絶対内情批判


「愛ってさぁ・・・・何なんだろーねぇ」

 独り言のようなヴァッシュの呟きに、銃の手入れをしていたウルフウッドは思わず部品を落としかけた。
 一瞬後、吹き出すような笑い声が漏れる。
「ちょっ・・・・ちょっとーっ!!失礼な奴だよね君って!
 そんなに笑うこと無いじゃん」
 肩を震わせて笑いを堪えるツレに、憤怒やる方無し、と言った感じでヴァッシュは不貞寝を決め込む。

 陽はとっくに暮れ、酒場に集まる人々の気配は色濃い。
 珍しくウルフウッドが部屋に留まったかと思えばこの始末。
「・・・っく。いや、オドレ面白い奴やなーと思うて・・・ぶふっ」
 カチッと音を立ててマガジンを差し込み、慣れた手付きでチェックを続けている。
 予断のない、それでいて時折酷く大雑把な手付きだ。
 未だ笑いの余韻を引きずりつつ、ウルフウッドは再度同じ様なことを口にした。
「ほっといてよ。独り言くらい誰だって言うでしょ?!」
「ぅわっ。何や。今度は逆ギレかいな。愛という名のカゲロウを追う愛の狩人さんは忙しいんやなー」
「げっ!何で君がそんなこと知ってんのさ!!」
 顔を茹で蛸のように真っ赤にした人間台風に、企業秘密や〜〜と意地の悪い笑みを浮かべつつ、
ウルフウッドは手入れの終わった愛銃を胸元へ納めた。

 一連の動作を目の端に納め、ヴァッシュは改めてテロ牧師・・・もといニコラス=D=ウルフウッドという
男を見た。
 自称巡回牧師であるその男は、一見牧師には見えない。
 言ってる事ややってることはもっと牧師からかけ離れている。
 だが確かに彼は――牧師なのだ。
 時折請け負う依頼の中に、教会での仕事もあった。
 その時限りは、ヴァッシュが我が目を疑うほど・・・・彼は不可侵の存在だった。
 神聖なる領域に住まうモノの下に傅く者に見えて、背筋が凍る思いをしたのはつい先日の事だ。
 ・・・・神なんて信じてないくせに・・・・。
 そんな呟きすら掻き消されてしまうほど、しっくりしていた牧師服がいっそ恨めしくもあったのだ。
 この男は教義を――『神の愛』をどう捉えているのか?
 そんなことをつらつらと考えていたせいで、思わず言葉が零れてしまった。
 自分らしくもない。
 だが良い機会を得たのも事実。
 直に聞けるなら、それほど楽なこともないだろう。
 ―――もっとも、素直に答えてくれるとは思ってないけどね・・・。

「そうは言うけど、愛ってどんなものか知ってるの〜〜?」
「オドレが口にするようなお軽いモンは知らんけどな」
 布団から目元だけを覗かせるヴァッシュからは、そう言ったウルフウッドの表情は逆光で見えない。
 今夜は4番目の月まで昇っている。
 明るい。
 窓から射し込む光は不快ではないが、底冷えする何かを纏って人々を惑わせる。
 それは人外のものにも有効なのだろうか。
 何時になく静かな口調で漏らしたウルフウッドの言葉が気に掛かり、ヴァッシュは上半身を起こした。
 そこで話を切るつもりだったのか、ウルフウッドは『おやっ?』といった顔をしたが、すっかり聞く姿勢の
出来上がっているヴァッシュに、仕方なく向き合ってやる。

「君の知ってる“愛”を教えてよ」
 促すように口にして、軽く腕を伸ばしナイトテーブルから酒を引き寄せた。
 呷るように口に含めば、強い香りが喉を滑り落ちてく。
 室内には心地よい沈黙が降り、階下から喧噪が鈍く響いてくる。
 沈黙は、いつになく凛とした声で破られた。
 それはホームでいうラテン語で、ハッキリと、常の訛を感じさせない声で綴られた聖書の一部だった。

「愛は寛容であり、愛は情け深い。また、妬むことをしない。
 愛は高ぶらない、誇らない、不作法をしない、自分の利益を求めない、苛立たない・・・」
 コクリ、とヴァッシュの喉が鳴った。
 静謐ささえ感じさせるウルフウッドの横顔に、見え隠れする鎖骨に――この場の全てを貶めるような
劣情を感じたからだ。
 しかしそれは彼のせいではない。
 神の言葉を紡ぐときのウルフウッドは、いつだって必要以上にストイックだ。
 片手で足りるほどだが、牧師としての仕事をこなす姿をヴァッシュは見ている。
 それはとても似合っていて、似合いすぎていて、毎回のようにヴァッシュを不安にさせた時間だった。
 ―――こんなトコロで、そんな表情見せないでよ。
 漠然とした不安が胸を掠める。
「・・・ってな。それが愛なんやと。たった2つの母音で作られた音なのに、それだけの重さが含まれ
とるんや。難しい言葉やで、実際。
 意味を説明できる奴なんて、何処にもおらんやろーな」

 瞬時に戻る、軽快さ。
 一体どちらが本性なのか分かったものではない。
 しかし、その変化に安堵したのも確かだ。
「そうだよね・・・きっと、何処にも居ないよね。
 でも僕はやっぱり愛という名のカゲロウを追い続けるよ!」
「懲りんやっちゃな〜」
 笑って誤魔化せば、ウルフウッドも上手く誤魔化されてくれた。
 滅多に見せようとはしないウルフウッドの優しさが、ヴァッシュを惑わせる。

 ―――やっぱり・・・僕は君が好きだよ。
      だってほら。こんなにも愛おしい。
 光の加減でウルフウッドからは見えないだろう、とヴァッシュは視線を固定する。
 気が付けばウルフウッドの手がすぐ傍にあった。
「ワイにも寄越し」
 引ったくるようにして奪われた瓶が、琥珀色の中身を揺らす。
 つられたようにヴァッシュの腕が伸びた。
 ――ウルフウッドの腰へと。

「どわっ!」
 とか何とか、くぐもった悲鳴を上げつつウルフウッドは安物のベッドに倒れ込んだ。
 腰を掴んだ腕に引き倒され、眇められた不機嫌そうな瞳がヴァッシュを射る。
 そんな視線すら心地が良いと感じるヴァッシュは、ニコニコと笑っていた。
「零れるやろ」
「零さないでしょ」
 切り返すような掛け合いに、腰に懐かれたままのウルフウッドは深い溜息をついた。
 ―――またかい。
 酔う度に懐かれる。これはこの男の癖のようなものか、とウルフウッドは一人ごちる。
 内心の声を口に出すことはないが、態度には出してみた。
 暴れるというよりは穏やかに身を捩る。
 しかし、更に深くベッドへ引き倒されて無駄を悟った。
「明日は早いんやけどな」
 ウルフウッドはボソリと呟く。
「分かってる。こーやってるだけ」
 くぐもった返事が来た。
 今にも眠ってしまいそうな声だった。
 ほーか、とだけ答えてウルフウッドは仕方なしに毛布を引き上げる。
 当然ヴァッシュは完全に毛布の下になって呼吸し辛くなっているが、そんなことは百も承知での行為。

 ウルフウッドも月に惑わされたのか、大きな子犬、もしくは身体ばかり大きくなった子供に懐かれている
ような気分のまま、微睡みに沈んでいった。



 ――翌朝、至って平常なマイペースに戻った二人が暑さに耐えかねて口論になった末、
宿屋の壁をぶち抜いたが、それはまた別の話。


勢いだけで書いたので、何か意味不明な話に・・・・(==;)
取り敢えず仲良いのねっ!ってことで・・・・(脱兎)

← BACK