ユニクロ独り勝ち
今8月期見通し
経常利益1000億円
小売業2位に
(日本経済新聞2001年4月18日14版3面)
【見出し】
小売企業の業績は、カジュアル衣料店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの独り勝ちの様相を呈してきた。
同社の経常利益は2月中間決算で前年同期比2.4倍になったのに続き、8月本決算では前期比7割増え1000億円台に乗せる見通し。
デフレが進行するなか、低価格で独自商品を提供する体制をいち早く整え、幅広い消費者の支持を獲得した。
消費低迷で苦戦する総合スーパーをしり目に、経常利益は業界2位となる公算だ。
【本文抜粋】
□利益率で引き離す
(前略)
人気の最大の理由である低価格での商品供給を可能にしているのは、中国で徹底した低コストの生産体制を確立したこと。
労賃が安いばかりでなく、品目をジーンズやTシャツなどに限定して大量生産している。
糸などの素材も品目を絞り込んでコスト削減を強化。
2月中間期の売上総利益率は49%と、スーパーのジャスコ(29%)、衣料品販売のしまむら(28%)を20ポイント程度上回った。
生産や物流を商社に委託しているのは他社と同じだが、ファーストリテイリングの場合は社員を現地工場に派遣し品質管理を徹底。
商品企画から生産、販売まで自社管理して、低価格でも品質が良い商品の集中生産を可能にした。
□生産性向上に時間
消費者に飽きられないための商品政策も効果を上げている。
人気商品のフリース(起毛素材の防寒着)は99年秋冬の15色から2000年秋冬には51色に広げ、販売数量を3倍の約2600万枚に増やした。
(中略)
もっとも、年間約100店という急速な出店に伴い「生産性を上げるのに時間がかかる」(森田政敏常務)といった問題点も出始めた。
この1年間デパート・アルバイトを約6000人も増やしたため、2月中間期の従業員1人当たりの売上高は1670万円と前年同期に比べ25%減少した。
人材育成システムの確立が急務となるなど、急成長企業特有の課題も浮上している。
【ツッコミ】
今までこのコーナーでは、今回のような「解説記事」をネタにすることを避けてきました。
というのも、事実の公表に過ぎない一般記事にくらべ、解説記事には記者の主観が多く含まれ、その主観に対してこちらの主観に基づくツッコミを入れても、別の主観をもつ第三者にとっては「どうでもいいこと」に終わってしまうと思うからです。
(とはいえ、今までのツッコミも「どうでもいいこと」レベルは同じくらいで、別に何かを啓蒙しようなどというたいそうなものでもありませんが)
この記事を取り上げた理由は、今ホットな話題の「暫定セーフガード」や「証券税制改革」にも関連があると感じたからです。
今回うまい具合に記事が「第1章=利益率で引き離す」「第2章=生産性向上に時間」と分かれている形態で、前者がセーフガードがらみ、後者が証券がらみと位置付けられる要素があります。
まず前半部分について。
「生産拠点として中国を活用」、「本部社員を現地に派遣して生産管理を徹底」「生産=川上から販売=川下までをトータルで自社管理」というのは、まさに現在ターゲットとなっている中国野菜に関して日本の商社が進めてきた「開発輸入」のシステムそのままです。
以前触れましたが、たかだか200日の暫定セーフガード発動期間で、日本のネギやシイタケや畳表の生産者の競争力が回復することはまずないでしょう。
本紙7面の解説記事でセーフガードに触れていますが、終章で自民党農業基本政策小委員会の発言は単なる国内農家の保護に終始したような様子です。
掲載された発言に対する私のツッコミはおおむね次のような感じです。
「セーフガードを一刻も早く発動を」 ← セーフガードはもともと「急激な外国製品の流入によって競争力が一時疲弊した国内生産者に対して、その生産競争力を回復させるための「クールダウン期間」を設けるための措置なのに、単なる「鎖国手段」として使用することをWTOがホントに容認するのだろうか?
「輸入商社や種子会社は国益を考えて行動を」 ← 商社は商社なりに「消費者の国益」を考えてとった行動が開発輸入ではないのか。「農業の保護」は日本の国益すべてではなく、単なる「自民党集票マシンを保護する自民党の党益」ではないのか?
「中国産ネギは念入りに衛生検査すべきだ」 ← そもそも開発輸入で持ち込まれたのは日本の種子ではないのか?だったら日本国内の衛生検査も念入りにすべきではないのか?「生産工程」を監視するのであれば土壌の汚染が懸念される欧州産や農薬・遺伝子組み替えの盛んな米国産も検査を強化すべきではないのか?あるいは「輸送日数による劣化」が大義名分であれば、南米産や豪州産の方が輸送距離が長いからこっちも同レベルの監視する必要があるのではないか?
話を戻して、このセーフガードに対して中国が報復措置をとるかもしれないということは容易に想像できます。
そのとき狙い撃ちされるのはまず電子・半導体製品でしょう。
それに匹敵するダメージを日本に与えてセーフガードを撤回させようとすれば、ユニクロのような「開発輸入型非農産物」も十分候補に挙げられます。
なにしろ「相手国の輸出規制」よりも「相手国の内需縮減」という高等戦術です。
ダメージはむしろ後者の方が尾を引くかもしれません。
総裁選の橋本氏ではありませんが、日本農業が競争力を回復する「200日プラン」としては、国内農家が商社と提携して、むしろ中国生産を活用し、たとえば栽培に関して技術提携を結ぶとか、中国よりも高度化した生産ノウハウを提供してライセンス料を稼ぐとかいった方策を育成した方が現実的かつ短期で効果を発揮するんじゃないでしょうか。
さて、後半の「成長に伴う懸念」について。
だいたい日経記者の「お約束」のシメ文句は、ほめ言葉一辺倒ではなく「ジャーナリズムらしく」釘を刺すというパターンです。
「急成長すれば反動も大きい」という指摘は確かに無難です。
光通信の場合もそうでした。
そのような報道姿勢をうんぬんする気はまったくないわけで、ここで「急成長企業特有の課題も浮上している」という一文が気にかかるのは、こういった急成長企業の記事を目にするたびに、1冊の本の内容が頭に浮かぶからです。
それは堺屋太一の「現代を見る歴史」(新潮文庫)のなかにある1章で「人事圧力シンドローム――豊臣政権に見る「成長組織」の陥穽」という部分です。
豊臣秀吉の朝鮮出兵を題材に、急成長期から安定成長期へ移行した際の組織力維持の難しさ、特に人事面での構成員全員に染み付いた「明日は今日より必ずいい身分になれる」という意識を払拭することの難しさについて書いたものです。
社員の意識改革も困難を伴うものですが、「いつまでも追い風は吹かない」という当たり前の外部環境変化に対応するために組織そのものを改変するには、何よりカネがかかります。
ユニクロも上場企業ですから、組織力強化のためのカネは証券市場から調達してくることになるでしょう。
今までのようなメインバンクが融資と持合株引き受けで資金を注入してくれるという時代ではなくなりました。
ユニクロの店頭でフリースを買って帰る、ごく普通の消費者が個人投資家として証券市場に参加し、このような「周りにいる普通の人々」から広く薄く資金を調達してくるのがこれからの直接金融時代の主流にならざるを得ません。
にもかかわらず、自民党の税制調査会は「無党派層は票にならない」とばかり、個人投資家育成策については後回しにして、職域組織票に直結する金庫株解禁は速攻で検討を進めています。
これではユニクロのような成長企業は「次の一手」を打つための軍資金が足りません。
自然に成長力は抑制されてしまい、それが回りまわって日本全体の消費低迷に拍車をかけることにもなりかねません。
ユニクロは株式上場から7年で小売業の利益額が国内2位になりました。
この成長力を他の企業や他の産業にまで発展させることができるか、それに外交と税制が多少絡んでいるという点で興味ある記事です。