ウミガメ保護しなければエビ輸入しない

WTO紛争

米国に軍配

マレーシアの訴え退け

(日本経済新聞2001年6月21日14版9面)

 

【本文】

 絶滅が危ぶまれるウミガメを保護しなければエビの輸入を禁止するとした米国の法律を、マレーシアが自由貿易の原則に反すると訴えた通商摩擦案件で、世界貿易機関(WTO)の紛争解決小委員会(パネル)は米国勝訴の報告を公表した。

一度は米国敗訴が確定した6年越しの紛争。

今回はその後の運用面の改善の評価で逆転勝訴となった。

 この案件では1996年にマレーシア、タイなど4カ国が米国を提訴。

WTOは98年、最高裁にあたる紛争解決機関の上級委員会で「米国内法は特定の国を差別的に扱っている」ので問題だと判断し、是正を求めた。

 米国は法改正せずに運用面の改善で対応。

漁網に誤ってかかったウミガメが溺死せず脱出できる工夫をしているかどうかの認定を、上級委が問題にした国別から業者ごとに変えたり、インド洋沿岸諸国とウミガメ保護の協定を検討する姿勢を見せたりした。

マレーシアは昨秋、法律自体が保護主義的として単独で再び提訴したが、パネルは今回は米国に軍配を上げた。

 通商筋の間では「経済のグローバル化の牙城と見られがちなWTOが環境問題にも関心を払った一例」として注目されている。

 

【ツッコミ】

 最近「経済問題」と「環境問題」は世界のあらゆる場面で密接にリンクしています。

たとえば地球温暖化防止会議における京都議定書批准の問題についても同じ課題が挙げられています。

批准に難色を示すアメリカの表向きの理由は「効果測定に問題がある」「先進国だけに負担を強いるのは不公平」というものですが、ブッチャケタ話、アメリカの本音は「環境対策なんかにゼニをかけるのはもったいない」という産業ロビイストの声をそのまま反映したものでしょう。

 

 WTOといえば、日中間のセーフガード問題も少なからず絡んでいます。

日本が「WTO協定に基づいて」農業3品についてセーフガードを発令すると、その報復措置として中国が工業3品に特別関税を課徴して日本に「セーフガードを撤回しなさい」と要請する。

すると日本が「WTOでは報復措置が禁止されている。そんなことをすると中国のWTO加盟に同意しないよ」と揺さぶりをかける。

……どっちもどっちだよ。

というより、日本の手駒はあまりにも少ない。

はっきり言って、現状中国はWTOに加盟していないから、WTOの取り決めに従う義務なんかありません。

サッカー選手がラグビー場でプレーしているラグビー選手に対して「それはハンドだ!」と文句を言っているようなものです。

報復しようが、さらに中国に進出した企業からの法人税を2倍にしようが、何でもアリです。

WTO加盟反対というカードを日本がちらつかせても、EUは「加盟申請すれば賛成しますよ」という立場だし、なにより非加盟の現在であっても12億人の潜在需要と先進国の5%の賃金水準で、いくらでも貿易ニーズがある。

日本国内でもニット組合や靴下組合なんかもセーフガード申請を見送る機運が出ている始末。

リスク管理を深くせずにセーフガードの申請を認めた経済産業省も後悔しているでしょうが、直接悪役になっちゃった3品の生産者グループも大変ではあります。

 

 話を戻して、今回の「ウミガメ対エビ」。まるで東宝と大映合作の「南海の大決闘 ガメラ対エビラ」みたいですが、アメリカの「環境」とマレーシアの「国内産業」という大義名分の対立です。

一度は却下されたアメリカの主張が一転してOK。

マハティール首相はブチギレでしょうね。

 そもそも現在のウミガメ絶滅危機は、元をたどれば大航海時代から植民地支配時代を通じた「アングロサクソンの狩猟レジャー」で乱獲されたのが最大の原因である、と考えられます。

「お前らに言われたかないよ!」というのが東南アジア諸国の偽らざる気持ちでしょう。

 マレーシアやタイ、インドネシアなどのエビ漁は、それこそ何百年という歴史があります。

それで生活しているわけですから、「今年採り過ぎたら来年から俺たちが飢える」などという理屈は自然に認識しているはずです。

そして「海の資源で食わせてもらっている」ということが身にしみていますから、「だから他の魚はどうでもいい」と考えるはずがなく、「エビも魚もウミガメも大事だ」などという考えは、今さら言われなくても十分分かっているでしょう。

 「エビ漁の流し網にウミガメがかかって死亡するからウミガメが減っている」というのは、シロウトの私でさえ「トンデモないいいがかり」にしか思えません。

以前TBSの「報道特集」でもこの話題が取り上げられていましたが、網を引く船の動力がオール(人力)からエンジンに代わったくらいで、基本的な漁法が変わっているとは思えません。

そもそもウミガメの生息データそのものが、クジラ同様に正確なことは何一つ分かっていないという現在、いったい誰が何の権限で「エビの漁法がウミガメの敵」と決めつけたのか。

 

 旧植民地の人々は「アングロサクソンの主張はウサンくさい」という根強い反感があってもしかたがないと思います。

自分たちの成長期は相手のことなどお構いなしでふるまったくせに、いざ被支配者側が同じ路線を取ろうとしたら「今はそんな時代じゃない」などと抑えつけられる。

怒るなという方がムリです。

特にマレーシアは、経済危機に際してIMF(これもアングロサクソン系)のプランを蹴って正反対の独自政策を断行し、これがものの見事に復活に寄与しただけに、他の周辺国以上に「反欧米」色が強いでしょう。

私は個人的に「マレーシアがんばれ!」と応援したいですね。

 

 それにしてもこの記事の最後にある「通商筋は……」というくだり。

東南アジアと欧米諸国との歴史的経緯など無視した「脳天気」なコメントに感じます。

もしもWTOが環境問題にも軸足を移しつつあるのであれば、まさに京都議定書の扱いに対するアメリカの態度にもモノ申すべきでしょう。

これをしなければ「やっぱりWTOは白人の都合のいいようにしか動かないのか」とアジア諸国の反感を買い、場合によっては民族のつながりを優先させた中国まで敵に回すことにもなりかねません。

そこまでちゃんと考えているのかな、アングロサクソンは?

なんかアヤシイ……。