大手銀の不良債権処理 加速
今期4兆円規模に
引当金積み増し 昨秋計画の1.6倍
東京三菱 赤字決算の可能性
(日本経済新聞2001年3月22日14版1面)
【柱書】
都市銀行など大手銀行16行が2001年3月期決算で計上する不良債権処理額が約4兆円に達し、昨年秋の中間決算で示した予想の約1.6倍に拡大する見通しになった。
貸出債権を回収できない場合の損失に備える引当金を大幅に積み増すためだ。
本業のもうけ(業務純益)を上回る不良債権処理を実施する銀行もあり、4月に経営統合する三和銀行、東海銀行、東洋信託銀行のUFJグループ3行に続き、東京三菱銀行なども赤字決算になる可能性がある。
各行とも来年度から始まる不良債権の最終処理(直接償却など)に向けた準備を進めようとしている。
【ツッコミ】
日米首脳会談でブッシュ大統領が日本の不良債権処理を要求したことを受けて、日本も何らかのアクションを起こさなければならなくなりました。
会談の席で森首相が「半年で結論を」と発言したことを好感し、日経平均株価が900円以上値を戻したりなんかして、「いよいよ本気か」と感じるものでした。
こういうときは、本当の実現性はともかく、後先のことなんか全く考えず無責任に発言する森首相は「逆に頼もしい」存在かもしれません。
しかし、福田官房長官のコメントで発言の信憑性が怪しくなってきました。
「半年で結論を出すのは不良債権問題ではなく財政問題だ」
おいおい、ジョージ・ブッシュ・Jr.は「不良債権」を話題にしたんであって、財政は触れてないよ。
もしも日本政府の「いいわけ」のとおりだとすれば、たとえば客先の商談で相手から、
「この商品は半年以内に納入してほしい」
と要望されたのに、
「半年以内に借入金を返済します」
と、まるでトンチンカンな受け答えをしたようなモンです。
こんなセールスマン、普通の会社なら即刻クビですな。
それはともかく、首脳会談の真意がどうであれ、銀行としては公的資金の返済期日は迫っているし、持合株の含み益は減っているし、なにより会計制度の変更で不良債権の評価が激減すれば一部を損金計上しなければならない「減損会計」や手持資産の時価評価計上なんかも始まるしで、いよいよバランスシートの正常化に本腰を入れざるをえないように外堀が埋められてきたようです。
大手銀行の不良債権処理額は昨年3月が4.6兆円。
そして今年の予定も4兆円。
毎年「不良債権処理はこれでメドがついた」と宣言してきながら、なかなかメドがつきません。
銀行の「終結宣言」は出前の「今出ました」ぐらい信憑性に乏しいものですが、これは後から後から新しい不良債権が「ベンチ入り」するからなんでしょうね。
現在の不良債権処理の主流は「貸倒れ引当金の積み増し」です。
融資が回収できなくなってもプールしておいた引当金と焦げ付き額とを相殺していく方法です。
融資するときには債務者の所有する土地なんかに抵当権を設定して担保を取っているはずですから、いざとなったらそれを競売にかけて現金に換えればいいのですが、これだけ地価が下がるとかなりの低価格でしか買い手がつかないため、競売を実行しても債権全額を回収することができなくなっています。
しかも競売で配当が確定すれば、永久に回収不能な「損失」も確定するので、とてもじゃないが競売を申し立てるわけにもいかないでしょう。
そもそも土地の評価で貸出額が決まるんであれば、銀行の経営陣は銀行員じゃなくて不動産鑑定士とか土地家屋調査士といった「不動産評価のプロ」が就任した方がよかったんじゃないでしょうか。
さて、今までの引当金方式は不良債権そのものが消滅するわけではなく、今よりも担保価値が下がればもっと引当金を増やさなければなりません。
当面はしのげるということですから「間接処理」と呼ばれています。
でも、引当金にするキャッシュは持合株を売った利益が充てられていますから、これは「不良債権処理」ではなくて「持合株処理」じゃないでしょうか。
銀行が持っている株も無限ではないし、含み益があればこそ売れば利益になるわけです。
ということは、いつまでも間接処理が使えるわけではないことは、普通に考えれば誰でも予想できます。
いつかは「直接処理」をしなければなりません。
直接処理の方法としては、
・ 債務免除=不良債権を消滅させる
・ 会社清算=債務者そのものを消滅させる
・ 債権譲渡=不良債権を移転させる
という3つになるでしょう。
今は債務免除(債権放棄)がゼネコンを中心に進んでいますが、これは直接処理といっても間接処理に近い部類ですから、さらに不良債権が膨らむと再び債務免除しなければならなくなることもありえます。
やっぱり清算や債権譲渡の方が活性化するんじゃないでしょうか。
銀行もさまざまな取引先とネットワークがあるはずですから、それを活かすべきです。
つまり、会社清算といっても片っ端からツブすんではなくて、M&Aを仲介したり、MBOの資金を融資したりという形で業界再編に貢献できると思います。
債権譲渡も、自行の都合だけを優先させる個別債権譲渡ではなく、いわゆるバルクセール方式にすれば、買い手も増えると思います。
とはいえ、法整備も必要になるでしょう。
一時のように外資が債権の買い取りに乗らなくなったのは、抵当不動産に短期賃貸借が設定されていて占有権が過保護を受けていることが大きいと言えます。
「ゴネ得」を制限する時限立法が必要なのではないでしょうか。
会社清算についても、仮に失業者が200万人増加すると仮定して、全員に1年間で新たな技能取得訓練を実施するのに1人当たり100万円かかるとすれば(だいたい資格学校の司法試験講座がこれくらいだったと思います)、必要な予算は2兆円。
誰も乗らない整備新幹線を造るよりは安上がりだと思うんですが。
ともかくこういった「セーフティーネット」の整備も並行しながら取り組めば、不良債権問題にも光が見えてくるんじゃないかと思います。