自動車リサイクル

利用者が費用負担

産構審発表 徴収方法6案提示

フロンや破砕くず メーカーに処分義務

(日本経済新聞2001年2月23日14版7面)

 

【柱書】

 産業構造審議会(経済産業相の諮問機関)は22日、自動車をリサイクルするための費用負担を利用者に求める方針案を正式に発表した。

使用済み自動車から出るエアコンのフロンやリサイクルできない破砕くずは、自動車メーカーが利用者から徴収した費用を使って解体事業者などから引き取り、処分することを義務づける。

徴収のルールについては新車が購入時点、すでに利用されている車が廃車時点での支払いを義務化する方式など6案を示した。

 

【本文】

 産構審は経済産業省を窓口として今回の方針に対する意見を3月22日まで公募し、作業部会で具体策を詰める。

経済産業省は産構審の議論をもとに「自動車リサイクル法案」(仮称)をまとめ、来年の通常国会に提出、2004年度の施行をめざす。

(中略)

 利用者の1台当たりの負担は徴収方式によって変わってくるが、自動車メーカーの間では「1台1万−2万円程度」との見方が浮上している。

(中略)

 使用済みの自動車はこれまで、解体事業者や破砕事業者など引き受け側が回収した部品や鉄の販売による利益を見込み、お金を払って引き取ることで不法投棄が避けられていた。

ただ、最近は鉄の価格低下やリサイクルできない破砕くずの埋め立て費用の増加で受け取る側の負担が重くなり、これまでとは逆に、引き渡す側に料金の支払いを求めるようになった。このため、負担を嫌った利用者や一部の悪質な業者による不法投棄が増加しており、産構審は対策を探っていた。

 

【ツッコミ】

 もうすぐ施行される「家電リサイクル法」の自動車版といった法律のたたき台が来年提出予定の「自動車リサイクル法案」です。

家電リサイクルでもそうですが、今までの「買って使った後は知らない」という意識から根本的に転換しない限り、引き取り費用の負担は「払わされた」「取られた」というマイナスイメージでしかとらえられないでしょうね。

 

 映画を見に行くと「入場料」を払います。

ディズニーランドに行くと「パスポート」を買います。

もちろんこれらは「入場券」や「パスポート」といった「紙切れ」にお金を払ったわけではなく、その施設を利用して得られる価値にお金を払うわけです。

ちょっと考えればこれらの利用料には提供側の人件費などの経費も含まれているのは当然ですが、支払い窓口で我々が「ここのスタッフの給料や固定資産税を払っている」という感覚は持たず、純粋に「ここを使う代金だ」と思ってお金を払っているのではないでしょうか。

 

 リサイクル費用の負担もこれに近い考え方を持つ必要があるのではないかと思います。

つまり、「ゴミ処分費用の肩代わり」ではなく「地球環境の利用料」という意識です。

 人間は誰でも、生きていく限り環境に何らかの「負荷」を与えてしまう運命にあります。

時間を有効に使うために移動時間の短縮方法として自動車を利用する。

鉄鉱石から車体を作り、石油からプラスチックやタイヤ、ガソリンを作る。

こうして作ったものを使って歩くより何倍も早く移動する。

しかし、人間は鉄鉱石や石油を作ることはできていません。

ガソリンの燃焼に必要な酸素さえ作れない。

何しろ元素番号1の水素から元素番号2のヘリウムを安全に作る「核融合」にさえ成功していないのですから。

結局過去の生物の死骸から生成された石油を使わせてもらい、植物が光合成によって排出する酸素を使わせてもらっている。

排気ガスに含まれる二酸化炭素も植物に処理してもらっている。

自動車が何気なく走っているのも、こうした「地球環境のメカニズム」の一部を利用して初めて可能なわけです。

だったら、その「利用の対価」を当然払うべきなのかもしれません。

 

 問題は、この利用の対価、つまり「リサイクル費用」を誰がいつ負担するルールにすれば、ベストとは言わないまでも合理的なものとなるか。

記事でも6種類の方式が提示されていますが、たしかにどれも一長一短があります。(「既販車」=すでにユーザーが購入し利用中の車)

【A案】 新車は購入時に購入者が負担し、既販車は廃車時に所有者が負担

 中古車を購入し、それを下取りに出すと、費用を負担しません。

【B案】 新車は購入時に購入者が負担し、既販車は所有者が廃車までに負担

 A案に比べると既販車については所有者が「余裕のあるうちに済ませておく」という方法が可能ですが、全員先送りして結局A案と同じ結果になることも考えられます。

【C案】 新車購入時に購入者が新車分と既販車分を負担

 A、Bの「新車購入者と廃車時所有者だけが負担して中古車購入&売却者は負担しない」という不公平はなくなりますが、買い替え需要は極端に落ち込むでしょうね。

でも、裏を返せば「過剰消費感覚」に歯止めがかかるかも。

【D案】 廃車時に所有者が負担

 これもA、Bの不公平が避けられますが、「誰が廃車するか」という一種の「爆弾ゲーム」のようにいつまでも廃車されず、トータルでの環境負荷が大きくなる危険も考えられます。

【E案】 所有者が廃車までに負担

 B、Cのようなメリットがある反面、A、Bのようなデメリットも予想されます。

【F案】 新車購入時に全国の廃車分を按分負担

 最も合理的に見えて、実は最もヤバそうな方式に思えます。

というのも、これはまさに「首都高速の料金決定方法」に酷似した方式に思えるからです。

しかも算出方式が他の5案に比べて不透明になるかも。

 

 このように、どれがベストに近いものなのかは落ちついて考えないといけないということだけは分かってもらえるのではないでしょうか。

経済産業省でも意見を募集しているようですが、最終決定はあくまで「国民の耳に心地よい」というより「地球環境利用料」という観点で考えてもらいたいな、と思います。