魔王様の長期計画
−策謀編−





 掌中でプルプルと分裂していく、良く見知った生物の初めて目にする動きに、ノラがピシリと音を立てて固まった。

 鳥で言えば雛。
 鹿で言えば小鹿だとか。
 小さく蠢動しながらも、それらとは全く異なる生まれた(?)ばかりとは思えないほど滑らかに、ノラの肩へと元一匹は移動する。
 擦り寄る、柔らかで少し冷たいジェリー達。

 ……達?

 自らの思考に首を傾げながらも、ノラはその足で魔王の元を訪ねた。


 特殊階級エリアから繋がる執務室は、魔王一人の為にしては異様に広い。
「どうしたの、ノラちゃん?」
 いつもなら顔を合わせただけでもギャアギャアと子供らしく騒ぎ立てるノラが、魔王を見上げる。
 それだけでも珍しいのに、時折何か言いたそうに口を開いては音にならないまま噤んでしまうその仕草に、堪らず魔王が声を掛けた。
「……なぁ、俺っていつ分裂するんだ?」
 ジェリーを左右の肩の上に乗せ、言い難そうに 怪訝そうに色違いの瞳が魔王に向けられた。
 その銀色の頂上へと、一方のジェリーが登頂を果たす。
 慣れた者にしか分からないような達成感を漂わせながら、ジェリーが細い手(?)を伸ばした。
 その下で自分が二つに分かれる所を想像しているのか、妙に真剣に嫌そうな そうでないような微妙な表情を浮かべて、まんじりともせず魔王の回答を大人しく待っている。
 とても、とても珍しい姿だ。
 その余りの珍しさに、一瞬は驚きに動きを止めた魔王だったが、すぐさま表情だけは真剣に 胸の内では企みを込めた笑みをニンマリと浮かべて、ノラを机の傍へと手招いた。
「違うわノラちゃん、悪魔はね―――」
 どうやって生まれるのかを、楽しげに耳打ちした。




 ―――春先の道を歩く。
 一磨に連れられて、散歩よろしく郊外を歩いていたノラが不意に立ち止まり、驚いたように口を開いた。
「スゲェ ガキだらけだな、あの家」
「……何だと?」
 思わず一磨はすいっと伸ばされたノラの指の示す先を見て、一拍遅れて問い返した。

 ノラの指先は広い広い緑色が広がる一面に向けられるのみで、子供の姿はおろか民家すらない。
 何をして『ガキだらけ』だというのか。

 視線だけで先を促す一磨を、ノラは無垢な瞳で見返した。
「ガキって、キャベツ剥いたら出てくるんだろ?」
 高確率で。
「違うのか?」
 ノラの指差す先には緑鮮やかなレタス畑。

 何故かビニールハウスにすら囲われず、すくすくと育っているようだ。
 あぁ、キャベツとレタスの区別も付かないのか。
 流石は野菜嫌いの生粋肉食派。
 いや、今はそうではなく―――

 あまりにも多くの突込みが脳内を駆け巡り、禁止コマンドすら霞んで行く。

 頭を抱える一磨の傍らには相変わらず『スゲーな』と口にするノラと、遥か遠方の魔界からジェリーを通してその遣り取りを爆笑しながら眺める魔王様が居た。







 勿論この後一磨さんによる実践・保健体育が催されるわけです。
ハイ。
 ちなみにタイトルには深い意味はありません。
ガハー。
 ではでは。



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