「なぁ、何でここの所こんなにチカチカしてんだ?」

 犯罪悪魔を締め上げて反乱組織の居所を探る道すがら、町中を移動していれば嫌でも目に付く電飾に ノラが首を傾げた。
 店頭に設置された モミの木に飾り付けられたイルミネーションやモールが、煌びやかに夜を彩る。



 街は鮮やかに X’masを演出していた。

クリスマスと慣れの方式



「そういえば、貴様等 悪魔はやはりキリスト教には弱いのか?」

 単に人間の作り出した『お話』に過ぎないとは分かっていてもついつい聞いてしまった一磨に非はないだろう。
 悪魔は十字架や聖なる物を恐れるという話は、信仰を深めるための作り話だと理解はしているが やはり本物が眼前に存在している以上、やはり確認はしておきたい。

「キリス・・・・・・何だそれ?」

 しかし、当の悪魔は 宗教自体を知らないらしく 会話の中で自らの発した疑問が別の話題にすり替えられている事すら 気付いていないらしい。

 そうか、と一言で完結して 再び町中を闊歩する。
 どうせ聞くまでもなく、人間の都合で作り出した宗教など全く意に介さないのだろう。

 知識不足が著しい馬鹿犬と問答するのは時間の無駄だと 思考を切り替えて、当初の質問へと戻った。

「何故こんなに飾り付けがされているか?といったな」
「あ?あぁ、どこもかしこもチカチカしてて、目が痛くならねぇのか?」

 空の暗さを掻き消すような街の明かりは、どうにも受け付けないようで。
 慣れない明かりの点灯に 瞬きを繰り返している。
 目が良いのも善し悪しだ。

「今日は、こちらの・・・・そうだな、クリスマスという祭りの日だからだ」
 言葉を選びながら、なるべく見易い答えを探す。
 別に記念日 というわけでもないので、あながち嘘ではない。
 そもそも 昔の聖人の死んだ日を こういった形で祝うというのが、今一 一磨には理解出来ない。

「ふぅん。やけに大掛かりな祭りなんだな・・・・・・」
 感心したように鼻を鳴らすノラは周囲にグルリと視線を巡らした。

「もう国民行事のようなものだからな。もっとも、ウチではあまり関心がないが」
「あぁ、だからテメェの家だけチカチカしてねぇんだなー」

 近所の家はイルミネーションをキラキラさせているが、真狩家の門戸は 平素と変わらない重厚さでもって日々二人を迎えていた。
 その情景を思い出して ノラは納得した。

 何故ここの所 妙に一磨の家が落ち着くのかを。

 年の瀬も近付いて いつまでも学校に住まわせるわけにも行かないと断固主張した一磨の実力行使によって毎日のように 彼の部屋にお泊まりが続いている。
 暖房器具もない所で寝食していれば風邪を引きかけない。
 その危惧もあって、一磨が頑として譲らなかったせいだ。

 彼の自宅も自室も 騒がしいモノに煩わされない空気を醸し出している。

 だから余計に、街の浮ついた気分や イルミネーションの態とらしい明るさに当てられているのだろう。


 魔王から送られてきたジャンパーを羽織っていても、風が吹けばやはり寒い。
 小さく一つ身を震わせたノラに、一磨は早々に帰宅する旨を伝える。
 暑さにも寒さにも弱いお犬様に嫌があろう筈もなく 素直に首肯した。

 ―――したあとに、ハッと気付いたように 渋面を作った。



「今日は、布団敷くからな!」

 一磨の家は 一風変わった両親や家人がいるものの、慣れれば落ち着くし 居心地も良い。
 暖も取れるし まともな食事も取れる。

 ただ一つ、問題だったのは 寝具だ。

 別に客用布団が無いわけでも、敷くスペースが無いわけでもない。
 なのに何故かいつも 気が付けば一磨のベッドの中で寝ている自分がいる。

 確かに最初は家主に引き吊り込まれていたような記憶があるが、それも曖昧なもので。
 どうにも最初は落ち着かなかったはずなのに、寒さ故か 気にならなく・・・・・むしろ目を覚ました時にはノラの方から一磨に擦り寄った体勢になっている事も少なくはない。

 子供の体温は高くて気持ちが良いのだろう。
 が、いくら無意識の行動とはいえ 起きた瞬間の衝撃は 何度体験しても慣れる事がない。

 そんなノラの葛藤を知っているから、一磨はあえて何か言うつもりはなかった。
「無駄な事をするな。片づけるのも手間なんだぞ?」
 どうせ敷いても使うまい、と鼻で笑う。

「うるせぇ!狭めぇんだよあのベッド!!」
 シングルのベッドに、子供とはいえ男が二人一緒に寝ればそれは確かに狭いだろう。
 しかし妙に論点のズレた答えが返ってきた事に 一磨は笑った。

 その答えだと、一緒に寝る事自体はやぶさかでないように聞こえるぞ?

 口に出して指摘したい衝動を抑えるのにも一苦労だ。
 だから代わりに、ノラの苦情を排斥してやる事にした。

「それならば問題はない。サンタクロースがセミダブルのベッドをプレゼントしてくれたからな」

 口元だけで笑いながら、ノラの脳裏に過ぎるいくつもの疑問符を思う。

 今日は寝るまでクリスマスについて少し話をしてやろう、と言いながら 客用布団が無用の長物になった事を遠回しに吹き込んでいく。

 『良い子』にしてみるものだ、と日本刀の似合うサンタクロースに感謝の念を送った。



 そうやって少しずつ、接触に慣れさせていくのが 近頃楽しい一磨さんでした。





何だかクリスマスらしくないクリスマスでした。
イチャイチャ・・・・・してますかね?
見ようによってはデートですよね??
っていうか、街中で布団とかベッドとか連呼しないのー!!(笑)


BACK→