田舎探偵物語(カントリー・オプ)

第伍話 かぶ

 今回の依頼人は、ちょっとわけありらしい。
 いやに、びくびくしていて、落ち着きといったものがまるでない。ちょっと音がする度に、ビクリとして辺りを伺う。過敏過ぎて、おもしろいぐらいだ。
「カブのことなんです。」
 男が切り出した。かなり小声で聞き取り難い。
「かぶ、というと大根みたいな・・・・。」
 男が冗談を解していないと悟った私は、すぐにまじめな会話に戻した。
「賭け事の事ですか。それなら、私どもよりも警察の方が・・・・。」
「いえ。違います。私も詳しい点までは知らないのですが、どうやらたちの悪い外国系の組織が、我が社を利用してカブの違法な地下取引を計画しているらしいんです。
 ですから、たぶん株式の株だと思うんですが確証が無くて……」
「なるほど。」
 だが、私にはこれが単なる株のインサイダー取引でないような予感がした。
「詳しい話をお願いできますか。」

 男の話を要約すると、彼の勤める会社の倉庫を利用して取引をしたいと申し出てきた人間がいるのだ。
 どうも胡散臭(うさんくさ)い人物で、何度も断ろうと思ったのだが、この不況時に条件がすばらしくよかったことから、結局OKしたそうだ。しかし、OKしたものの、やはりどうも不安なので、私に調査を依頼してきた、と言うことだ。
「そんなに気になるんだったら、立ち会わせてもらえばいいじゃないですか。」
「そんな恐ろしいこと・・・・。
 もし、取引の中身が麻薬だったりしたら・・・・」
「じゃあ、断れば・・・・」
「一度引き受けた仕事を、簡単にキャンセルできませんよ。正当な理由もなしに……」
「わかりました。まず、その男について調べましょう。
 しかし、一度は取引を覗いてみる必要がありそうですな」

 私は、なんだかんだといって依頼料を吹っ掛けた。
 何だかんだとやり取りの末、手付けを置いて帰っていく。私は、自然と顔が綻ぶのを感じた。上手いことあおり立てたおかげで、相場よりかなり上乗せできたからだ。これで今月の家賃の心配はしなくて済む。


 密かに撮った写真をもとに、まず、男の身もとをあたった。
 順調とは言いかねるが、それでも少しずつ調査は進展している。そんなこんなで、取引の日がやって来た。

 私は、色々と「かぶ」について想像してみた。
 まず、真っ先に思いついたのは、株だ。だが、株ならこんな倉庫で取引する必要はない。もっとかさばるものだ。
 麻薬。阿片は、蕪のようなところからでる汁を固めたものだという。だが、「かぶ」という隠語が、本当に使われているのだろうか。
 東南アジア向けの、バ・・・・。

 その時、写真で見た男が客らしい男を連れて倉庫の方に向かっているのが見えた。客は、東南アジア系の様にも見えるが、よくわからない。
 私は、二人の後をこっそりつけて行く。
 二人は、倉庫の中に入り込んだ。同時に、何か巨大なものを積んだトレーラーが入ってくる。
 トレーラーから、天井のクレーンを使って荷が下ろされた。

 そこには、想像を絶するものがあった。


 トレーラーから降ろされたのは、一機の軽飛行機、カブだった。

※バイパー・カブ ロングセラーの軽飛行機。(セスナみたいなモン)