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『 自閉症の子と たのしく暮らすレシピ 』

佐藤 智子:著  ぶどう社  定価:1600円+税
ISBN978-4-89240-189-3 C0036 \1600E

「たのしく暮らすための “手立て”や“コツ”や“ヒント”を、見開き2ページで、まんが入りで、わかりやすく紹介!」と、うたい文句にあるように、ニューファミリーの家族が、自閉症の「つばさ」くんといっしょに、楽しく暮らしているレシピの紹介です。
「昔に比べて自閉症児の症状が軽くなったように思える」どこかの先生に聞いた言葉です。確かに、昔初めて我が子が自閉症と診断された頃、今から20年近く前、まわりにいた強者(つわもの)とも言えるようだったお兄さん達の姿を、最近はあまりみかけなくなったように思えます。なにしろ、小さい子(自閉症のチビちゃん達)が入っているお風呂に、素っ裸(当然ですが)で全速力で走ってきて、そのままジャンプして飛び込む・・・後からボランティアのお兄さんが、こちらは腰にタオルを巻いて、あわてて風呂場に駆け込んでくる、派手な水しぶきの中で、笑っていいのやら、青くなっていいのやら、「いやー、すごいものだなあ」と感心(?)したのを憶えています。
それから、10数年、私のまわりにも、本書の「つばさ」くんのような、可愛い自閉症児たちを見かけるようになりました。
それには、やはり本書の中でも触れられているように、自閉症の特性を理解し、自閉症児へのアプローチの方法が改善できたことも大きいと思えます。
例えば、本書のある章のレシピに挙げられているポイントでは
@ 穏やかな声で声をかける。
A 肯定的アプローチで、「ダメ」を「○○します」に言いかえる。
これなどは、すでに自閉症児を育てるうえでの常識とされ、ほとんどのお母さんたちがこころがけていることでしょう。
その意味では、本書のレシピは既に各種に専門書で紹介されているものであり、とりたてて目新しいものはないのかもしれません。自閉症児を育てあげられたお母さん達なら、みんなそれぞれの家庭で工夫して乗り越えてきた道であり、「これについては、私ならもっといい方法(レシピ)を知っているよ」という方もあるかもしれませんね。
でも、いまでも家庭料理のレシピが重宝されるように、こんな形で読みやすくまとめられた本は、自閉症と告知されたばかりの若いお母さんには、ヒント集として役にたつと言えるでしょう。マンガを交えた明るい雰囲気も、暗くなりがちな最初の間は希望を持てて救いとなるかもしれません。そんな入り口付近にいる方にはお薦めできる本だと思います。
ただ、これはあくまで「つばさ」くんチのレシピであり、そのままで全ての方に使えるわけではないことも気をつけていただきたいと思います。自閉症児の症状が軽くなったように見える・・・とは書きましたが、まだまだ家族ともども深刻な状態にいる方もいらっしゃいます。それは、本人の症状だけでなく、家庭環境にも影響されていると思います。
最初に「ニューファミリーの」と紹介しましたが、著者の家族は、理解のあるご主人、理解のある田舎の実家、相手をしてくれるお兄ちゃん、愛情と熱のある先生、そしてご自身が学校の先生ということもありダブルインカムで経済的にも恵まれているように思えます。いくら「乗り物に乗ることそのものが余暇になります」とはいえ、わざわざタクシーに乗るためだけに駅まで歩いて、タクシーで家に帰ってくるのを“余暇”とするとは・・・私にはちょっとできない発想でした。もちろんそれが悪いという訳ではないのですが、貧乏性の私にはやはりもったいないと感じて、もう少し安上がりな趣味を探してしまいます(^_^.)
そんなわけで、これは心や暮らしには多少の余裕のある、若いお母さんに向けてのレシピだと思います。貧しくても心おだやかだった、「三丁目の夕日」世代の親としては、今度は七輪で秋刀魚を焼いているような、そんな庶民的なレシピも次回は期待したいと思います。
なにはともあれ、明るく楽しいレシピの数々です。
これから、自閉症児の子育てに取り組もうとされているお母さんたちには、「自閉症の子育てって、取り組み方しだいで結構楽しいものですよ」
我が家の経験からも共感できるメッセージであり、お薦めしたい一冊です。
(「育てる会会報 117号」 2008.1)

目次

はじめに
1章 暮らしで困ったこと、こうしてカイケツ!
嫌がるシャンプーをできるようにするには
寒くても着ないジャンバーを着せるには
「どっち?」と聞いたら、選ぶことができた
「ダメ」と言わないで「○○します」と言いかえる
慰めるときは、声をかけないで見守る
テレビを家族で仲良く見るには
ゲームをやるときの順番を教える
テレビの声も、話す声も、ボリューム○で
[ もっと困っているのは、つばさかもしれない ]
2章 外出で困ったこと、こうしてカイケツ!
苦手な赤ちゃんの泣き声を避けるには
道路を安全に歩けるようにするには
赤信号で止まって待つ間、どうするか
嫌いな床屋さんに、どうやって行かせるか
苦手な歯医者さんに、どうやって行かせるか
いつ行けるかを、スケジュールでわかるように
[ スケジュールが、うまくいかないときには ] 
3章 ことばでやりとり、できたらいいな
気持ちを知りたい! 話をしたい!
鼻チョンと「どうぞ」で、ことばを引き出す
大好きなものを見せて、名前を教える
ことばかけを、パターン化して繰り返す
挨拶で、ことばのキャッチボール
「お名前は?」「何歳ですか?」で、ことばのやりとり
カード学習で、ことばを増やそう
楽しいときに「たのしい」のことばを教える
ことばは誰かに向かって言うんだよ
「それから?」「どっち?」で、一日を振り返る
1語文から2語文・3語文に増やすには
[ あ、つばさが自分で、ことばを覚えようとしている! ]
4章 トイレ成功までの、なが〜いフンセン記
オシッコを一人でできるようになるまで
ウンチを、トイレでできるようになるまで
[ 今、トイレは自分でできます。楽になりました ]
5章 課題学習、少しでも伸ばしたい
家での課題学習は、どうやってするか
さぁ、課題学習をはじめるよ
作業的課題は、ファスナーからボタンへ
カード学習で、ものの名前を覚え、世界が広がる
書き取りは自作プリントで、ひらがなから
3輪車から補助輪付き自転車に乗れるまで
補助輪なし自転車に乗れるまで
[ 何かを教えたいときは、まず私が自分で試してみて ]
6章 一緒に遊ぼう!
テレビも、ビデオも、大好き!
絵本の読み聞かせから豊かに広がる
ゲームのバーチャルから現実の世界へ
家庭で遊べる、いろんな遊び
カラオケに行って、歌えたらいいね!
親子で、家族で、体を動かそう
[ 自分の世界にいるつばさを、遊びに誘いこむ ]
7章 みんなで出かけよう!
家族で外食を楽しみたいとファーストフードへ
ファミレスでも、ちゃんと食事できたよ
エレベーターも、タクシーも、余暇にしちゃおう
バスや電車に乗るときは、ルールを決めて
家族でテーマパークに行きたいね
帰省で、観光で、家族旅行へ
8章 一緒に育ててくれた人たち
つばさと仲良く育ってきた、お兄ちゃん
愛情と熱意ある先生にめぐりあえた
いつも二人で向かいあってきた、夫
[ 子どもにも、親にも、同じように援助が必要です ]
おわりに

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