外へと放出された障壁を破る衝撃に、魔王の胸中に閃く姿がある。

 真面目で誠実だが、融通の利かない ノラに対しても何処までも真っ直ぐに接していた青年・・・・・この魔力の喪失はバリクのものだ。

 目の前で、彼の死を愚かだと嗤う男がいる。
 それはかつて、彼女の愛した者を殺した時と重なる貌だった。




勝手に捏造 第24話

―これ以上泣かないで ノラ様!!(切実)―





 ―――あれから約1000年。

「変わらないのね・・・・本当に」
 零れた言葉はフォールには届かない。
「変わったさ。より強くなった」
 その、真意は届かない。
「理解して欲しいとは思わない、と言ったでしょう?
貴方に私の想うことが伝わらないのは、先刻承知の上よ」

 掌中に成した剣を翳して、構える。
 久しく戦いの場から離れていたように見せながら、その実鍛錬を欠かしたことなど無い。
 何時か来ると知っていた、この日の為に。

 火花散らす、一瞬の交錯を妨害したのは 結界に外に生じた魔流のせいだ。
『!?』
 共に、弾かれたように顔を上げる。

 異様な凝縮を感じさせる魔力、それは ケルベロスの―――ノラの魔力に良く似ていた。



「ケルベロスの魔力―――なのか……」
「ノラちゃん!?一体、何が……」

 互いへの牽制は忘れず、しかしあまりに膨れ上がる魔力に心惹かれる。
 生じた時と同じく、魔法に変換される瞬間の爆発的なエネルギーに 特殊階級エリアの空気が震えた。
 同じく、魔力満ちる空間故の影響だろうか。

「あれほどの力を隠し持っているとはな……」
「成長しているのよ、あの子も」
「この世界の贄としてか?下らん、全て滅びろ!!」
「愛すべき二つの世界を維持する為だわ!かつて、あの子が望んだことよっ、そして私の望み!!」
「その身にディグリーを喰らった者の言うことかっ!」
「それが、あの子を手に掛け 力の一部を奪ったことの言うこと!?」

 強い、意志を込める。
 決して折られることの無いように。
 魔王の 護るべき者達の為に、盾として刃として―――

「悠久の時に、人の心が耐えられるものか。それ故の世代交代……貴様の心も膿んでいるのだろう?」
 ギリギリと音を立てて、刃がかち合う。
「生憎と、まだまだ現役なの。―――貴方のように、求めるモノもなく爛れてなど、いないわ!!」

 金属音を打ち鳴らして、返す刀で距離を取る。
 そんな魔王に、フォールは肩を揺らした。

「求めるモノがない……?面白いことを言う」
 絡む視線に、魔王の背に冷たい汗が流れる。
 何処までも凍える、それでいて青く燃えさかるような眼だった。

「今見せた魔力。心躍るな……アレなら手に入れても良い。
アレを求めるのも一興だ」
 全て滅ぼして、殺し損ねた契約者も今度こそ息の根を止めてやろう。
 ―――かつて、そう仕損ねた時の仕切直しとして。

「馬鹿なことを……ノラちゃんとディグリーは別人だわ。
生まれ変わりなんかじゃない」
 ノラちゃんは災禍になんてさせない。
 カズマくんと―――

 振り上げた銀光が、緑の草原に閃いた。







 バリクの遺体を取り囲む。
 零れる涙を拭いて、全員が黙祷を捧げた。
「急ぎましょう」
 彼の死を無駄にしない為にも。
 そう促すカインに、皆が頷いたように―――見えた。

「………」
「ノラ様?」
 泣き濡れた頬もそのままに、ノラがカズマの腹に拳を当てた。
 カインの問いにも反応を返さず、一磨もされるがままにしている。
 力は入っていないらしい。
 普段のように煩わしい、という顔も見せず 繰り出されたその手を取った。

「―――ノラ」
 引き寄せて、呼ぶ。
 ただ 名前を。

 一磨の知るノラは、確かに我が侭を口にするが 全く状況を弁えないほど無能でもない。
 そして、喪失に無為に嘆くだけの弱さなど 彼自身育ててはいない。

「―――ノラ」
 何を考えたのか。
 何をしたいのか。
 聞いてやるから言ってみろ、と。

 まだ拳を振るい続けるノラの頭を、自らの肩口に押し付けた。

「……アイツ、このままにしたくねぇ」
「ヒレ耳男を、か?」
「無理ですノラ様。先を急がなければ……」
 コクリ、と縦に振られた首に レナードが言葉を濁した。
 確かにこんな所へ野晒しにしておくのは気が咎めるが、そういう事態ではない。
「違うな。それだけでは無いだろう?」
 周囲に広がる波紋に、一磨が一石投じた。
 情に流されるのではなく、一つの判断を委ねる。

「アイツが、来る」
 一磨を打つ拳が、きつく握り込まれてその動きを止めた。
「……あいつ……?」
 聞き留めた者が眉を顰めた。
 誰が来るというのか。

「―――ネルか……」
「―――ネルのヤローだな」

 一磨と、それまで沈黙を守っていたリヴァンが、ほぼ同時に口にした。

「……アイツが来る。ぜってー」
「あの傷が治っているとは 思えませんが」
「巫山戯た奴だからな。多少の隠し玉はあって当然だろう」

 ノラの断定にレナードが注進するも、一磨が斬って捨てた。
 何も言わないリヴァンも同じ意見だと思って良いのだろう。

「でも、どうしますか?その人の術には謎が多いと聞きましたけど……」
 バジーからネルのことを聞いたことのあるロネが、恐る恐る手を挙げた。

 元 魔王軍副将軍 ネル

 彼の支配法は、この場の誰も知らない。
 分からなければ 手の打ちようもないのだ。

「―――心臓に、細工がある……変な魔流があった」
 ぽつりと口にする。
「何かご存じなのですか?」
「アストの、胸の一点に変な魔流が見えて 其処を壊したら、元に戻ったんだ……」
 記憶を手繰り寄せるノラに言葉に、メルフィアの手がバリクに向かい翳された。
「何し……メルフィア止めろ!!」
 収束しつつある魔力を、腕に縋ることで止める。
「ノラ公何やってんだ!アブねーだろうが!!」
 その身を張った静止に、バジーが引き剥がしにかかる。
「だって……、バリクをっ」
「ノラ様、アンタさっき自分で言ったんでしょーが。あのカス野郎が来るって」
「……っだけど…ッ」
「戦争は始まった。危険要素は残せねぇんだよ、軍人なら尚更 な」
 逆に火葬してやれるだけマシだと思わなければ。
 戦火の元、野晒しにされる軍従事者は多い。
 そんな中で、死を看取り 葬ってやれるだけ、バリクはマシな方なのだ。
 ましてや敵に利用され、結果的にノラを襲うことにでも使われれば、彼自身死に切れるものではない。
 そして、綺麗に灰にしてやれるのは メルフィアぐらいしかいないのだ。
 悪魔一人、燃やし尽くすだけの火力など そう易々と作り出せるものではない。
 だからこそ、彼女が炎を練り上げたというのに。

「馬鹿犬、お前に出来るのか?」
 この場で、唯一の部外者が口を開いた。
 人間であり、一応軍という柵とは関わりの無かった一磨は淡々と口にする。

 その言葉に ノラが頷いた。

 差し出された手を取り、額に一磨の右手が触れるのを感じる。
「……く……っ」
 息を詰めて 触れた所から流れ込む魔流を、身体に取り込む。
 今までのように掴むのではなく、体内の深い所で 濃く、強く、凝縮させていく。
 何度も何度も一磨とノラを循環し、周囲の目にも明らかなほど 圧縮された魔力が ノラの中の存在していた。

「―――ケルベロス……」
 畏怖を込めて呟いたのは 誰だったのか。

 翳された手の先に、火属の紋章が浮き上がる。

「火属魔法―――」
「『許可する』」

 生まれた火力は、その場の全てを圧倒するに足るだけのものを持っていた。


 さらりと風に流れる灰を背に、塔へと踏み込んでいく。

「立ち止まらねぇ。忘れねぇよ―――絶対」

 誓いは、静寂を破る足音に、飲まれて消えた。






最近の展開は真面目なので、とてもではないけど
以前のようには遊べません_| ̄|○
それでもやっちゃうアホの子です。
3月号が怖いよう!!
でも軍属だから火葬しますよね??
ノラ様また泣いてそう!!(ノД`゜)ウワーン。




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