小泉改革に異論が噴出
全国知事会議
(日本経済新聞2001年7月19日14版5面)
【本文】
全国知事会議が18日、福島県郡山市で開かれ、小泉純一郎内閣が掲げる構造改革の必要性は認めながらも、国・地方を通じた行財政改革について多くの知事から不満や不安が噴出した。
政府が地方交付税制度の見直しなどを盛り込んで閣議決定した経済・財政運営の基本方針について「(国から地方への)税源移譲にも触れているが信用してよいのか」(堂本暁子千葉県知事)などの声が出た。
市町村合併 4割が検討
小泉政権で急増
(日本経済新聞2001年7月19日14版5面)
【本文抜粋】
全国の市町村のおよそ4割にあたる1247自治体が、今年6月末までに市町村の合併に向けた協議会などを設置して合併の是非を検討していることが、総務省のまとめでわかった。
今年4月末時点ではこうした自治体数は832市町村どまりだったが、構造改革の一環として市町村再編を掲げる小泉純一郎内閣の意向なども受け、検討に乗り出す自治体が一段と増えた形だ。
(以下略)
【ツッコミ】
「規制緩和」「行政改革」「地方分権」という関連で2つの記事が並んでいます。
でも、根本的な疑問が沸いてきました。
38万平方キロの日本の国土に47の都道府県と3300の市町村という行政区域。
細か過ぎるんじゃないでしょうか。
11倍の面積を有するアメリカが50の州。
しかも州はそれだけで独自の立法権や徴税権があるわけで、州知事は日本の県知事というより、アメリカのミニ大統領つまり「小統領」みたいなモンです。
地方財政が大赤字というのも、3347の首長、3347の議会、3347の行政組織を維持していこうとするからカネがかかるわけで、面積や交通アクセス、人口移動の観点から交流の深い地域は思い切って合併した方がいいでしょう。
たとえば、岡山市の隣に早島町という行政区域があります。
めちゃめちゃ小さい。
ホントに町長が必要なのか、というくらいに小さい。
中国地方5県にしても、山陰の鳥取&島根でひとくくり、岡山と広島の福山あたりでひとくくり、福山以西と山口でひとくくりと3区域で十分なんじゃないか。
四国4県なんかいっそのこと長宗我部元親の領地のように全域をひとくくりにしてはどうか。
つまり大規模区分を全国で20程度、各区分を10程度の小地域に区分けすれば、全国で20の大規模首長&200の小地域首長の220人で済みます。
当然附随する組織機構も220団体でOK。
合併によって行政機関までの距離が遠くなる場合でも、特定郵便局規模の出張所で十分行政サービスは可能なわけで、現在のように「小さくても役場」を設ける必要なんかないでしょう。
劇的なコストダウンにつながり、財政再建できるんじゃないでしょうか。
でも、かなりの抵抗がありそうです。
もちろん知事や市町村長、地方議員や役場職員からです。
そりゃ、「失業」するから抵抗も当然でしょう。
でも、「骨太の方針」で「一時的な失業増加もやむなし」という以上、公的機関から「隗より始めよ」の精神で率先垂範すべきではないでしょうか。
雇用流動化は議員や役人から進めるべきです。
生保の政治献金容認
2社の社員代表訴訟棄却
「取締役、広い裁量」
大阪地裁
(日本経済新聞2001年7月19日14版39面)
【本文】
「相互会社の社員である保険契約者の意に反して特定政党に企業献金したのは違法」として、日本生命保険と住友生命保険の契約者72人がそれぞれの会社の現社長ら4人に計約1億6800万円を会社に返還するよう求めた2件の社員代表訴訟の判決が18日、大阪地裁であった。
池田光宏裁判長は、企業献金を容認した旧八幡製鉄(現新日本製鉄)の株主による同種訴訟の最高裁判決(1970年)をほぼ踏襲し、「相互会社の政治献金も取締役に広い裁量が認められ、合理的な範囲で献金できる」として、請求を棄却した。
原告側は今後の献金差し止めも求めていたが棄却された。
原告側は企業献金について、「会社の目的の範囲外で、契約者の政治的信条の自由を侵すもの。役員としての注意義務にも違反している」と違法性を主張したが、池田裁判長はいずれも退け、「企業献金の社会的意義は今なお失われていない」と企業献金を容認する判断を示した。
原告側は相互会社の公共性の高さなど特殊性も主張したが、判決は「経済活動の実態は株式会社と異ならず、脱退も自由」とした。
判決によると、95年度からの4年間に、日生と住生の社長(当時)はそれぞれ約1億円と約6800万円を、自民党や旧新進党の政治資金団体に献金した。
被告は日生の宇野郁夫社長、伊藤助成会長と住生の吉田紘一、浦上敏臣両相談役の4人。
原告は大阪の市民グループ「株主オンブズマン」の呼び掛けに賛同した日生の契約者37人と住生の契約者38人(重複3人)。http://ecs2000.reitaku-u.ac.jp/
【ツッコミ】
生命保険会社のような相互会社の場合、保険の契約者は同時にその保険会社の「社員」つまり出資者という地位を得ます。
つまり保険会社の「株主」になるわけです。
普通保険を契約するとき「保険料の一部は政治献金に回されます」なんて説明は受けません。
「八幡製鉄の政治献金」に関する最高裁判決では、「会社も納税義務を負担している以上、一定の政治的権利を有する」として取締役の裁量による政治献金を認めています。
今回もその考えを取り入れて「相互会社も実質的には株式会社と変わらないから政治献金の決定は取締役の裁量権に属する」という判断をしたようです。
理屈では分かるんですけど、「一定の政治的目的達成のための寄付」と「単に役員と議員が知り合いだからという理由での寄付」とはどう見分けるのでしょうか。
しかも保険会社が献金した政党とは異なる政党を支持する契約者がいた場合、「敵を利する」形になるので絶対にイヤでしょう。
「イヤなら脱退すればいい」と裁判長は簡単に言いますが、保険商品の魅力と支持政党とは別の問題で、嫌いな政党に献金するからその会社の保険には入らない(というより入れない)というのでは、それこそ憲法19条の「思想・良心の自由」や21条の「表現の自由」あるいは29条の「財産権」を不当に制限することにつながりかねません。
だいたい「イヤなら脱退しろ」というのは「保険を解約しろ」ということで、こんな理由で解約しても解約返戻金が多めに返還されるわけではありません。
これは株式会社において「献金先が気に入らないからこの会社の株を手放す」という場合も一緒で、思想的理由で売却したからといって取得時の株価で引き取ってくれるなどという保証なんかないわけです。
つまり「自分の財産を削って信条を貫け」と言っているようなもので、こんな判決を出しているから「裁判官は常識を知らない」なんてバカにされるわけです。
そもそも今回参照した「八幡製鉄事件」は昭和45年の判決で、提訴を考えればさらに時代をさかのぼります。
その当時と現在とでは国民と政治との関係も変化しており、「自己の利益を図るために献金という形で便宜を期待する」なんていうやり方は古いわけです。
それにもかかわらず「最高裁の判例はこうだから」という理由だけで個別的な判断を避けているのであれば、はっきりいってそれなりのデータベースソフトがあってキーワードを検索すれば答え(該当する判決)が出てくる、つまり裁判官という人間なんか必要ないと言えます。
機械的に判例を踏襲する現在の裁判官は「前例がない」を繰り返す役人と変わりありません。
当たり前のことですが、現在の判例や前例は、その判例や前例が発生する前には「前例がないことを判断した」わけです。
昔できて今はできない、なんていうことはないでしょう。
前例主義の公家に対して後醍醐天皇が言ったといわれる「ワシが始めることは将来の前例になる」という言葉に通じるような気概で職務に当たってくれれば、もっと裁判が身近なものになると思うのですが。