切り立った崖。ガードレールの向こうに鬱そうと茂る森を片目に夜道を走る。
 苛々とした空気を隠すこともなくノラは肘をついた。
「……!!」
「…今度は何が気に食わんのだ野良犬…… 少し落ちつけ」
 逆に、状況を全く気にすることのない一磨から、大きく一つ指摘が入る。
「落ちついてられるかクソボケ!!」
 噛み付くように返された言葉ももっともで、走行によって生じた風に髪を嬲られながらノラは声を張り上げた。
「てめー 今のこの状況分かってんのかよ!!」
 悠々と腰を下ろす一磨の姿からは、とても軽トラの荷台に揺られている様子は読み取れない。
 運転しているのは名も知らぬ悪魔と、プーソン。
 ノラからしてみれば、これほど苛つく状況もない。
 しかし一磨にはそんな焦燥は伝わらない。
 いや、むしろ理解した上で無視をしているのだ。
「状況?反乱組織の車に乗って奴らのボスの元に向かっているところだ」
 組まれた腕が尊大さを更に上昇させる。
「楽だし手っ取り早いだろう…何か文句があるのか?」
 車のチョイスは嫌がらせだろうが、と付け加えるのも忘れずに。
 一磨の言っていることはノラにも理解出来る。
 出来るが しかし。
 あからさまに上から見下ろされている状況、というのは再開してからこっち 未だに受け入れにくい。
 それだけが反発の理由ではなかったが。
「ありまくりだ!!魔王の魂を渡しちまいやがって……」
 走行中の車は揺れる。
 怒鳴るように吐き捨てつつ、ノラは安定しない上半身に気を付けながら運転席側へと這い寄った。
「おい!!」
 おもむろに一撃。
 積載物と後方を確認する為の覗き窓に拳を振るい、危険を顧みず助手席を覗き込む。
「覚悟しとけよサギヤロー…着いたらぶっ殺して魔王の魂取り替えしてやる!!」
 ギリギリと犬歯を鳴らし、額には青筋が。
 言いたいことだけ言って戻っていくノラの「うおっ危ね 落ちる!」という悲鳴を耳に、プーソンは鼻を鳴らした。
「ふん…馬鹿は血の気が多くて困るね」
 プーソンが取り引きしたのはあくまで一磨だ。
 単純なノラ相手では交渉にすら応じなかっただろうし、それ以前に二度と接触すら持つことはなかっただろう。
「や…やっぱ やばいっスよプーソンさん…」
 冷や汗を堪えるように運転手は口を開いた。
「勝手に取り引きしてボスに会わせるなんて……」
 ハンドルがカーブに沿い、緩慢に円を半径させていく。
 それを目に映すこともなく、プーソンは眼鏡を押し上げた。
「ふっ……心配無用さ 最初からボスに会わせる気はない!!そもそも その前に他の幹部にひと捻りされるからねッ」
 力強く言い切る。
 が、しかし その内容は何処までも他力本願だ。
「そんな事より大事なのは 私の手に火の魂と風の魂があることさッ!」
 胸を張り、宣言する姿は輝いている。
 指に挟まれた二つの魔王の魂もだ。
「これさえあれば出世街道まっしぐらだ!!」
 ―――プーソン。
 何処まで行っても彼はビジネスマンだった。
 しかし運転手には感嘆に値するものだったらしく、
「そっかぁ!さっすがプーソンさん!!」
 と 頻りに感心していた。

 対して危なげなく定位置に戻ったノラはといえば、再び一磨へと苦情を吐露していた。
「けっ!手っ取り早くってよー… てめー いつからそんな戦い好きになったんだよ」
 ブスーっとふくれたまま荷台に肘をついているせいで、必要以上に頬が歪んでいる。
「何?」
 逆に、そっれまで微動だにしなかった一磨が肩を揺らした。
「戦いに首突っ込むために強くなったってのは分かったけどよ」
 一磨が5年の時間を削ってでも、手に入れたかったもの。
 それはノラには分からない。
 ただ強さを求めるだけに其処までしたのか、それ以外の何かがあるのか、それすらも。
「何が面白くてそこまですんのか分んねぇ……」
「……」
 独白のように紡ぎ出される言葉に、それでも一磨は黙って耳を傾けていた。
 例え出来ないにせよ、一磨のことを理解しようとしていることを口にするなど 少し前のノラには考えられなかったことだ。
 一頻りノラが話し終わったところを確認して 一言。
「犬頭では解らんか」
「何だとコラァ!!」
 貶める訳でもなく口にした一磨の言葉は、確実にノラに屈辱を与える。
 すぐに噛み付くノラを軽くいなすことも、今の一磨には可能なのだ。
 ―――今までも充分だった、という事実は無視出来ないが。

「…うん?何だァ…?」
 騒がしい後ろを気にすることもなくハンドルを握っていた悪魔が、何かに気付いたように声を上げた。
「道の真ん中に立ちやがって…ひき殺してやるか」
 口ではそういうものの、念のためクラクションを鳴らす。
 が、人影は動かない。
「む…待ちたまえ あれは…」
 ハッ、とプーソンが自らの見たモノを再度確認するように眼鏡を持ち上げた。
「ネル!?」
 車のライトに照らされたのは反乱組織ユニットリーダーの一人、ネル。
 今までのような軽薄そうな表情ではなく、透徹とした瞳には 死刑執行人もかくやという冷たい色が宿っていた―――



勝手に捏造 第19話

―デカズマVSネルさんの
ノラちゃん争奪戦勃発!?の巻(嘘)―




「うわぁぁぁぁっ!!」
 引くことに驚いた訳ではなく、接近したことで車体ごと切断されることを恐れて、運転手は力の限りブレーキを踏み込んだ。
 アスファルトとタイヤが鼓膜を破りそうな嫌な音を立てる。
 それでもガードレールにも崖にも突っ込まなかったのは僥倖だろう。
 緊急事態とはいえ、予告無しの急停止に荷台の二人は転げ落ちていないかと プーソンは前方より先に後方へと首を回し掛けて……ヒヤリとしたものを首筋に感じた。
 視線を横へ走らせれば、今にも逃げ出しそうな運転手の顔が見える。
 彼の目はビジネスマンの首に釘付けだ。
 窓から入り込み 首に当てられた大鎌の鋭く灯火に照り返すその切っ先に。

「……これはこれは、ユニットリーダー自らご足労頂き……」
「あの二人を案内するっていうのはどういうつもりか、説明して欲しいところだね」
 長講には聞く耳持たないよ?と言外に斬って捨てられて プーソンは息を飲んだ。
 軽い口調とは裏腹に ネルの眼孔はキリキリと研ぎ澄まされて 今にも刑を下されそうな殺気をも叩き付けられている。
 プーソンの計画では、もう少しアジトに近付いてから適当な所で二人を降ろして、ユニットリーダーと対決させる腹積もりだったのだ。
 あくまで、自分は傍観者として。
 現状はかなり予想外だ……、と苦悩する暇もあればこそ。
 迂闊に身を捻れば首が飛びかねない。
 いや、むしろこのままでは確実に彼の首は飛ぶだろう。
「いえ、奴らを上手く誘き寄せましたので、各リーダーのお力をお借りしたく……ッ!」
 絞り出された内容は大まかに言えば元の計画と大差はない。
 ここで先行透視を使う隙さえあればっ!と願うのは彼だけではないだろうが。
「誘き寄せ?―――笑わせるね」
 わざわざトラックに積んで?そんな事しなくとも自分から飛び込んでくるタイプでしょ?と呟いて、それでも一応鎌は窓から出ていった。
 安堵の溜息を吐く間もなく再度荷台への覗き窓に目を向ければ、ネルの複雑な それでいて無理に笑っているような表情が窺えた。
 耳を澄まして助手席から様子を伺う。

「ねぇ、何やってるの?」
 ネルの呟きももっともだ。
 荷台の乗っているはずの二人。
 後部の壁により掛かるように両角に座っていたはずなのに、今はノラが背後から一磨に抱き寄せられるようにして腰に回った腕に手を添えている。
 降ろされた腰は、契約者の伸ばされた太股の上に乗っていた。
 ―――というより、完全に跨いでいる。
 妙にずり落ちそうな体勢なのは、先程の急ブレーキのせいだろうか。
 一磨の腕に添えられたノラの指先に縋るように力が籠もって見えるのも同様に。
「げっ!変態ヤロー!!」
「酷い言われ様だね……」
 嫌悪感丸出しのノラの言葉に、ネルは苦笑いを浮かべた。
 ノラが嫌そうに距離を取れば それはそのまま背後の一磨へと身を寄せる形となる。
 つい先程まで怒鳴り合っていたとは思えない密着具合に、プーソンは落ちかけていた眼鏡を指先で定位置へと戻した。

「で、何やってるの?」
 再び密着度を増し、逆に薄れていく緊張感を肌で感じながらネルが笑わない眼で同じ疑問を口にする。
「何……て、別に何もしてねぇぞ?」
 質問の意図が理解出来ないと首を傾げるノラの頭上から、返答が返った。
「馬鹿犬が直に腰を下ろすと振動で尻が痛いと言うのでな。少々甘やかしていただけだが?」
「オレ様は犬じゃねぇし、甘やかされてもいねぇ!!」
 キャンキャンと吠えだしたノラを解放するでもなく、抱えたままの状態で一磨は荷台から飛び降りた。
 幸いにも通行車両は全くないと云っても良い程の道路へ足を着く。
 決して無理に抱え込んでいる訳ではないというネルへの指示行為のように、ノラにも自らの足で地に降り立たせた。

 対峙して気付く、一磨の成長具合にネルが口笛を吹いた。
「カズマ君帰ってきたんだ。2ヶ月かぁ、早いね」
 そのまま帰ってこなくても良かったのに、という呟きは本音以外の何物でもなく。
「2ヶ月もあって犬一匹懐柔出来んとは…、余程の無能だな」
 返す一磨も、あくまで本心からの言葉を吐いた。
「オレは犬じゃねぇって言ってんだろーが!!」
「その言葉、そっくり君にお返しするよ」
「愚かしい事を言うな。オレは元より飼い主だ」
「我が侭だねぇ、本当に」
「オイコラ!無視すんなっっ!」
 吠え続けるノラの事などお構いなしに、罵声の交錯は続く。
「魔王サマの戯れで結ばれた契約で、笑わせるよ」
「貴様のように不義理ではないのでな。手間ではあっても躾に余念はない」
「手間?じゃあ、僕に頂戴?」
 強請るような言葉とは裏腹に、ネルは振り上げた手に火属魔法を生じさせて、放つ。
「げっっ!!」
 言葉と共に勢い良く向かってくる劫火に、ノラが身を捩った。
 しかし拘束は揺るがない。
「落ち着け馬鹿犬。逸らせば十分だ」
「ぅぐ。風属魔法 風神の息吹を『宣言する』!」
 腕を伸ばし、一磨から流れ込む魔流を掴んで風のシンボルを浮かび上がらせる。
「『許可する』」
 ノラの正面に生じた風のうねりが、向かってくる炎の進路を曲げ 遙か後方のアスファルトに着弾。
 背後から熱風を感じる程の威力を持って、コールタールを溶かす程の温度が消失した。
 余波とは言っても吹き付ける風は、それでも軽く肌を焼く程だ。
 いくらジャケットを着込んでいるからといって、ノラを抱え込む一磨にはそれなりのダメージもあるだろう。
 それでも、腕が緩む事はない。
 むしろノラを引き寄せ、ネルから目を逸らさず、風に巻き上げられる銀糸に顔を埋めた。

「貴様に呉れてやる義理はない」

 頭上から ハッキリと宣言した一磨に、ノラは堪らず 苦しい体勢ながらも振り仰いでその顔を伺った。
 魔法を放つために伸ばされた手は 自然と腰を拘束する腕に添えられるように元の位置へと戻る。
 まるで其処が定位置であると認識しているかのように。
「貴様の元上司に聞いているぞ?死人使い」
「ヘェ。アノ人に会ったんだ?」
 ネルの口元が弓月に歪む。
 纏う雰囲気に昔を懐かしむ様子は見られない。
 普段女好きを演じているのはあくまでスタンスと云う事か、それともメルフィアがネルの射程圏内から外れる程の女傑だったという事かは定かではないが。
 総てを見下したような視線が一磨を射抜く。
「貴様はそうやって馬鹿犬の力を手に入れるつもりなのだろうがな―――」
 嬲るでも嘲るでもなく、淡々とした言葉は、ノラの首を竦めさせる程の冷たさを持って紡がれる。
「身体や力は手に入れられても、相手の本質は手に入れられない」
 ケルベロスの力は、それ自体が本質ではないとでも言うように。
 しかしネルの顔は変わらない。
「君が何を知っていると言うんだい?ニンゲンに過ぎない君が」
 死んだ悪魔を使い魔にする。
 それは他に類を見ないもの。

 そして―――今まで使い潰してきた悪魔達の、自在に行使出来た魔法。

「悪魔はね、ニンゲンとは違うんだよ」
 本質など、何処にも無いというように笑ってみせる。
 竦められた肩は、
「所詮、貴様はその程度だ」
 一磨の台詞に 動きを止めた。

「野良犬の何を手に入れたとしても、貴様の手に残るのは塵芥のみだ。どれだけ精巧な死者を従えたとしても、それは既に野良犬ではない」
「……てめー、何―――」
 呆然としたノラの声にも。一磨の滔々とした声は止まらない。
「今ここにいるコレが『ノラ』という存在だ。コイツを形作る魂はコイツのもので、他の誰にも触れられるものではない」
 一磨の腕を掴むノラの指先に力が籠もる。
「よって、貴様に呉れてやるものは 何も無い」
 ネルに向けられた言葉は、そのままノラに向かうもので。

 ―――ケルベロス、という『力』を求めるのではなく、ノラという存在を。
     『力』としてのノラではなく、ノラという名のケルベロスを 大切にしているのだと。

 ノラが今までに見た、他の誰とも違う事は知っていた。
 けれど これだけあからさまに表現された事はない。

 大の男二人の激化する睨み合いの下で、ノラは一人言葉にならない感情に 金魚のように口をパクパクと動かすしかなかった―――









例によって例のごとく、upが間に合いませんでした.。.:*・゜.。.:*・゜☆
そして原作の方は他の追従を許さぬ程に萌え垂れ流しの展開ですね!!゚+。(・∀・)゚+。゚
原作でこれだけ読者の萌え上がるCPを補完していく漫画も珍しいですよね?
矢張り神の描くモノは違うなぁ(屮゚∀゚)屮 щ(゚Д゚щ)





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