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傍に立つと、上の方からコロコロと小さな音が聞こえる。 ノラが不思議に思って見上げれば、タイミング良くバジーと視線が合った。 「おう。ノラ公も喰うか?」 差し出された物は綺麗に包装された、アメ。 薄いイエローのそれは、ノラの苦手な柑橘系の味で。 「・・・コレしかねーのかよ・・・」 「あぁ?そーいやレモン嫌いだって言ってたっけな。オメーも大概犬だなー」 嫌そうにレモンキャンディーを掴む姿に、バジーが思い出したように笑う。 「うっせぇクソボケ・・・!オレ様は犬じゃねーっっ!!」 途端に不機嫌になるのも判っているけれど。 「今それしかねーんだよな。またロネちゃんに貰って来てやるからよ」 機嫌直せー、と豪快に笑うバジーからは 似合いもしない甘酸っぱい匂いがする。 「テメーは何食ってんだ?」 頭を撫でられる事を嫌がって手で払いながらも、視線はバジーの口元に固定されている。 一度気になると答えを知るまでスッキリしない子供の性分か。 「ん〜、コレか?確かイチゴだったと思うんだけどな?」 「喰ってて分かんねーのかよ!」 味オンチ!!と罵る言葉は一体誰から聞いたのやら。 何しろバジー自身、副官のロネに渡された物を確認もせずに 反射的に放り込んだだけで、殆ど無意識で食べているようなものだから改めて問われればちょっと返答に窮する。 そもそも甘い物よりは 酒の方が好きな大人なのだから。 「やっぱりコレいらねー」 「持っとけって。オレも喰わねーしな」 「いらねーよ。オレだって食わねーもん」 突き返し、押し返されるレモンキャンディーの立場は既に無い。 「そっちの味だったら食えたんだよっ」 食べられないものを持っていても仕方が無い、と主張する様は 本当に年相応の その姿に見合ったお子様ぶりで。 常日頃からその点についてノラをからかう事に余念の無いバジーに悪戯心が湧いたのも無理なからぬ話しだろう。 「仕方ねーなー、このお子ちゃまは」 「オレ様はガキじゃ――― っんぷっっ」 いつもと同じ遣り取り。 反論のために開かれた口を しっかりと己が口で塞いで、甘い塊を舌と共に滑り込ませる。 零れない様にしっかりと小さな舌の上に乗せてやれば、ノラの小さな口では受け止め切れなかった甘露が溢れ落ちた。 「ん、んーっっ ぷぁっ!」 普通に息苦しくて小さな拳をポカポカと振り上げていたノラは、バジーが離れた途端に大きく息を吸い込んで・・・咽た。 「っごほっ、バジーの筋肉バカ!クソボケッ!!」 口移しされたアメで頬を膨らませながら涙目で詰られても、笑いこそすれ怒る筋などは無い。 腹立ちのせいで気付かないのか、喉の近くまで垂れ下がる糖分にベタ付く唾液の痕を もう一度押さえ込んで舌先で舐め取れば、今度は驚きに色違いの双眸が見開かれた。 まだくすぐったさしかない様な子供だというのに。 ドロリと垂れているせいで 少し強めに舌を押し付ければ、濡れた感触が気持ち悪いのか身を捩ってギャアギャアと叫び声が上がる。 ――― ガキだなぁ。 しみじみと込み上げる思いを握り潰して。 大人の女ならもっと色気のある反応だろうに、と腹の底で笑う。 「オメーがアメ喰うの下手だから、綺麗にしてやったんじゃねーか」 笑って見せてもノラの視線は緩まない。 「ふつーに拭けよっ、面倒くさがらずに!」 返されて思わず吹き出しそうになった。 自分の相手をするのに、手を抜くなとでも言いたいのだろうか。 「次からノラ公用に涎拭き用意してきてやるよ」 「ふざけんな ボケー!!」 振り回される拳は、避けるにも軽すぎて。 反射的に頭を掴んで髪を掻き乱せば、また子供のようにノラが吠える。 バジーとノラの、いつも良く見るスキンシップへと 気が付けば移行していた。 バジーとしては少し残念な気もするが。 そのまま済し崩しに体術の訓練へと流れを移して行く。 勿論ノラをからかう為に、手元に戻ったレモン味のアメを口に放り込みながら。 |
ついついやっちゃう飴ネタです(*´д`*)ハァハァ うっかりスクロールすると、後日談のオマケ付☆ |
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後日談。 「バジーっ!!」 広々とした特殊階級施設の中、ドアを潜ってすぐ 耳慣れた声が3人の視線を引き寄せた。 「ノラ公?」 「ノラ様と呼べ、ノラ様と」 たしなめるレナードに笑って返しつつ、バジーの目が駆け寄ってくる幼い姿を捉えた。 軽快な走りは下草に足を取られることも無く一直線にバジーに向かい――― 「ぅおっ!?」 「っんむ〜〜ッ!!」 勢い良く跳び付いたかと思うと、ガチリと音を立てて口元がぶつかった。 「ん、なっ・・・・な、なな何をされているんですかノラ様!?」 思わず小さな身体を抱き留めたバジーは、把握不能な状況のために目を白黒させている。 対して無事着地したノラは、驚きに声を裏返すレナードと、何が起こったかと今更の様に視線を向けたりヴァン、面白そうに状況を見守るメルフィアも目に入らない様子で高らかに宣告した。 「この間のお返しだ、バーカ!!」 あっかんべーっと舌を出し、再び走り去る後姿を 半ば呆然と見送る。 「お返し、とはどういうことかな。風軍将殿?」 瞳の奥の好戦的な光を隠すことなく、女傑が問い掛ける。 将軍階級唯一の良心 レナードは事態を飲み込めずに、頭と胃を押さえて苦悩していた。 「で、あのガキ何の用だったんだ?」 めんどくさそうに欠伸を噛み殺すりヴァンは、それでもバジーに向ける氷の瞳は鋭利さを増していて。 研ぎ澄まされた炎と絶対零度の視線に殺されそうだ、と内心首を引っ込めながら。 口内に甘くコロリと転がるオレンジ味を、舌の上に乗せて。 「やるなーノラ公〜」 柑橘系の味は嫌いだろうに、この為だけに態々口に入れてきたのかと思うと ヘラリと顔の筋肉も緩む。 『・・・・バジー・・・・』 重なる3人の同僚の声が肌に突き刺さるようだと苦笑しながらも、軽やかに逃げ去って行った銀色の尾が脳裏を占める。 この不意打ちは、本当にしてやられた。 しかし、その嫌ではない出し抜かれ方に 感心しながらも酷く惹き付けられるモノがある。 「やるな〜。マジで」 いつもは噛み砕いてしまうアメも、今日ばかりは全て溶かしてしまいたい。 そう思った、バジー臨死体験3秒前。 |