稲垣吾郎容疑者 文芸春秋を提訴

「事実無根の記事掲載」

(日本経済新聞2001年9月11日14版38面)

 

【本文】

 アイドルグループ「SMAP」のメンバー、稲垣吾郎容疑者(27)が道交法違反などの容疑で逮捕された事件に関連し「事実無根の記事を掲載され名誉を傷つけられた」として、同容疑者と所属するジャニーズ事務所は10日、週刊文春の発行元の文芸春秋と編集者らを相手取り計1億1千万円の損害賠償などを求める訴訟を東京地裁に起こした。

(木俣正剛・週刊文春編集長の話)

 記事の内容には十分に自信を持っている。

 

【ツッコミ】

 10日のニュースと言えば、東海地方に台風上陸だとか国内初の狂牛病発症牛の出現だとか、もっと重要そうなものもあるのですが、「芸能人とマスコミ」という関係でちょくちょく出てくる裁判として、何となく感じることを書いてみようと思います。

 

 でも、「ゴローちゃん」はまだ「容疑者」だったんですね。

私はてっきり、さっさと起訴されて5万円〜10万円程度の罰金という略式命令が下って決着したとばかり思っていたのですが。

ひょっとして容疑のひとつに「婦人警官に対する人身事故」という公務執行妨害があって、警察組織が「ウチの婦警にケガさせるとはなにごとか!」とご立腹なモンで、簡単には許してもらえずに意地でも「通常訴訟」に持ち込まれつつあるのかもしれません。

 

 それはともかく、有名芸能人の刑事犯罪や重大凶悪犯罪があって容疑者逮捕となると、ワイドショーも週刊誌も勢いづいて容疑者の周辺を取材してネタにしますね。

世間の関心が高ければ発行部数も伸びるということで当然の経済行為かもしれませんが。

 でも、関係する事件も容疑者も千差万別なのに、そういった容疑者が週刊誌に載るときは、なぜかテーマは一緒です。

いわく「○○容疑者、常軌を逸した犯罪のきっかけに男(女)の影!?」なんていう見出しです。

この「!?」がミソで、決して「?!」という順序では表記されません。

文末が「!」ならば、いくら1字前が「?」でも若干記事内容を断定しているニュアンスを与えるのに対し、最後が「?」ならばその前にいくつ「!」を並べても「かもしれない」と断定を薄める効果がある、という不文律でもあるのでしょうか。

 

 今回の「名誉毀損」も詳しい内容は知りません。

週刊文春のHPで見る限りの見出しは「独走スクープ なぜ現場から逃亡しようとしたのか 稲垣吾郎 これなら納得「酒と女」の迫真証言」なんていうものです。

こういう見出しだけでソソられる人もいるんでしょうね。

「独走スクープ」というのも秀逸です。

「独占」ではなく「独走」。

裁判で名誉毀損と判断されれば、まさしく「勇み足」の取材ですわね。

 

 だいたい週刊誌の記事内容なんか、事実はほとんどないでしょう。

あれは「実在の人名や団体名を使ったフィクション」と解釈して、純粋にヒマつぶしで読むものだと思います。

なかには「タメになりそう」な記事見出しもありますが、あくまでも「なりそう」で、実際にタメになることはほとんどありません。

だって、「このデフレでリッチな勝ち組になるための投資法」なんていう記事で言えば、芸能メインの週刊誌で取り上げられるくらいみんなが関心を持っている投資銘柄なんか、その週刊誌を買った時期は限りなく「天井」の値段になっています。

週刊誌を信じて株を買えば、ほぼ100%「高値づかみ」をするハメになります。

 

 でも、だいたいこのテの「名誉毀損裁判」は、出版社が勝訴するにしても芸能人が勝訴するにしても、判決が確定するまでのプロセスや賠償金の相場についてパターン化しています。

だって、今までウンザリするくらい裁判があって、それこそ「1票の格差」並みに判例がそろっているわけですから。

「記事の一部に事実と異なる部分があり、その部分については訴えを認めるが、賠償請求は却下する」というのが大半です。

損害賠償を認められても、10万円〜100万円というところでしょう。

で、出版社が事実上敗訴すると、上告まで持って行きます。

何といっても「カネ」と「ヒマ」がありますから。

 

 それにしても、訴えられた編集長のコメントというのは変わり映えしませんね。

「記事の内容には十分に自信を持っている」そりゃそうでしょう。

「新聞じゃないから誇張もある」なんてコメントすれば、記者は危なくて取材しなくなるでしょうから。

でも、言葉に堪能なのが編集者なのに、このコメントの芸がないこと……。

気のきいた言い回しでもすりゃいいのに。

まあ、客観的にツッコミを入れれば、

「自信のある記事だけ発信するのは当然。記事に自信を持つのは記者であって、編集長は記事に『責任』を持つものなんだよ」