相続基礎セミナー
生前贈与を活用した相続対策
子が親の死によって財産を引き継ぐと「相続税」が課税されます。
「ならば相続財産を減らしておこう」と生前に財産を移転すると、今度は「贈与税」が課税されます。
どちらも最高税率は70%と高いのですが、相続税の方が基礎控除も多く、累進の度合もゆるやかですから、一見すると贈与税よりも相続税の方が負担が少ないように思えます。
しかし、基礎控除が少ない贈与でも、活用のしかたによっては相続税も含めた「財産移転」の税負担を軽減する効果が見込めます。
具体例
夫婦と子2人でお父さんの財産が次のような構成だったとします。
自宅(土地は路線価、建物は固定資産税評価額) |
8000万円 |
預貯金 |
1500万円 |
株式など有価証券 |
500万円 |
合計 |
1億円 |
まず相続税を考えます。
法定相続人は3人ですから基礎控除は4800万円です。
自宅は相続分に応じて3人で共有名義にし、預貯金や有価証券も相続分どおりにお母さんが50%、子が25%ずつ相続したとすると、お母さんは配偶者控除によって納税額はゼロ、子2人は145万円ずつ相続税を払って、家族の合計納税額は290万円となります。
今度は生前贈与を活用したケースを考えます。
まず、居住用不動産贈与の配偶者控除を活かして、お母さんに2110万円分の持分を贈与し、自宅を夫婦共有名義にした場合、贈与によってお父さんの財産は7890万円となって、この相続税額は各77.25万円と負担は約半分となります。
贈与税はゼロです。
別の方法として預貯金や有価証券を家族3人にそれぞれ毎年110万円ずつ贈与していくと、7年で2200万円全額の移転が可能です。
この場合もお父さんの財産は7800万円になって相続税の負担を軽減することができるわけです。
生前贈与は「普通の家庭」でも活用可能
生前贈与で相続財産を減らしておくというと、一部の財産家だけが使うものという先入観があります。
でも、ごく普通の我々でも生前贈与が「遺族の幸せ」につながることが多いのです。
よくありがちな事例を挙げてみましょう。
まず、相続財産に占める自宅の評価割合が大きい場合です。
相続税は不動産も有価証券も全部ひっくるめて「お金」に換算して課税額をはじき出します。
自宅を相続したけどそれに見合う現金まで相続しなかった場合、相続税の納税資金は相続した本人が自分の蓄えから調達しなければなりません。
ヘタをすると、相続税を納めるために相続した自宅を売って現金を用意するハメにもなりかねません。
そうした事態を避けるうえで、毎年いくらかずつでも現金を贈与することで、相続財産を減らしていくとともに相続人の納税資金を手当てするという手法が活用できるわけです。
次に、「争族」の火種があるかもしれない場合です。
上記の例で長男が自宅を相続するとします。
そうなると他の相続人との相続割合が不釣合いになりますから、法定相続分を超える分を長男から他の相続人に現金で与えるという調整がとられることもあります。
これを「代償分割」といいますが、このお金が長男の手元になければ、場合によると家族の間で不満が噴出するかもしれません。
そうした事態を未然に避ける意味で、長男に代償分割の資金を生前贈与したり、あるいは代償分割の前渡しという意味から他の相続人に生前贈与したりすることで、「争族の火種」を極力回避することが考えられます。
この対策は「遺留分の減殺」や「共有相続による権利関係の複雑さの回避」などでも活用できるでしょう。
相続対策としての生前贈与は「継続はチカラなり」
贈与税の基礎控除額は年間110万円です。
これは相続税の基礎控除額「3000万円+法定相続人1人につき600万円加算」と比較すればはるかに少ないものです。
しかし、贈与する相手が3人いれば、年間の贈与税基礎控除額は330万円になります。
この3人への贈与を20年繰り返すと、合計で6600万円まで贈与税を払わずに贈与することが可能です。
つまり、長い目で見て1人につき毎年110万円ずつ贈与することで、かなりの財産を非課税で移転させることができるわけです。
長期間の生前贈与ではここに注意!
ここまでご覧になって、「よし、それじゃあウチは子どもが2人だから、毎月9万円ずつ贈与すれば年間108万円でうまくいくぞ」とお思いになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
でも残念ながら、この方法は「バツ」です。
つまり基礎控除額を下回っても贈与税が取られてしまう危険があります。
「月1回」とか「毎年○月○日」と決まったタイミングで一定の額を贈与する(これを「連年贈与」といいます)と、それは「定期金債権の贈与」という取り扱いになってしまいます。
この場合は相続税法24条の規定が適用され、数年間の贈与合計額の一定割合を「贈与財産」とみなされ、その金額から初年度の基礎控除額110万円だけが差し引かれた残りに贈与税率がかけられてしまいます。
ですから「100万円ずつ20年間贈与する」と約束してしまうと、2000万円の40%である800万円から110万円を引いた690万円が課税財産となり、176万円の贈与税を払わなければならなくなってしまうのです。
「定期金」扱いを避けるための贈与ポイント
● 毎年「その年分」の贈与契約書を交わす
1回の贈与契約でその後何年か分の贈与まで約束してしまうと「定期金給付契約」とみなされて相続税法24条が適用されてしまいます。
メンドウではあっても、毎年「いつ、いくら贈与する」という契約をした方が安全でしょう。
● ワザと贈与年月日をずらす
「毎月1日」とか「毎年4月1日」とかいった具合に贈与する日を決めておくと、たしかに忘れずに済みます。
しかしこれこそ「定期」を証拠づけることになりますから、やはり「去年は4月だったから今年は5月の連休明けにしよう」という「不定期な贈与」を心がけた方がいいでしょう。
● 毎年贈与額を変える
「毎年110万円」とすると、かなりの確率で税務署から「定期金」と判断されることになります。
去年は110万円、今年は100万円、そして来年は120万円贈与して、贈与税1万円を払うことで意図的に贈与の証拠を残す、といった具合に贈与金額もまちまちにしておく必要があります。