パソコンソフト

組織的複製に賠償命令

東京地裁、損害額で初判断

(日本経済新聞2001年5月17日14版1面)

 

【本文】

 パソコン用ビジネスソフトを不正コピーして業務に利用され著作権を侵害されたとして、マイクロソフトなど米ソフトメーカー3社が大手司法試験予備校、東京リーガルマインド(LEC)を相手に約1億1400万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が16日、東京地裁であった。

飯村敏明裁判長は原告側の主張をほぼ認め、「正規品の小売価格と同額の損害賠償をすべきだ」として、LECに約8500万円の支払いを命じた。

ただ、原告側が求めていた制裁的な賠償金支払いは退けた。

 日本国内でのソフトの違法コピーによる損失額は、1999年には約9億8000万ドル(1205億円)に上ると推定されており、同種訴訟はほかにも起きている。

ただ、これまでは和解で解決しており、組織内の不正コピーについて司法判断が示されたのは国内で初めて。

企業などでの違法コピーの負うこうに警鐘を鳴らす判決となった。

 訴えていたのはマイクロソフトのほか、アップルコンピュータ、アドビシステムズの3社。

 判決によると、LECは1999年5月当時、「高田馬場西校」(東京・新宿)内のパソコンにマイクロソフトの表計算ソフト「エクセル」や、アップルの画像処理ソフト「マックドロー」、アドビの編集ソフト「ページメーカー」など3社のソフトを無断で違法にコピーし、教材作成などの業務に利用していた。

 審理でLEC側は、「コピー発覚後に正規ソフトを購入した。ソフトの使用契約(シュリンプアップ契約)では一度代金を払えば無期限で利用できることになっており、原告に損害を与えていない」などと主張していた。

しかし飯村裁判長は、「著作権侵害行為は違法にコピーした時点で成立している」とした。

原告側は、制裁的な賠償も含め正規小売価格の2倍の支払いを求めたが、判決は「正当とする根拠や証拠がない」として認めなかった。

 

コピー横行に警鐘

ソフト不正利用に賠償命令

未確認分も損害に算定

(日本経済新聞2001年5月17日14版38面)

 

【本文抜粋】

(前略)

 今回の訴訟でマイクロソフトなど原告3社は証拠の散逸を防ぐため、提訴に先立つ1999年2月、東京地裁に証拠保全を申請。

同年5月の同地裁による証拠保全手続で、東京リーガルマインド(LEC)「高田馬場西校」(東京・新宿)のパソコン219台のうち、136台に計545件の不正コピーが確認されたことを踏まえ、訴訟に踏み切った。

 訴訟では、不正コピー防止に実効性の高い損害賠償が認められるかも争点となった。

原告3社は「正規品を購入した利用者と差をつける必要がある」として、正規ソフトの価格の2倍の損害賠償を求めた。

しかし、日本には懲罰的な賠償を認める制度はなく、東京地裁は「2倍が正当とする根拠はない」とした。

 ただ、東京地裁は高田馬場西校で実際に違法コピーが確認された136台だけでなく、同校にあった219台分に不正コピーが使われていると推定。

この実態に見合った損害賠償を命じた。

LEC側の「発覚後に正規のソフトを購入したので賠償義務はない」とした主張は退けられ、不正コピー使用のペナルティーとして、結果的にソフト購入と賠償額の二重の"料金"の支払いを命じられた。

 

【ツッコミ】

 日本人は「サービスはタダ」という考えの強い国民性があります。

情報やソフトウェアといった「無形物」に対する価値観が低いと言えます。

「同じCDの形なのに、浜崎あゆみのアルバムは3000円なのにマイクロソフトのエクセルは15000円もするのは高い」なんて考えてしまうんでしょう。

著作権や知的所有権についての認識が薄いことは、日本人の「致命的欠陥」かもしれません。

実際、行政書士とかファイナンシャルプランナーという職業は典型的な「知恵を売る」商売だけに、日頃からこの点を痛切に感じます。

 たとえば相談を受けてそれに回答する場合、「30分5000円です」と言っても100%納得してくれるわけではありません。

「そんなにかかるの?」という反応も少なくないわけです。

その答えを導き出すためにさまざまな情報を集めて分析・検討するわけですが、そのためにどれだけの時間と手間とコストがかかるかという点は顧客に見えない部分です。

まだまだ「知恵の価値」を正当に認められているとは言えないでしょう。

 

 さて、今回の東京地裁の判決は、おおむね妥当だという印象を受けます。

被告側の「確かに違法コピーをしていたが、それに気づいた後はきちんと正規ソフトを購入したから賠償責任はない」という論旨は却下されてしかるべきでしょう。

いわゆる「違法性の阻却」ということですが、この論旨が認められると「万引きしたけど監視員に見つかったときにカネを払って買ったから悪くない」という言い訳も通用することになります。

 「同じ建物内の一部のパソコンで違法コピーをしていたならば、ほかの全部のパソコンも違法コピーしているに違いない」という推定も常識的でしょう。

だいたい違法コピーをする場合には「節約」できる金額が問題ではなく、「1枚のCDで済むんなら全部それで済まそう」と考えるものだからです。

これが全体の1%を調査した結果違法コピーがあったとすれば、残りの99%もまず間違いなく違法コピーでしょう。

営利法人である会社のアプリケーション管理ではこれが「フツー」の考え方です。

 

 たしかにアプリケーションソフトは安くない買い物です。

「もうちょっと安くしてほしい」というのが、私も含めたユーザーの心境でしょう。

でも、その開発のために膨大な時間と人手(脳みそ)とコストがかかっていることは認識しておく必要があります。

「イヤなら買うな」と言われてしまえば終わりです。

 そこで「高くて買うのがイヤだから自分で作ろう」ということから開発されたのがLINUXということになります。

でもこれはあくまでも基幹ソフトであるOS。

アプリケーションソフトに関してはまだ「無償ソフト」が登場していません。

それだけ無償開発が難しいのかもしれません。

 

 さて、今回の被告がLECだったというのも皮肉なめぐり合わせです。

LECといえば司法試験コースで有名ですが、その他にも著作権や特許を管理する「弁理士」の受験コースもあります。

当然著作権の重要性は認識しているはずなのに、違法性を承知で無断コピーをしているところに日本の「著作権意識」の低さの根深いものがあります。

 書店の資格試験テキストのコーナーにもLECの出版物が並んでいますが、必ず裏見返しに「不許複製」なんて断っています。

自分のところはどうなのよ?