資産運用基礎セミナー

分散投資

 資産運用の局面においてある程度のリターンを期待すれば、当然それ相応のリスクを覚悟しなければなりません。

リスクをゼロにすればリターンもゼロ。つまり誰も知らない地中深くに札束を埋めておくようなことになります。

ゼロにはできないまでも、ある程度リスクを回避する手法はあります。

いわゆる「分散投資」です。

 

分散投資の基本

 ただ単に資産をバラバラにするのは分散投資ではありません。

リスクを分散させるための分散投資ですから、その効果としてお互いがある程度の損失をカバーしあう関係になっていないと意味がないのです。

たとえばIT関連会社複数に分散して投資しても、インターネット市場そのものに悪材料が発生すれば、どの株も価値がダウンしてしまいます。

もちろん市場がどんどん成長すれば、分散投資したよりもはるかに高いリターンを得ることになりますが、もしもの場合のショックもそれだけ大きくなってしまいます。

 このようなハイリスク・ハイリターンの関係を「水割り」のように飲みやすい状態にするため、分散投資を考えることが必要となるわけです。

 

「逆比例」が分散投資

 分散投資を考える上では「ある状況が発生したときに逆比例の関係にある投資を心がける」ということが大切です。

 よく用いられるのが「サングラス製造会社と雨傘製造会社への分散投資」です。

晴れた日はサングラスが売れて傘は売れません。逆に雨の日は傘が売れてサングラスはニーズがありません。

地球上のどこへ行っても晴ればっかり、あるいは雨ばっかりの土地はありませんから、主要マーケットにおける晴天率やサングラス・雨傘の潜在市場サイズなどを検討して投資比率を決定すれば、大損を被ることなくそこそこの利益を得ることができます。

 

 分散の効果を判断する上で重要なのが「安全性」「換金性」「収益性」の3つの視点です。

これら3つすべてに優れたものは、残念ながら存在しません。安全性が高い(=ローリスク)ならば収益性が低い(=ローリターン)というのが一般的です。

また、投資信託などではある程度の高い収益を狙うためにはそれなりの投資金額が必要となるため、一定期間の換金を制限される場合もあります。

 分散投資ではこれらを相互に検討して判断することが求められます。

 

分散@ 対象の分散

 分散投資の手法として昔から「預金・株式・不動産」のそれぞれで運用するという形があります。

前述の「安全性」「換金性」「収益性」をそれぞれ判定してみましょう。

運用対象

安全性

換金性

収益性

預貯金

○(ペイオフ範囲内)

株式

不動産

○(最近は△?)

○(最近は△?)

このように、「あちら立てればこちら立たず」という関係にあるため、複数の運用対象をうまく組み合わせることでリスクを分散することが可能となります。

 

分散A 運用先の分散

 ご承知のとおり現代の日本経済は鎖国政策に基づくものではなく、世界各国と密接なつながりをもっています。

当然諸外国の政治経済が日本経済に影響を与えることもしょっちゅうです。

なかでもアメリカのドル相場とヨーロッパのユーロ相場とは、非常に大きな影響を日本経済に及ぼしています。

 このような為替動向は、もはや一部の輸出入企業に限った話ではなく、我々一般の庶民も関心を持たざるをえません。

したがって資産運用にも、これらの「外貨投資」を組み入れるべきでしょう。

 たとえば2017年3月現在、アメリカのFF金利は0.91%。

かたや、日本のコールレートは「マイナス」0.046%。

○○倍どころか、プラスとマイナスの違いがあります。

日本と同様アメリカでも公定歩合に連動して国内の金利は上下しますから、円預金とドル預金との利子差も10倍ほどになります。

日本の10年国債の利回りが0.06%弱に対し、アメリカの10年国債の利回りは2.4%程度と、こちらもかなりの差になります。

 当然通貨が異なりますから、ドル定期預金を円通貨に換金すれば為替手数料が引かれますし日々の為替相場で実質的な円換算額が上下することもあります。

しかし、ドル定期を解約してドルのまま普通預金においておき、トラベラーズチェックに交換して海外旅行で利用すれば、為替相場に関係なく、利子が増えた分だけ余分にドルで買い物をすることができます。

また、昨年の外為法改正によって、一部の店舗では日本国内であっても外貨のままで買い物をすることも可能となりました。つまり円高のタイミングを見計らってドルで買い物をすれば、為替手数料を取られることなく有利な買い物をすることもできるわけです。

 外貨投資の理由はこれだけではありません。

過去の世界経済において、全世界が同時に不景気となったのは意外に期間が短いのです。

つまり、長い目で見れば、日本が不景気ならば他の国のどこかは景気がいいというケースがほとんどなのです。

たとえば今の日本に比べると、下降局面とはいえアメリカがまだまだ高い成長をしていますし、ユーロ圏内でもイケイケの国があります。

アジアでもインド・マレーシア・シンガポールはIT関連で高い成長率を遂げています。

景気のいい国の利回りは景気の悪い国よりも相対的に高いですから、これらを視野に入れることは非常に大切です。

 

分散B 時間の分散

 資産運用の基本は「長期投資」です。

最近のオンライン株式取引の伸びはスゴいものがあります。

売買手数料が安いということもメリットですが、通常のサラリーマンが仕事を終わった頃には証券会社も閉店しているため、今までは注文のタイミングがなかなか確保できなかったのに対し、オンライントレードでは夜間や土日の注文も可能という便利さも急成長の理由でしょう。

 しかし、単純に便利さだけ追求するためにオンライン取引をするのも考えものです。

手数料の割安感と利便性を目に見える形で享受できるのは、まさに「デイトレーダー」並みに頻繁な売買を行なう人でしょう。

 投資を考える場合には、最低5年間はじっくり腰を落ちつけるくらいの考えで臨む必要があると思います。

特に株式や投資信託の場合、ブックビルディングや当初募集で投資し、上場直後や運用開始直後の高値で売り抜けるという「短期利ざや」は、収益戦術のひとつの方法ではありますが、本来の意味からは少しハズレているのかな、と思えることもあります。

株式投資というのは「会社の将来に期待して出資する」と同時に、「会社の理念に賛同して出資する」という側面もあるのではないかと思います。

単に売買益を追求するだけではなく、その会社を育て、「配当益」「分割増殖利益」にも関心を寄せてこそ、本当の意味の株式投資ではないでしょうか。

たとえば私の場合、オリエンタルランドの株式を保有していますが、これは会社が存続する限り、いくら値上がりしようが持ち続けるつもりです。

なぜなら、私を含め、家族全員がディズニーランドのファンで、「ディズニーランドを利用していると同時に、ディズニーランドの運営に出資という形で参加している」という心の満足が「見えない配当」として持てるからです。

 

 話がそれましたが、「長期投資」と関連して「時間差投資」という手法が重要となってきます。

物事には「いいことばっかり」もない代わりに「悪いことばっかり」ということもありません。

俗に「禍福はあざなえる縄の如し」とか「止まぬ雨はない」とか言われるものです。

 投資の基本は「安く買って高く売る」ことですが、では今が安いか高いかはそう簡単に判断できるものではありません。

運用のプロであるファンドマネージャーでさえ百発百中ではないのですから、我々一般の人がほとんど間違いなく相場の転換を予想することなどほとんど困難です。

 そこで「すべては時間が解決してくれる」というスタンスで、毎月あるいは毎年一定の金額で機械的に投資を続けていくという方法を考えます。

これを「ドルコスト平均法」といいます。

「投資のローン払い」という感覚でしょうか。

ドルコスト平均法を利用して過去の株式相場に対応して分割投資をシミュレーションしたデータがありますが、それによると投資総額が同じ場合には初回に一括投資したケースに比べて総投資額が少なくて済むという結果が出ています。

ドルコスト平均法はこのような直接的なメリットだけではなく、いったん投資対象を決定すれば、あとはカレンダーに従って機械的に出資を繰り返すだけですから、投資の都度データを検証する時間的、頭脳的な負担はかなり軽減されます。

 

自己責任の時代こそ分散投資

 運用対象や運用先、投資タイミングを分散して投資する資産運用を「ポートフォリオ運用」といいます。

もともとは「証券明細書」とかそれらを保管する「折りたたみかばん」を意味する英語ですが、現在では「資産運用の組み合わせ」という意味で用いられています。

 今までは「貯金は必ず戻ってくる」「株や土地は必ず値が上がる」というのが日本でした。

もはやそのような時代ではありませんし、将来そのような時代が再来することもないでしょう。

 生きるためには命の次に大切といわれる自分の「お金」も自分で守る必要があります。

 これからますます「ポートフォリオ運用」の考えが重要性をますでしょう。

そのためにも中立的な立場から親身になって相談に乗れるFPの存在がますます大事になってくると思います。

(ちょっと自己宣伝?)

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