「……俺は貴様の運命などどうでもいい……消滅するなら好きにしろ」




勝手に捏造 第22話

―魔王様の真実が知りたくて
ウズウズしませんか!??―








 フォールの言葉に、空気が凍えた。
 ディグリーの静止の言葉にも耳を貸さず剣を振るうフォールを、しかし他の古種族は止める事は出来ない。
 力ずくでも。
 ディグリーが呼び起こした フォールの力への渇望は、彼が人間界に修行に行っている間に 目を見張るほど膨れ上がっていたのだ。

 ―――強く。 ただひたすらに、強く。

 その力は既にカイン達を凌ぎ、アストの結界魔法ですらも抑え込む事は出来ない状態になっている。
 もし可能だとすれば、それは最強の悪魔ケルベロスたるディグリーの力だけなのだろうが……彼はフォールの要求を拒絶し続けた。

 銀光が閃き、周囲の土砂が舞い上がる。
 その中を突き抜けるように繰り出される断絶の刃が、執拗にディグリーへと力の開放を迫った。
「駄目だフォール!俺はもう誰とも力比べはしない」
「貴様の都合など知らん!!」

 眼下で繰り広げられる戦闘に、一磨はただ沈黙を守っていた。
 確かに過去の真実を突き付けられて衝撃は受けた。
 が、しかし。
 今の自分と恐らく同じ立場である、まだ人間の『魔王』に同情や憐憫の情が動く事すらなかった。
 状況がどうであれ。

「黙して滅びる前に剣を取れ!貴様の力を示して見せろ!!」
 一際激情の籠もった声と呼応したのか、一気に魔力が膨れ上がった。
『―――!!』
 鼓膜を破りそうな音と、衝撃が周囲に悪魔を貫いた。
 咄嗟にアストが張った結界魔法で魔王を含むほぼ全員が庇われたものの、肝心の次期魔王への防御が間に合ったかが酷く怪しい。
 濛々と立ち込める煙の中から、金のウエーブが広がりを見せた。
 風に揺れるでもなく、ただ静かに。
 仮面を被った人間の女性の前に、庇うように立ったディグリーがその一房を掴み、慣れた様子で肩へと戻した。
「……フォール。もう時間がないんだ」
 振り向き、沈痛な面持ちでフォールを見詰めるディグリーの目に、嘘はない。

 ―――無いからといって、収まりなどつくはずはない。

「言ったはずだ。貴様の運命などどうでもいいと……」
「違うッ違うんだ!もう余裕がないのは世界の方なんだ、魔王様の方なんだよ!!」
「……ディグリー……」
「っっ、すいません……」
 交わされる応酬に、魔王の静かな言葉が割って入った。
 老いている、と感じてはいたが 確かにフォールの耳に入った声ですらも酷く力無く、弱々しい印象を受ける。

 世界を支えるため。
 その事実を幼い頃から知っていたとは言え、どうして納得が出来るのだろうか。
 ただ死ぬ事を前提に生きる。
 力を求める事すら死を早めるだけの生き方に、満足など出来るはずもないのに。
 ディグリーは誰の前でも、その宿命を悟らせることなく明るく振る舞ってきた。
 それは自分の『役目』だと、理屈でなく受け入れるしかなかったから。
 自分以外の誰かを犠牲にするよりは、むしろ……。
 出来る事ならディグリーとて死にたくなどない。
 当然だ。
 フォールとの約束だって守りたいと思う。
 その為に、強くなってくれたと思いたいから。

 けれど。

「死にたくないって言っちゃいけないんだろうけど、俺だって嫌だけど……みんなの生きる世界が無くなるのは、もっと嫌なんだ」
 俺の分まで生きて、幸せになって、なんて重い事は言わないから。
 ただ守らせて?
 せめて俺の求めた この力で。
 決して利用するためではなかったのだと、困ったような顔で、キュッと唇を噛み締める表情にフォールの切っ先が微かに揺らいだ。
「弱い奴は淘汰されれば良い……」
「世界が滅びればみんな滅びる。強いも弱いも無いんだ」
 一つ一つ、お互いの言い分を潰し合っていく。
 意志の強い者同士だけに 他が割って入る事も出来ない。
 ただ、受け入れがたい現実に対しての 虚しい交差だけが続いていく。

 言葉は、何にも勝る刃のようにお互いを傷つける。


「―――?」
 途切れることなく繰り広げられる光景に見入っていたノラの肩に、時折力が入っているのには一磨も気が付いていた。
 だが、左の指を掴むこの手は一体何だというのだろうか。
 左手は自らの服を掴み、右手で一磨の指を2本ほど握り締めている。
 指先から辿って顔を見れば、真っ直ぐに下の状況に……いや、先代ケルベロスとボスの遣り取りに完全に気を取られているようで、一磨の事すら視界に入っているか怪しいところだ。
 反射的に力の入る手。
 腕を掴むでもなく、手を握り締めるでもないその動きは、不安を募らせる子供のようで振り払われるのを恐れているようにも受け取れる。
 だから、振り解く事も放す事もなく 覆うように、上から握り締めてやる。
 2ヶ月前より小さく感じる、その手を。
 少し無理がある包み方ではあるが、それでも一磨がそうしたかったのだ。
「……っ、放せよ」
 不意に掛かった力に、驚いたような金眼が一磨の黒曜を穿つ。
 しかし、揺れる色は元々備えた力すらも散らし、一層の動揺を契約者に伝えた。
「先に掴んだのは 馬鹿犬、貴様の方だ」
 無意識か?と問う目を直視出来ず逸らされる瞳。
 俯けば旋毛すら見る事の出来る身長差は、ノラを抱え込むには調度良くて。
 けれどノラは抗うだろうから、まずノラ自身を自覚させてしまいたいと思う。

「俺は貴様の運命などどうでもいい……消滅するなら好きにしろ」
 一磨の発した言葉に、ノラの後ろ髪が跳ねた。
「―――と、俺が言ったように聞こえたか?」
 掴み返された手を振り払おうとする動きも、見上げるような怯えた目も。
 絡んだ視線から逃れるように逸らされる瞳も。
「そ、んな……のっ」
「自覚しろ」
「何をだよっ!」
「……中途半端な気持ちで掴んだと持っているのか?この手を」
 目の前まで引き上げられた 手。
 絡む指。
 力強く握られる手も、ノラを見る一磨の目も。
 ノラと対等になるために5年という時間を取引に使ったと言った、あの瞬間と同じで。
 既に知ってしまった、言葉にはされない『遊びではない』という一磨の思いに、ノラは首を横に振った。
「俺が、魔王になどなりたいと言った事があったか?」
 引き寄せた手の甲に口付けて、近付いた耳元に言葉を落とす。
「聞いた事、ねぇ」
 くすぐったさに ビクリと揺れる肩口で、否定の言葉を聞く。
「当然だ。そんなモノになりたいとは思わん。これからもだ」
 噛んで含めるような一磨に、ノラの髪が項垂れた。
「でも、てめーはオレを最強にしてーんだろ?」
「あぁ、そうだ」
 それはつまり、次の魔王を作り出す為の作業。
 一磨自身がどうであれ、過去を垣間見た以上 その事実は変わらない。
 それが悲しいのか辛いのか、自分の感情すらもノラには理解しがたい。
 ただ 受け止めきれない感情は、確かに胸の内に存在しているのに。
「だが勘違いするな。俺が欲しいのはノラ、お前だ。俺が、お前を最強に育て上げると言う事が俺の望みだと言ったはずだ。世界の為に、俺は自分のモノを差し出すつもりはない」
 そして自分が魔王になるという事実すら、一磨にとっては体の良い犠牲にしか思えない。
 人間を悪魔に、そして世界を支える生け贄に。
「そんな詰まらん世界など、いっそ滅びてしまえ」
 足の下の争いも、過去の事実も未来の予測も、全ては二の次で。
 今、一磨にとって大切なモノはノラだけだと伝えれば、自然 ノラの身体から力が抜けた。
「……良いのかよ、そんな事言って。家、とかあるじゃねーか……」
 ボソボソとした呟きは、至近距離でも聞き取りづらい。
「本当に求めるモノから手を放して、残った何を大事に出来る?今更手を放すつもりなら、最初から触れたりはしない」
 見くびるな、と囁いて。
 改めて、震える体を抱き締める。
 哀しいのか苦しいのか、それすらも分からぬまま 誰のものとも分からぬ裏切りに打ちのめされる心を想う。

 この世で唯一つの存在。
 ノラを守れるのは自分だけだと、深く心に誓う。

 情報屋への報酬は この決意なのだと、一磨はノラを抱く腕に力を込めた。














さて月ジャンの発売前に一応書き上げはしましたが、ウチのノラ様は弱々なので
原作の可愛格好いいノラ様が一体どういう反応を示してくださるのか
心の底から楽しみです゚+。(・∀・)゚+。゚
しかし、終わりが近いという話を聞くだに恐ろしい!!ガコガコ(((ll'゚A゚)))ベロベロベロ




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