新・御手洗のパロディ本
・「御手洗パロディ・サイト事件」・
についての考え

この企画は、ふたつばかりの目的を持って考えています。ひとつは、先に世に出した「御手洗パロディ漫画本」への批判に、建設的に応えたいということです。批判の要旨を簡単に言うと、あれでは御手洗さんが女性たちだけのものになってしまい、男性読者が入れなくなってしまう、という危惧です。
確かにおっしゃるような面もあったかと思います。そこで今度は小説のパロディ本を考えました。在野に存在するパロディorパスティーシュの傑作を見いだし、できれば文庫化もして、一般読者の目に供し、後に遺したいと考えます。これなら男性実力者の参加も可能でしょう。このようにして、遊びではありますが、現在の貴重なブーミングの成果を、後の世に遺すべく挑戦をしてみます。
もうひとつは、この不況が深刻なおりに、死刑問題とか冤罪問題、日本人論などで、売れない本の出版に無理に協力をいただいている南雲堂出版に、たまには注目の得られそうな(売れそうな)本の企画を提供したいという考えからです。以前の漫画、『御手洗君の冒険』もそうした発想からでしたが、よって今回も発売元は南雲堂とします。
しかし近い将来、講談社などメジャー出版社の文庫への収録はあり得ます。今回、名のある作家も参加を表明してくれましたし、目下集まりつつある作品は、当初の予想を越えて質の高いものです。そうなると、慣習的な印税分配の方法が存在するかもしれませんが、少なくとも一次出版時においては、たびたび増刷に入るということもないでしょうから、有名無名の区別なく、各作家の原稿の量に比例して、平等に印税を分割、分配したいと考えています。これはむろん当方を含みます。この報告は硝子張りとします。
今回はホモものは除外しましたが、それは当方がホモを嫌いということではなく、そうしないと作品の数が膨大になってしまうからです。もし強い希望があるなら、次回はホモもので作品集を編んでもよいくらいに考えています。

以下は、内容に関してです。新人の名前が並んでいるだけでは、なかなか読者の手も伸びにくいであろうと予想します。まるきり売れなくては、逆に南雲堂に迷惑をかけてしまいます。そこで、御手洗もの(里美ちゃん、石岡君もの?)の新作として読めるよう、構成上の工夫をしようと思います。
具体的には、私が小編「A」を書いて冒頭に置き、中間にも自作の小編「B」を、パロディ小説群にまぎれ込ませて隠すかたちで配置します。「B」はペンネームとして、当方の筆であることは隠します。結末最後にも短編「C」を置き、閉める、という構成です。
この三編の小編の内容に関して、以下で簡単にイメージを述べます。これは十月なかばに出た講談社の小冊子「イン★ポケット」中で、里美ちゃんがエッセーを書いて説明してくれています。
<A>
里美ちゃんが属するセリスト女子大・ミステリ研の仲間、小幡さんが、ちょっと不可解な状況下で失踪してしまう、という事件が冒頭のこれらで語られます。あるいは小幡さんが怪我をする、彼女の知り合いがいなくなる、というものでもいいですが。
事件の鍵を握る人物は、どうやらインターネットにHPを持っていて、自作の「御手洗パロディ小説」を公開しているらしい、ということが解ってきます。そしてこのパロディ小説群のうちに、失踪事件の真相を知るヒント、ということは小幡さんの居場所に迫るキーも埋まっているらしい、と知れます。
ところがこの人の名前も素性も解らない。そこで里美ちゃんが、手当たり次第インターネットから「御手洗パロディ」の小説を収集して、石岡先生のところに持ってきます。収集したパロディ小説中のどれかに、事件の謎を解く鍵が存在するわけです。でもどれであるかは、この時点では全然解りません。プロの作家の名前があっても油断はできません。また多くはペンネームですから、本名が解りません。性別も不明です。
石岡先生に見せることができた理由は、小幡さんがホモものが好きでなくて、キスが出ても読まないと言っていたから、里美ちゃんはホモものを排除して収集することになったからです。
<B>
以下、里美が収集したパロディ小説が、ランダムに延々と並びます。この部分は、パロディ小説の読書を、そのまま読者に楽しんでもらいます。
この中に、当方が書いた小編も一編さりげなく入ります。これが<B>です。犯人の書いたパロディということにしますが、実は私が書いたものです。そしてこの中に、真相を探るキーが埋まっています。
しかし集まったパロディ小説の中に、もし<B>そのものとして使えそうな内容の作品が発見できたなら、これをそのまま<B>としてここに使用する可能性はあります。その場合これにいくつかキーを埋める必要があるなら、あるいはそういうお願いをするかもしれません。
また<B>として使用するものでなく、この周囲の作品にミスディレクションとしてのキーを埋める必要が生じるかもしれません。ですから応募原稿にもキーの埋設をお願いすることもあり得ます。
<C>
解決編です。<B>を用いて犯人の素性、住所などを二人がとうとう探り当て、小幡さんに到達し、事件が解決する、そういう事情の説明です。

これはざっとのイメージで、実際には変わるかもしれません。集まった小説を読ませてもらってから、柔軟にストーリーを決定していきたいと思っています。
あまりに激しい誹謗、中傷もの、主人公や作者への嘲笑をもくろんだもの、こういうものは心ある人の気分を暗くしますから、排除していいと思っています。すると自分を持ちあげているものばかりを選んでいるという陰口が出てきますが、これは嘲笑ものをあえて入れても本の出来がよくはなりませんので、黙殺とします。
要するに、御手洗を好ましく感じている人が読んで、明るく笑えたり、楽しい気分になる種類のものですね。これに論理志向もいくらかあり、謎解きも楽しめたらさらによい、といった順番でしょうか。
締め切りは特に定めませんが、できれば今年中に集められたらと思っています。しかし、大々的に公募するというような形式は取りたくありません。自然発生的な作品の方が、生命力があると思うからです。集まりが悪かったり、あるいは私の方が異常に忙しかったりすれば、発売は来年以降、再来年になってしまったりする可能性もないではありません。このような企画で才能ある人と知り合えれば、近い将来、当方に何か協力できることもあるでしょう。
小説の枚数制限は特に定めませんが、今回の企画では、五十枚以内というところがよいと思っています。しかし、オーバーしてもかまいません。ただ、連載中の一部というものはどうするかですね、悩むところは。できれば完結している方が単行本の読者には親切でしょう。

ではそんなところで。何か質問あったら、南雲堂出版の編集者、大井理江子さんの方に連絡してください。彼女で解らないことは、彼女がこちらに転送してくれるでしょう。どうしても必要なことあるなら、電話番号を書いておいていただけたら、直接私が電話します。

平成十一年十一日 島田荘司


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