辿り着くのか理解不能だと頭を抱えて ノラはぐったりと手近な机に突っ伏す。
 かなりファジーな作りになっている比良坂嬢の理解能力と思考形態に全身脱力と疲労感を憶えたノラからは暫く再起不能、とばかりに顔を上げる意志が感じられない。

「その場合、父親は誰だ?」
 比較的比良坂の思考回路に慣れていた一磨から、冷静にツッコミが入る。
「会長じゃないんですか?」
 返す比良坂の瞳は無垢そのものだ。

「・・・・・・・・そうか、貴様が雌だったとは気が付かなかった。駄犬の分際で妊娠期間も弁えずに良くもこんなに健康な子を産んだな。俺には心当たりはない・・・・・・・・・訳でもないが、一応聞こう 誰の子だ?」
 無邪気に問い掛ける視線に、一磨は鉄面皮を歪めることなく 机と一体化したままのノラに声を掛けた。
 勿論全て理解しての悪ノリだ。

 それだけに質が悪い。

 真面目そうな顔のまま口頭に乗せる内容は酷く露骨で滑稽だ。
 顔に出さない分、慇懃無礼な台詞回しに面白がっている心情がありありと表れている。
 その態とらしい問い掛けに、ひくり とノラの肩が反応を返した。

 忌々しそうに顔の上半分だけを覗かせて、ノラは鋭く視線を一磨に向ける。
 相変わらず犬呼ばわりされたことを腸煮えくりかえる思いで歯噛みしているのだろう。

「俺 の 何 処 が 女 に 見 え る ん だ よ !!」
 続いて比良坂嬢へと視線と共に、上半身を向けると 地の底から沸くような声で 苦々しげに口にした。

「え〜、何となくSPさんなら産めそうかなって」
 悪気無く満面の笑みを浮かべて切り替えされれば、返す言葉がないとは正にこのことだ。
 どう切り返したものかと 嫌そうに髪を項垂れさせる姿は何とも表現しづらいものがある。

「まぁ、実際の所はどうだか知らんが あの理解不能物体が関われば白でも黒になりそうなものだな」
 助け船にも成り得ない一磨の一言は、確実にノラを不幸な気分へと追いやっているらしい。
 再び机に沈んだノラは、今度こそ身を起こす気配を感じさせなかった。



 その遣り取りの一部始終を確認し 報告書をしたためたカイン様が、魔王様誘き出し作戦のために重い腰を上げたことを 現時点でまだ彼らは知らない―――











なーんちゃって第12話。
あまりにも遅すぎるUPに『月ジャンネットのプレビュー見てムフフ展開を希望』とか
云ってる場合じゃないぐらい原作が萌え萌えしてるんですが、
一磨→ノラリヴァン×子ノラはオフィシャル公認ですか?そうですか。
何処まで逝っても原作の鼻血拭きそうなノラの愛らしさと、周囲のメンバーの
愛情溢れる接し方には敵いません。
むしろ後学の為 混ぜて下さい(*´д`*)ハァハァ
今回も本当はもっと長かったんですが、無駄に長くなりそうなので割愛。
ケトケトの喉を撫でる比良坂嬢を見てノラの喉を撫でてみる一磨さんとか、それに怒って噛み付くノラとか。
うっかりノラの眼に魅了されちゃうケトケトとか出てくる予定だったんですが割愛(死)



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