sorry,Japanese only

『 大人のアスペルガー症候群 』

佐々木 正美・梅永 雄二:監修 講談社 定価:1300円+税
ISBN978-4-06-278956-1 C2311 \1300E


10年前には、まだ日本では耳にする事も少なかったアスペルガー症候群も、今では一般の方もその言葉だけは「聞いたことがある」というようになってきていると思います。
ただそれが障害として正しく理解されているかというと、少し心許ない感じです。一般の方には、学問的な本よりも、新聞や週刊誌の事件の中で眼にすることが多いためかとも思います。自閉症協会などのマスコミへの申し入れのおかげで、さすがに今では記事の中では誤解を招くような取り上げ方は少なくなったとはいえ、まだ見出しなどにはその名が大きく取り上げられることもあり、少々気になるケースも見受けられます。
しかし、マスコミで障害名が知られることは、マイナスばかりではなく、プラスの面もあります。
ひとつには、一般の方に、アスペルガー症候群というものが、わがままや自分勝手ではなく、脳機能による障害として認知されることがあると思います。
そしてもう一つは、それまで診断を受けず、それこそわがままで一人よがり・・・などと言われて、周りとうまくやってこれなかった人の中に、もしかすると・・・と、自らを省みて、思い当たる人がいるかもしれないということです。

本書は、そんな人たちに向けて、新聞などでは紙面の都合で詳しくは触れられていないアスペルガー症候群の正しい説明と、それからの進む道を指し示しています。
監修にあたられているのは、日本の自閉症児・者の療育をリードしてこられた佐々木正美先生と、発達障害者の就労支援にも詳しい梅永雄二先生ですから、これ以上はない組み合わせでしょう。

それまで、自分でも「どこか違う」「どうも周りとうまくいかない」と悩んできた青年たちに向けての本ですから、なにより平易な言葉で例を多くして、この障害について説明しています。それも、この障害をマイナス、劣っているものと捉えるのではなく、脳機能のかたよりとして、一般の人(非自閉圏の人)とは違っているけれど、その分いい面、すぐれた面もたくさんあると説明しています。

例えば、最初、導入部としての障害の三つ組の特性にしても、それを弱い部分と見るのではなく、まずはプラス面から説明しています。

○ コミュニケーションの特性

   よい面:・素直で正直。思った通りのことを口にする。
        ・興味のあることについては、どんどん発言する。
        ・独特の感じ方をする。人にはない感性をもっている。

  つらい面:・言葉を字義通りに理解する。たとえ話を本気にとる。
        ・人の話を聞けない。聞いて理解するのが苦手。
        ・表情や身振りに鈍感。他人の意図を読みとれない。

○ 社会性の特性

   よい面:・自由に発想できる。天真爛漫な生き方をしている。
        ・行動力がある。やりたいことに向かって一直線。
        ・人に流されない。ひとりでも怖がらずに行動できる。

  つらい面:・友達ができない。それをさびしいとも思わない。
        ・人と共感しない。人の気持ちに興味がもてない。
        ・社会常識やマナーが、なかなか身につかない。

○ 想像力の特性

   よい面:・一定の作業を正確に、緻密にこなせる。
        ・好きなことには、優れた集中力を発揮する。
        ・反復作業、単純作業をいとわない。

  つらい面:・興味のかたよりが強く、頑固な面がある。
        ・臨機応変な対応ができない。予定通りを好む。
        ・決まりを守りたがる。融通がきかない。

もちろん、とは言っても、彼らが生きていくこの社会の中では、彼らは少数派です。
多数派の非自閉圏の人たちとうまく暮していくためには、彼らの特性に配慮したアドバイスや支援が必要です。疎外感を味わうことなく、誤解や二次障害を避けていくための、本人に対するアドバイスや、周りの人たち、友人や同僚、そしてなにより家族に対してお願いしたいこと・・・それらがつまった一冊です。

各ページ、イラストや関連図、説明文がバランスよく配置され、見開きでわかりやすい構成になっています。
題名の通り「大人のアスペルガー症候群」ではないかと思ったり、あるいは診断されたばかりの本人や周りの方が、最初に手にとるのにふさわしい、未来に希望が持てるような一冊だと思います。

(「育てる会会報 127号」 2008.11)


目次

まえがき

友達ができない、仕事ができない
  − その原因がアスペルガー症候群? −

1 なぜうまく生きられないのか

アスペルガー症候群
  よくも悪くも目立つ、三つの特性

行動特徴
  会話ができているようで、できていない

行動特徴
  社会性がなく、失礼な言動をする

行動特徴
  想像力に乏しく、応用がきかない

どう考えるべきか
  こころの病気ではなく、脳機能のかたより

どう考えるべきか
  困難を放置すると、こころの問題に

2 人にあわせられない疎外感

付き合いの悩み
  友達のつくり方がわからない

付き合いの悩み
  誘いをうまく断れず、険悪になる

子ども時代は
  少数の友達とだけ、仲がよかった

付き合いの悩み
  真剣なのに、恋愛が長続きしない

どう考えるべきか
  付き合いの幅を無理に広げない

どう考えるべきか
  嘘をつけない素直さを大切に

集団での孤立感
  人と同じようにできず、悩んでいる

集団での孤立感
  余計なことを言って、浮いた存在に

子ども時代は
  いじめにあい、人間関係に悩んだ

集団での孤立感
  興味のないイベントは楽しめない

どう考えるべきか
  ルールやマナーをマニュアルで学ぶ

どう考えるべきか
  ひとりで動ける行動力をいかす

column 友人に頼みたいこと
  悪意がないことを知ってもらう

3 職場に定着できない無力感

仕事への無力感
  指示されないと、自分からは動けない

仕事への無力感
  「努力がたりない」と言われてつらい

学生時代は
  天才肌で、得意科目に自信があった

仕事への無力感
  融通がきかず、ひんしゅくをかう

どう考えるべきか
  指示があれば、期待に応えて働ける

どう考えるべきか
  規則正しい行動を仕事につなげる

会話の戸惑い
  人と対面する仕事は強いストレスに

会話の戸惑い
  お詫びやお礼がすぐに言えない

学生時代は
  言葉づかいの悪さをよく注意された

会話の戸惑い
  電話の相手が怒ったわけがわからない

どう考えるべきか
  失言をおそれず、正直にたずねる

どう考えるべきか
  常識にとらわれない発想を力に

column 同僚に頼みたいこと
  独特の行動への理解を求める

4 誤解と非難がもたらす劣等感

誤解
  家族が障害と認めないことに苦しむ

誤解
  「態度が悪い」「変わり者」だと思われる

誤解
  アスペルガー症候群は犯罪の原因なのか

二次障害
  非難され続けて、劣等感や絶望を抱く

二次障害
  うつ病や強迫性障害を発症することも

二次障害
  自暴自棄になり、ひきこもり状態に

どう考えるべきか
  二次障害は対応次第で防げること

column 家族に頼みたいこと
  障害にいっしょにとりくんでいく

5 支援を受けると、生活が安定する

生活支援
  アスペルガー症候群を理解してもらう

生活支援
  療育手帳や福祉手帳は取得できるのか

就労支援
  支援センターを利用して適職をみつける

就労支援
  「ジョブコーチ」を派遣してもらう

就労支援
  職業能力の判定を受けて、自分を知る