勝手に捏造 第33話
−その半年間
イチャイチャしてたんですか?−




「ヤァ!ダ・ゴーンお兄さんだよ、久しぶり!!」

 ピシャン!!

 反響音と、軽く壁を揺らすほどの振動を伴って 教室のドアが閉められた。
「会長!!」
「アレは、俺の知り合いではないな」
 非難するような比良坂の呼び声に、広がった身長差の分だけ一磨の視線が下へと降りる。
 その正面でカラカラと開かれた扉の隙間からつるりとした黒い頭が、落ち込んだようなオーラを纏って顔を覗かせた。
「ヒドイ物言いだね」
「貴様等の存在の好い加減さよりは酷くない」
「会長ヒドイよー、みんな凄く面白いのに」
 辛辣な切り返しの間に切り込む比良坂だが、一磨の視線は冷ややかなままだ。

 たった半年。
 あの出来事から、もう半年間。
 長いと取るか短いと取るかと聞かれれば、今の一磨には答える言葉は無い。

 ただ言えるのは、穏やかで静かな時間だったということだけだ。

 だと言うのに、これまで何の接触も無かった情報屋からの使いなど碌な用件ではないのだろうと予測をつけてしまうのは仕方の無いことなのかもしれない。

 それでなくとも一磨の右手には未だノラを縛る契約の証が残っているのだから。

「マスターから伝言を言付かってきただけだよ!」
 胡乱気に据えられた視線に、差し出された封筒が力なくへたれる。
 例によって趣味の悪い柄のそれを手に取れば、もう用は無いとばかりにダ・ゴーンは姿に見合った不思議な動作で教室を去っていった。

「真狩……、さっきの―――留学先の知り合いか何かか?」
 不信さを隠すことすら出来ずに問い掛ける藤本に、一磨は深く肩を落とした。



「戻った」
 玄関を開ければカラリという音が長く続く廊下へと響き渡る。
 奥からひょこり、と姿を現したのは多磨緒だった。
「お帰りなさい」
「あぁ、……アレはどうしている?」
 迎えに出ようとする母を制して、一磨は離れに移した自分の部屋へ視線を向けた。
「今日も良く眠られているようですよ」
 少し、起きられても良いと思うのだけど。
 言葉にも声音にも表れない息子の内心を読んだように、多磨緒の呟きが零れる。
 一磨が外に出せない心配を、代わりに。
「夕食の用意が出来たら声を掛けますね」
「頼む」
 了承するように頷く姿を視界に残し、一磨の意思は既に部屋へと向けられていた。

「戻ったぞ」
「……ン……」
 鞄を所定の位置に置き上着をベッドへと投げ捨てて、床に敷かれた布団の傍へと腰を降ろす。
 喉に絡む声を無理やり引き出したような返事は、もう一人にこの部屋の住人のもの。
 ぼんやりとした瞳が一磨を捉え、緩やかに焦点を結んだ。
 乾いた唇を湿らせるように二 三度赤い舌が外気に触れる。
 改めて開かれた口は、溜め息のように言葉を紡ぎ出した。

「オレ、また寝てたのか……?」
「そのようだな」
 ダルそうに起こす上半身を押し留め、軽く額に触れるだけで大した抵抗も無く再び布団へと沈み込む。
 解かれた銀色の髪が、その拍子に纏まり無く散らばった。

 ノラがフォールから世界に魔力を循環させる力を継いでから、半年。
 ふとした拍子に暴走しそうになる程の魔力を安定させる為に一度は魔界に戻ったものの、結局魔王軍の目を盗んでノラは一磨の所へとやって来た。
 以前のように暴れたり噛み付いたりすることは少ない。
 むしろ本来のノラの様子とは掛け離れたその様子に、思わず一磨の方が疑いを抱くほどに。
「調子はどうだ」
「落ち着いてはきたみてぇだけど、もう少し」
 眼を覆うように乗せられた右手に、深く息を吐いて。
 頬へと滑る手に懐くように擦り寄る。
 熱は無いが、時折辛そうに寄せられる眉根がノラを苛む魔力の強大さを物語っているようだ。
 状態としては軽い知恵熱のようなものなのだろう。
 しかし、その期間は酷く長く続いている。
 恐らくは気候まで乱れた人間界を集中的に修復するために、慣れない魔力の操作を自らに強いたせいもあるのだろうが。
 憔悴したように眠り続けるのはその反動なのだろうか。

 一磨の気配に安心した様に再び眠りの内に沈んでいく。
 穏やかな寝息がたつのを確認して、起こさないようにひっそりと腰を上げた。

 ベットの上に広がる上着のポケットを探る。
 ダ・ゴーンから預かったサレオからの手紙には、たった一言だけ記されていた。

『魔王軍が動き出しました』

 状況を知らせるのに、これほど的確な言葉も無いだろう。

「さて、どうするか……」
 掌中でゆらゆらと揺れる紙切れを弄ぶ。

 恐らく魔王軍は、程なくこの場所を嗅ぎ付けるだろう。
 今は一磨によって抑えられているノラの魔力は辿れない。
 その代わりに魔王の付けた契約の首輪が発信機のような役目を果たしているからだ。
 対策としては、契約を解除するということ。
 だが、今のノラが全ての魔力を一身に受けて耐えられるのかどうかが問題になってくる。
 抑え込めなければこの場所は崩壊するだろうし、当然魔王軍にも見つかってしまう。
 ケルベロスの魔力は、これ以上無いほどの目印だ。
 けれど、眠るノラを起こして説明をすれば必ず『出来る』と答えるだろう。
 あの強い瞳で、迷うことなく応じるのだろう。

「―――新しい、関係が必要ということか」


 契約者と、使い魔としてではなく。
 一磨と、ノラという対等の関係が必要になっているのかもしれない。


 次にあの瞳が開いたなら話しをしよう。
 ―――これからの事を、二人で考えるために。





 と、いう訳でお久しぶりです妄想捏造シリーズ(?)です。
 原作の展開がプレビュ見て弄れないほど重くなくなったのでやっちゃってみました。
 さぁ、明日が怖いぞ原作!!
 ……そんなわけで、とりあえず妄想侍らせてみました。
 どんなカンジでしょうか。
 コワイコワイ。




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