BORDER LINE


 ギャルルルッ!

 「あ゛っっ!」
 「げっっ!!」
  タイヤの悲鳴と、二人の叫びが連続して発された。

  クボァッ!ガラガラガラ・・・・・プシュ〜〜。
 『・・・・・。』
  砂地に放り出されたヴァッシュとウルフウッドの間にイタイ沈黙が降りた。
 「・・・もしもし?牧師さん?」
  当然の如く降るであろうと予測していた怒号がない。
  それに不信感を憶えて、ヴァッシュは恐る恐るといった感じでウルフウッドに
 声をかけた。
 「・・・何や?クソトンガリ」
  微妙に微笑んだ貌に尚更コワイモノを感じる。
 「・・・・怒らないの?」
 「怒って欲しいんか?・・・今更やろ。何怒れっちゅーねん、ホンマ」
  心底呆れた、と言う風に紡ぎ出される声に、カチンときたが心当たりがありすぎて
 返す言葉が見つからない。
  既に一服始めているテロ牧師は、ヴァシュに意地でもバイクの運転を覚えさせる
 気のようだ。
  150年も生きてきて出来ない事が今更出来るようになるのかは
 甚だ不安ではあったが・・・。
 「だからバスかサンドスチームで行こうって言ったのに―――」
 「ほぉ〜〜。それでモメゴトに顔突っ込んで人間台風ってバレて降ろされたのは
 一体何処のどちら様やったかなぁ?!
 巻き添え喰らった旅の連れはかわいそーやなー」
  思わず漏らしたぼやきに、すかさず反撃が入る。
  しかも内容は辛辣だ。大げさな身振りが更にイヤミ度を上げている。
  反論の余地無しとは全くこの事で、ヴァッシュは大人しく横転した
 アンジェリー名2号を起こしにその場を立った。
  横目でウルフウッドを確認すれば、ヴァッシュ達と共に放り出された彼の相棒を
 手元に引き寄せているところだった。
  一方ヴァッシュは、砂地にめり込んだアンジェリー名2号を引き上げて・・・・・
 何度ひねっても掛からないエンジンに、一抹の不安を感じていた。

 「何時まで遊んどるんやオドレは。はよ出発せな、次の街まで丸1日掛かるんやで?」
 「う・・・うん・・・・あのね・・・・・・ウルフウッド・・・・・その・・・・」
  アンジェリー名2号を起こしてから数分。
  全く動こうとしないヴァッシュに、焦れたウルフウッドが声をかけた。
 「ハッキリ言わんかい!」
 「いや・・・あの――」
 「歯切れの悪いやっちゃなぁ、イライラするわっ!」
  ピコピコと喚き散らすウルフウッドに、ヴァッシュは怒らない?と確認して、
 ようやくその重い口を開いた。
 「壊れたみたい」

  ガガガガガッ!!

 「ウルフウッドの嘘つき―――っっ!!」
  ドップラー効果を残してのヴァッシュの叫びは、続く射撃音に掻き消される。
  もうもうと立ちこめる砂塵の傍で、ウルフウッドの晴れやかな――それでいて
 目元の笑っていない――笑顔があった。
 「別にわいは嘘なんか言ってへんで?怒らん、とは言うたけど、撃たんーとは言うてへんし」
 「屁理屈ぅぅぅぅぅっ!!」
  パニッシャーを構えたままでにこやかに告げるウルフウッド。
  しかし着弾点は寸分違わずヴァッシュの元の立ち位置に集中していた。
  ――――殺気は無かったけど、本気だよねぇ、コレは・・・。
  少々サムイ気分になりながらも、取り敢えずヴァッシュはバイクを押して、行けるところまで
 歩くことに決まった。
  ・・・・と言うよりは自主的にそう申し出たのであった。


  吹き抜ける風が冷たくなってきた。
 「あかん。今日はここまでやな」
  ウルフウッドがぼやいた。
  数十m先には大きな岩山のような塊が見える。
  恐らくはあそこまで進むのが限界だろう。
  砂漠だらけのこの星では、昼夜の気温差が酷く激しい。
  当然の如く砂地の上で眠るのは自殺行為に等しかった。
 「うん・・・もう一番目の月が昇りかけてる。急いだ方が良いみたい」
  天を仰いでヴァッシュもぼやいた。
 「ほな、あそこまで行かなな〜〜」
 「そーだね〜〜」
  疲労から多少だれたように、ひたすら歩き続ける。
  2時間ほど前から会話が極端に減っているのは、決して疲労の為だけではなかったが。

  眼前にそびえる岩山・・・・・・・・ではない塊。
  いざ塊の前に立ってみて、二人は絶句していた。
 「そんな・・・・コレって・・・・・」
  ようよう絞り出されたヴァッシュの声も喘ぐように途切れ途切れだ。
  何故なら、彼等の前にそびえ立つそれは―――ほぼ原形を保った状態のシップだった。
 「コレ壊れとるんか?今まで見た中で一番綺麗な――っ!?」
  外観・・・と続けることは出来なかった。
  好奇心に負けて触れた部分が何の前振りもなくスライドする。
  突然の出来事にウルフウッドはかなりの衝撃を受けたらしく、変なポーズで固まってしまった。
  それでもパニッシャーを落とさなかったのは流石と言ったところか。
 「凄いよウルフウッドっ!!まだ動力プラントが生きているんだ!!」
  逆にヴァッシュは作動状態の良さに興奮を隠せない様子でウルフウッドに抱きついていた。
 「動力プラントが!?・・・って何時までくっついとる気や!きっしょいやっちゃなー、
 はよ離さんかいっっ!」
  ゴスッ。
 「うーん痛い・・・。夢じゃないよね」
  パニッシャーの一撃で轟沈しつつも、ヴァッシュは酷く嬉しそうな表情を浮かべる。
  あと一歩で嬉し泣きに突入しそうなほどに。
 「取り敢えず入ろうよ。このままじゃ冷え切っちゃうしさ」
  ウキウキと脚を勧めるヴァッシュを渋い表情で見るウルフウッド。
 「入るんか・・・・?」
  開いたドアの奥を覗いて、うんざりした顔をするウルフウッドだが、この砂漠で一夜を過ごすのは
 少々キツイ。
  しかも今日中街に着く予定だったので固形燃料も底をついている。
  選択肢はなかった。


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