ミモココロモ





「オドレの目・・・・抉り出したいわ」
 ふと、そう思った。
 無意識に口を突いて出たから、声は意外と大きかった。

 窓の外を眺めていたヴァッシュが、酷く驚いた表情でこちらを振り返る。
 類い希なる反射神経で。
 その速度たるや、発言者のウルフウッド自身にも少なからず驚きを与えたようだった。

「・・・・・なに言ってんのさ〜〜。驚かさないでよ、もぅ!」
 張りつめた空気を突き崩すように、ヴァッシュは殊更戯けた口調でむくれる。
「大体僕の目なんか取ってどうするつもりなんだよ」
 肩を竦めつつ足軽にソファーへと移動すると、足を投げ出していたウルフウッドにのし掛かって。
 重い、と顔をしかめるのを無視。

 こめかみにキス。
 額にキス。
 瞼にキス。

 あちこち一通りキスを降らせてから、ちょっとだけ身体をずらせば、ただ見つめるような瞳が
ヴァッシュを映していた。

 ウルフウッドの瞳。
 いつもは感情を押し殺したような光を湛えて。
 意思の強そうな。意固地になっている子供のような時もある。
 初めて出会った時は、人懐っこい光を宿していたのに。
 二度目の会合以来、気が付けば黒いガラスの向こうに隠されていた。
 何から目を背けているのか。
 それはヴァッシュにも想像はついたけれど、決して聞き出すことなど出来ず。

 だが、今の色は少し違う気がする。
 むしろ観察するような、そんな、光。
 不快ではないが、居心地が悪い。

「逸らしなや」
 珍しく真っ直ぐ向けられる視線に耐えかねてヴァッシュが視線を逸らせば、いつの間にか
頬に添えられていた手でグキッと顔を引き戻された。

 真っ黒な瞳。
 月明かりを吸い込んで、ちょっとだけ濃紺のようにも見える。

 底のない井戸のようだなどと考えて、ヴァッシュは思わず眉間に皺を寄せた。


「オドレの目ってな、どうなっとんのやろ・・・・」

 近頃は会話らしい会話さえなかったというのに、今日のウルフウッドはヤケに弁舌で。
 覗き込むように一層近づいた顔に、ゾクリとする。
 深い深い黒に引きずり込まれそうになる。
 同時に、その言葉にビクリと身体が揺れた。

 ―――――オドレの目ってな、どうなっとんのやろ・・・・。

 一体どういう意味だろうか。
 それは『人間ではないモノ』としての認識が口走らせたものなのか。
 真意を掴み倦ねて焦燥感が走る。
 脅える心臓が跳ね上げた。

 ウルフウッドは別だと思っていた。
 今まで付き合ってきた人達とは、明らかに認識を違えていた。
 『認めてくれている』と。
 人外のモノであると、恐らく知っているのだろうけど。
 それでも傍に立っていてくれているのだと。

 気を抜けば歯の根が噛み合わなくなりそうな恐怖。
 150年間で感じたことのない種類の恐怖。
 冷や汗すら流れそうな緊張を強いられていた。

 そんな空気を破ったのはウルフウッドだった。

「なぁ。オドレの視界って碧いん?
 この砂の星でも、碧がかって見えるんかなぁ?
 そんなにキレーなペパーミントグリーン初めて見たわ」
 些か眠気をまとわりつかせた声。
 何時になく懐いて来る腕に、ヴァッシュの唇から安堵が漏れた。

 驚かさないでよ。
 驚かさないでよウルフウッド。
 そんな目で、心の中まで映し込まないで。

「ワイとは違う世界が見えるんやろか・・・もしそうなら、一回見せて欲しいわ・・・・
 オドレがほざく綺麗事は、そやから産まれてくるんやろか・・・・」 

 瞼に濡れた感触。
 利き眼の上に這う舌。
 無理矢理抉り出そうという意思の感じられない動きに、特に抵抗することなくヴァッシュは
ウルフウッドの出方を待っていた。

 子供が飴をしゃぶるように。
 そんな表現がピッタリなほど熱心な動きがくすぐったい。

「・・・・・っ!」
「何や。くれへんのか」
 自棄におとなしゅーしとるから、くれる気かと思った・・・・などと不遜なことをぼやきつつ
ウルフウッドソファーに身を沈めた。
 いや、いきなり眼球を圧迫されたヴァッシュに無理矢理ソファーに鎮められた、と言った方が正しい。

 唐突に動きを変えたウルフウッドの舌に微かな殺気を感じて、思わずした対処が一連の動きだった。
 本当に微かな殺気は、既になりを潜めて。
 些か残念そうに唇を尖らせてブーブー言っているウルフウッドが憎らしい。

 視神経は直接脳に繋がっている。
 要するに急所だ。
 それはヴァッシュであっても同じ。
 確かに抉られただけなら生存確率は低くない。
 ――――穏やかな生活を送っているならば。

 むしろそうありたいヴァッシュだが、現状としてナイブズ、そして刺客のGUN−HO−GUNSは今だ健在で。
 あまつさえ、正体不明のテロ牧師は、兄弟のナイフかもしれなくて。
 何だか泣きたくなってきた。
 でもこっちだけが悔しい思いをするのは不公平だ。
 ヴァッシュの中で反撃の狼煙が上がる。

「じゃあさ、取り替えっこしようか」
「・・・・はぁ?」
 睦言のように耳元で囁けば、小馬鹿にするような視線。
「だから、僕のだけ取っても、キミは見れないでショ?だから片目ずつ交換」
 笑って言えば更に嫌そうな顔。

 多少胸がすいた。
 ウルフウッドに言葉で勝てることは少ない。
 どちらかと言えば遣り込まれることの方が多い。
 言葉は彼のテリトリーだ。
 むしろ牧師の領域というか。
 中でも彼は特別だろう・・・・・そんな確信。

「そないなこと、出来る訳無いやん」
 顔を逸らして吐き出される言葉。

 失うことを極端に恐れているんだよね。
 だから自分のカードを手放せない。
 でも僕は・・・・・・・・・・欲しいもののために全てを手放せる。

「分かんないよ〜〜?
 ・・・・・・・出来たら。もし、本当に出来るとしたら、キミはどうする?」
 真摯な響き。

 瞳の奥に焼き付けろ。この姿を。
 弾かれるように睨み付けてくるその瞳が快感すら生み出す。
 キミの望みを叶えてあげる。
 僕はキミより残酷だ。
 笑っちゃうほど『偽善的』と呼ばれてきたけれど、本心なんてそんなものかもしれない。
 自嘲すら漏れないこの浅ましさ。
 キミの深淵が得られるなら、眼の片方ぐらい惜しくない。

「・・・・・・・・・・・・・・無理や」
 ボソリと続く『今は』。
 俯くウルフウッドに、ヴァッシュの顔に喜悦が浮かぶ。
 他人から見れば狂気にも似た。
 獲物を狙う獣の目。

 全ての決着がつけば、ヴァッシュの元をウルフウッドは離れていくかもしれない。
 その危惧が全て掻き消されるような一言を聞いた。
 もう絶対に逃がさない。
 一切の拒絶を封じて、傍に縛り付けてしまおう。



 サラサラと流れる黒髪に口付けて毒のように流し込む。
「全部の決着が着いたら、もう一度聞くよ・・・・・・・ウルフウッド・・・・・」
 いらえは無いが、吐き出される吐息の熱さに促されるように手を這わす。



 ――――あぁ

 ――――神の使いが堕ちてくる

 ――――白い白い翼は血にまみれてもう飛ぶことすら叶わない

 錆れた信念の足下に敷き詰められた屍の上で冒涜のキスを交わそう――――




                                                      bad END....




わーい。初のディアブロさんVv(笑)
ウルフウッドってヴァッシュの目ン玉好きそうVv
っつーか、相変わらずの別人コントですみませーん!!(吐血)


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