sorry,Japanese only

伸びよわが子ら 第5号
  英国の行政からみた自閉症支援 』
社団法人 日本自閉症協会 千葉県支部:発行 定価:1200円

本書は「平成15年度日本自閉症協会千葉県支部特別講演記録集」の名でおわかりのように、2003年6月に、英国ノーザンプトン県で障害福祉課自閉症支援チームの主任をされているデビッド・プリース氏を迎えて行われた講演会の記録集に、服巻智子氏の佐賀での「それいゆ」の活動紹介や、千葉県での取り組み、それに各種資料を加えてできあがった本です。
ノーザンプトン県とはイングランドの中央に位置する人口64万人ほどの県といいますから、日本の地方の県とほぼ似た規模だといえるでしょう。そのノーザンプトンで行われているのは日本にくらべて、少なくとも岡山にくらべては20年近く進んでいるように感じました。
1980年代後半になりますまでは、しかしながら、ノーザンプトンにおいては自閉症の子どものための特化した専門のサービスは皆無でありました。
その当時どうであったかといいますと、知的レベルの低い自閉症の子どもの場合には、一般的な障害児というくくりで教育の中に統合されていた。そして機能の高い子どもたちの場合には普通学級、普通学校のサービスの中に特別なサービスのないまま、組み入れられていたのです。
したがって、関係者は非常に不満の高い状況でありました。専門家自身も自分たちのやっているサービスに満足していなかったし、また、親たちの不満も高くなっていました。
まさに、まだ特別支援教育の始まる前の、今の日本の姿であるように思います。
そして、親と専門家と政治家が集まって改善のための話し合いと取り組みが始められたわけです。
当時自閉症に対する知識や理解は充分なものではありませんでした。かなり低いレベルにありました。そこで、まず自閉症の子どもたちに対するサービスを提供している専門家に対して、適切な訓練が必要であると考えました。
そして同時に、一つの一貫性のあるアプローチを取らなければならない。教育でも、そしてまた社会福祉サービスであっても、その間には一貫性がなければならない。子どもに対するサービスと成人に対するサービスの間にも、やはり一貫性が必要であり、自閉症に対するサービスということで、一つの一貫性のあるサービスを取る必要があるということが明らかになりました。
それからですね、診断のレベルを向上させる必要があるということも私たちは感じていました。当時自閉症と診断されている子どもは県内で、100名以下だったのですが、実際に働いているものの実感として、実数はもっと多いだろうということが考えられていました。従って診断のレベルを高めること。これも一つの課題になります。
最後に、自閉症の子どもたちに対する専門サービスが必要である。特化されたサービスが必要であるということを認識しました。これについてはまた後でお話しますが、はっきり申し上げまして、障害児というくくりで提供されている一般的なサービスでは、自閉症児のニーズをみたすことはできない、ということが明らかになったのです。
この4つの領域、すなわち、専門家の訓練・再教育生涯にわたっての一貫性のあるアプローチ適切な診断+評価専門的なサービスの提供、については、我が国でも昨年2004年暮れに成立した発達生涯支援法の中で触れられていることも多く、この国でこれからの私たちが目指していかなければならないものだと思います。
また、20年遅れているからといって、追いつくのに20年かかるわけではなく、私たちの熱意と努力があればもっと早く追いつけるのではないかと思っています。
それにしても、行政の取り組みとしてうらやましい話も多いです。例えば自閉症児のためのグループホーム、エベンリーロード、6人の子どもたちが暮らしているのですがその経費は約7千万円ほどだそうです。日本では予算が2千5百万円の自閉症・発達障害支援センターすら、まだ各県に一つずつもできていません。また、英国では障害者の教育と福祉サービスは、本人がどこを利用しても全て国費負担だそうです。つまり私立の機関を利用しても、国費が支払われるので、本人はどこを利用しても無料、このエベンリーロードもスタッフ21名(日本で各県にせめて一つずつは作ろうとしている、さきほどの発達障害支援センター・・・スタッフは4人です)を抱えていますが、全て公費でまかなわれているそうです。
もっとも日本でも、養護学校の間はそれぐらいの経費がかかっているのかもしれません。問題は、卒業後や地域での生活への支援となるとあまりにも格差が大きいことかもしれません。
そんな日本ですが、本書の後半にあるように、自閉症児・者への支援への取り組みが始まっています。本書で紹介されている佐賀での「それいゆ」の活動も日本では抜きん出ていると思うのですが、地域が行政を巻き込んで行っている千葉での取り組みも見習いたいものの一つです。
それでは最後に、『「健康福祉千葉方式」を応援しよう! という人々の集い』の最後に採択された千葉宣言を紹介して、お薦め文を終わります。
文中の「千葉」を各地の地名に変えて、日本中でこんな宣言が出されれば、というような一文です。
  千葉宣言   この新しい世紀のはじめにいっしょに考えましょ
住み慣れたこの千葉、これからも生活するこの千葉が、明るく、心あたたまる社会であるように・・・
そして、みんながそのために力を合わせて進むことが出来るように・・・
私たちは望んでいます。
この社会が性別や年齢、障害の有無を超えて、すべての人を個人として大切にする社会であるように
私たちは望んでいます。
私たちの住む社会のあり方や制度を、自分たちも発言してつくっていくことを
私たちは望んでいます。
誰もが支えを必要としている中で、地域社会が自然に支え合う社会であるように
そして今日、私たちは宣言します。
地域の中で一人ひとりの出会いを重ねながら、人の福祉力(ちから)、地域の福祉力(ちから)を掘り起こし、育み、そして千葉から全国に広げていくことを。
                 2003年3月22日
   http://www.interq.or.jp/japan/aschiba/as_pdf/br_gav_atm_ast.pdf
(「東方見聞録 AUTISM Vol.5」 2005.3)

   目次

1 実施日時等
2 講演録
2−1 挨拶 (日本自閉症協会千葉県支部 支部長 大屋 滋 氏)
2−2 講師紹介 (それいゆ自閉症支援専門家養成センター長 服巻 智子 氏)
2−3 デビット・プリース氏 講演
2−4 日本における取り組み
2−4−1 講師紹介 (日本自閉症協会千葉県支部 支部長 大屋 滋 氏)
2−4−2 服巻智子氏 講演
2−4−3 千葉県での取り組みの紹介
2−5 パネル・ディスカッション

   資料集目次

資料1 講演会レジュメ
資料2 英国ノーザンプトン県の自閉症福祉・教育見学記
資料3 千葉県地域福祉支援計画 (「福祉力!」計画)から抜粋
資料4 第三次千葉県障害者計画から抜粋
資料5 千葉県障害者地域生活づくり宣言
資料6 参考図書・HP

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