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介護のための口腔ケアマニュアル
−介護に従事する人のための口腔ケアの実際−
1.はじめに
2.口腔ケアとは
3.口腔ケアの目的
4.口腔ケアの実際
1)口腔ケアの基本
2)歯ブラシについて
3)その他の清掃用具
4)含嗽・洗口剤について
5.義歯について
6.それぞれの状態の口腔ケアについて
1)寝たきりの人の口腔ケア
2)麻痺のある人の口腔ケア
3)痴呆のある人の口腔ケア
4)意識障害のある人の口腔ケア
5)嚥下障害のある人の口腔ケア
6)口を開けてくれない人の口腔ケア
7)経管栄養を受けている人の口腔ケア
8)気管切開を受けている人の口腔ケア
9)歯のない人(無歯顎の人)の口腔ケア
10)部分入れ歯の人の口腔ケア
7.歯科医師・歯科衛生士が行う口腔ケア
8.口腔ケア関係の参考書
9.おわりに
※画像にカーソルをあわせると,説明文が表示されます。
※本文の内容については、新しい情報・知見が入り次第更新していきます。
1.はじめに
この口腔ケアマニュアルは,歯科医療従事者以外で介護に従事する人たちに参考にしていただくためのマニュアルです。
紙面の関係上,あまり詳しい記述は無理ですので,興味を持たれた部分については,詳しい参考書を読まれることをお奨めします。用語については,できるだけわかりやすい用語を使用しましたが,歯科医療従事者とコンタクトをとる場合に知っておいたほうがよいと思われる用語は,あえて専門用語を使用しました。
2.口腔ケアとは
口腔ケアとは,最近は治療までを含め口腔ケアと呼ぶようになってきていますが,ここでは,口腔清掃・義歯の取り扱いなど狭義の口腔ケアを対象とします。
3.口腔ケアの目的
本サイトの「口腔ケアについて」でも述べられていますが,口腔ケアの目的は1.誤嚥性肺炎の予防 2.口腔疾患の予防 3.QOLの向上です。
4.口腔ケアの実際
1)口腔ケアの基本
基本は,歯ブラシなどで口腔内を清掃し,できるだけ口腔内の細菌を減少させることです。ただ,対象とする要介護人の病態は千差万別であり,それぞれのケースにおいての工夫が必要だと思います。
そして,常に念頭においておくべき事は,対象とする人は虚弱老人であり,易感染性であり,また,処置時の誤嚥を防ぐための配慮が必要であるということです。
そして,少しでも可能性があるなら,できるだけ自分でブラッシングができる状態にまでもっていこうとする努力が必要です。これは,QOLの向上,自立にもつながります。
もちろん,介護者が一方的にケアを行うほうが,当初は時間の短縮になりますが,自分でケアが可能になれば,結果的には,大きな時間の短縮になります。介護人がブラッシングをする場合も,できるだけ要介護人の手を添えていっしょに行うことが重要だと思います。
また,可能なら,ベッド上ではなく洗面所で行うべきです。ブラッシングを毎食後行うことにより,生活のリズムをつくることもできます。
以前,脳外科の病棟看護婦の方から,次のような話を聞いたことがあります。「意識障害のある患者の口腔ケアは,スワブ(綿棒)を使用すると考えている人が多いが,私たちは積極的に歯ブラシを使用している。歯ブラシの方が,きれいに清掃できるのはもちろんだが,口腔内の粘膜・神経を刺激することにより意識の覚醒を促したり,口腔内のマッサージにもなる。
何よりも,人間らしい日常性と習慣性がつくれる。」とのことでした。
ブラッシングの基本
ブラッシングの基本は,口腔内のプラーク(歯垢)や食物残渣を取り除くことですが,そのためには,汚れが残りやすい部分を知っておく必要があります。
汚れが残りやすいところは,歯の上部(咬合面)の溝の部分,歯と歯肉の境目,歯と歯の間などです。義歯を装着している場合は,義歯と歯の境目に食物残渣が残りやすいので,義歯をはずしてブラッシングする必要があります。
そして,無歯顎の人(歯のない人)は別にして,スワブではなく,できるだけ歯ブラシを使用してもらいたいと思います。
スワブでは,下手をすると汚れを歯間に押し込んでしまうこともあります。
実際にブラッシングを行う前に,うがいができる人の場合は,一度うがいをしてもらうと,大きな食物残渣がとれて効率的です。
もし,うがいが不可能なら,スワブで大ざっぱに汚れを取った後にブラッシングを行うのがいいと思います。

※汚れの残りやすいところ(日本口腔保健協会:介護のための口腔保健マニュアル.医歯薬出版,東京,1996.より一部改変)
歯ブラシの動かし方は,一口で言うと,細かく動かし,1本1本磨くような感じです。
磨くときに力を入れる必要はありません。 プラーク(歯垢)は柔らかいので,歯ブラシの先が,歯面に触れていれば除去できます。歯ブラシを歯と歯肉の境目に,歯の側面にほぼ垂直に押し当てて,横に細かく振動させるように動かします。
大きく動かすと,汚れは取れないばかりでなく,歯肉を傷つけたり,歯根の表面をすり減らしたりします(歯肉が退縮して歯根の表面が露出すると,歯根表面は柔らかいため,不適切なブラッシングにより,くさび状にすり減ります)。
歯の上の面も同じように細かく振動させるように動かします。
歯ブラシを,大きく動かすと,歯の膨らんだ舌に触れる面だけつるつるになるため,うまく磨けたように錯覚します。これは,歯ブラシを細かく動かすことがうまくできない介護を要する人の場合や,介護者がブラッシングを行う場合に,とくに注意する必要があると思います。
歯磨き剤は,基本的には,気に入ったものであれば何でもいいと思います。
メーカーは薬理学的な効果をいろいろアピールしていますが,これは補助的なものと考えた方がいいと思います。
あくまで,ブラッシングによる機械的な汚れの除去を主体とし,薬理学的な効果はおまけと考えた方が無難です。
以上がブラッシングの基本です。 それぞれの介護の現場においては,なかなかこのとおりに口腔ケアを行えないケースも多くあると思います。
しかしながら,この基本を知っているとより効率の良いケアが行えると思います。
体位について
口腔ケアを行う体位ですが,前述のように,生活のリズムをつくるためにもできるだけ洗面所で行うことが望ましいのですが,ベッド上で行う場合は,起座位または半座位(ファーラ位)で行います。
起座位の場合は,誤嚥はしにくいが疲れやすいので注意が必要です。上半身を起こせない場合は,側臥位または仰臥位で,顔を横に向けてケアを行います。
もし,麻痺がある場合は,誤嚥を防ぐため健側を下側にします。
いずれの体位においても,頸部を前屈させた方が誤嚥の危険は少なくなります。
ベッド上で行う場合は,誤嚥を防ぐためにも,可能なら吸引装置の準備をします。
また,うがいをした水を吐き出すためのガーグルベースンまたは膿盆などを準備します。
なければ,ペットボトルの側面をくりぬいたものでも代用できます。

※体位のいろいろ(新庄文明ほか:歯科衛生士による訪問歯科保健指導ハンドブック.医歯薬出版,東京,1994.より一部改変)
2)歯ブラシについて 
通常,私たち歯科医は患者さんには,痛くない程度のやや硬めの歯ブラシを奨めています。
しかし,介護を要する人の場合は,柔らかめの歯ブラシのほうがいいと思います。
これは,柔らかいほうが,口腔粘膜を傷つけにくいからです。
ブラシの先は,細かいところが磨きやすいように小さめのものがよく,反対に,柄の部分は,握力が弱くなっている人が多いため,大きめのものがよいと思います。
また,柄が,手の不自由な人でも使えるように特別に工夫された,トレーニング用歯ブラシというものもあります。
これは,普通の歯ブラシの柄の部分に,硬めのスポンジやタオルなどをまいて持ちやすくしても代用できます。
まっすぐな柄ではブラッシングが行いにくい場合は,柄をガスやローソクの熱で曲げて持ちやすい形にして使用することも効果的です。
本人でなく,介護人が持ちやすいように柄がデザインされた介助者用歯ブラシもあります。
歯ブラシについて,意外と忘れやすくて重要なことは,古くて毛先が曲がったようなものは極端に清掃能力が落ちるため,早めに新しいものに交換するということです。 交換の目安は,1ヶ月位でしょうか。
3)その他の清掃用具
スワブ
スワブとは綿棒のことですが,スワブする=口腔清拭する
と動詞で用いることもあるようです。 市販品もありますが,コスト面や大きさを自由にできることから,一般的には看護婦さんの手づくりが多いようです。
スワブは,歯ブラシの使用が不可能な場合に用いられますが,清掃効果がかなり違うため,できるだけ歯ブラシを使用してほしいことは前述しました。
ただし,歯ブラシを使用する前段階として,スワブを使用することは非常に効果的です。
また,無歯顎の人は,このスワブやガーゼによる清掃が主になります。
スワブに水やお湯,重曹,ポビドンヨード(イソジン),液体歯みがき剤などを浸み込ませて,歯や口腔粘膜を丁寧に清掃します。
歯ブラシ使用時と同じように,汚れが残りやすい部位を頭に入れて清掃すると清掃効果があがると思います。
また,デンタ・スワッブPPという綿花の代わりに柄の先にスポンジが取り付けられた市販品もあります。
普通のスワブより清掃効果は高いようです。
デンタ・スワッブPPとほぼ同様の製品として,井上アタッチメント(株)のトゥース・エッテという商品もあります。どちらの商品も,1本30−40円位です。
デンタルフロス,歯間ブラシ 
デンタルフロスは,別名糸楊枝とも呼ばれ,絹糸やナイロン糸が使われ,歯間部の汚れをとるのに使います。
使用法は,フロスを歯と歯の間に通し,歯肉の部分から歯面をこすりながら歯の上部に移動させて汚れを取ります。
Y字型の柄に糸を装着した,使い切り型のものと,使用する長さだけを切って使うタイプのものがあります(写真右のタイプ)
。 また,後者のタイプのフロス用のホルダーもあります。
経済的で,操作しやすい点ではこのタイプのものがお奨めです。
歯間ブラシは,歯ブラシの小型版という感じで,細かい隙間を清掃するのに用いる小さな円錐型のブラシです。
歯肉が退縮し,歯間部が広くなった場合や,ブリッジの下部など,普通の歯ブラシでは清掃が難しい場合に用いると効果が上がります。
デンタルフロスも歯間ブラシも,通常は,歯ブラシの補助用清掃用具として用いられますから,これらの使用を考える要介護人の方の口腔ケアは,かなり行き届いていると考えられます。
以前より使用していた人は別にして,使用法の説明やトレーニングなしに,いきなり使用するのは難しいと思われます。
電動歯ブラシ
現在,多くの電動歯ブラシが市販されています。
私の考えでは,以前の製品より性能は格段に向上していますが,通常は歯ブラシの補助として用いるべきだと考えています。
電動歯ブラシ本体や,ブラシの先の形態・大きさによりうまくみがけない部分があるためです。
しかし,手に麻痺のある方や,老人でうまく歯ブラシで磨けない人にとっては大変有用です。
電動歯ブラシの種類としては,ブラシ自体が微振動するタイプと,ブラシの毛の部分のみが反復運動するタイプの2種類があります。
両タイプとも,それぞれ短所長所がありますが,介護人が使用する場合は,ブラシの毛の部分のみが反復運動するタイプが,位置がズレなくて使用しやすいようです。
実際の使用では,当然,普通の歯ブラシのように反復運動する必要はありませんが,くさび状欠損(歯の柔らかい根の表面がくさび状にすり減ること)や,歯肉の損傷に気を付ける必要があります。
誤った使用をすると,普通の歯ブラシよりも前述のような障害は強く出ますので,使用法については注意が必要です。
また,電動歯ブラシは,どうしても歯の膨らんだ面に強くあたり,舌で触るとつるつるに感じ,きれいに磨けたよう錯覚してしまう点も気をつける必要があります。
電動歯ブラシの使用は,前述のような場合効果的ですが,振動をいやがる人も中にはいるために,適用に当たっては気をつける必要があります。
価格は8,000円から20,000円位です。 極端に安い製品は,安物買いの銭失いの場合がほとんどです。 どれを選択して良いかわからない場合は,歯科医や歯科衛生士に相談すると,適切なアドバイスをもらえると思います。
ウオーターピック
ウオーターピックとは,ノズルの先から噴出するジェット水流により,歯間部や歯周ポケットの食物残渣や細菌を取り除く装置です。
また,歯肉のマッサージ効果もあります。ジェット水流は強力であるため(もちろん調節可能ですが),かなりの清掃効果は期待できますが,誤って舌,頬粘膜,口底部に当てたときは,かなりの痛みがあります。
適応としては,自分で歯ブラシによる清掃は一応可能であるが,手の麻痺などのため細かいところまでは清掃が困難な人の場合というところでしょうか。
私自身,毎日使用していますが,ノズルの位置を誤ると痛みがあったり多量の水が出るため,介護者による使用はやや難しいと思います。
しかしながら,使用後の爽快感は格別で,使い始めるとこれなしではいられません。
価格は約15,000円で,チップの交換により家族での使用が可能なため,歯科医としては,一般の患者さんにう蝕・歯周病予防のために奨めたい製品です。
また,タンクに洗口剤や液体歯みがき剤を混ぜて使用することもできます。
同様の商品としては,ポルタデントN−2(リコーエレメックス株式会社)というのもあります。
デント・エラック給吸ブラシ910
まさに,ハイテク商品で,要介護人ごとに交換可能な給水・吸引機能の付いた電動歯ブラシにより,口腔清掃ができるという究極の口腔ケアシステムです。
歯ブラシ本体は,電動歯ブラシの機能を持っており,万一の吸引異常時にも,誤嚥を防ぐために給水のオートストップ機構がついています。
携行も可能で,吸引機能もあるため,ベッド上でも問題なく使用できます。
また,液体はみがき剤も同時に使用できます。
歯ブラシの先より給水・吸引ができるため術者は,この歯ブラシを持つだけでケアが行えます。いいことだらけですが,その分,価格も高価です。
同様の商品として,東京技研(株)のビバラックという商品があります。
機能はやや簡略化されていますが,ノズルを交換することにより,吸引機としても使用できます。
また,歯科医師自身が開発した口腔ケアのための吸引機もあります。( http://www.juno.dti.ne.jp/~yoshikiy/care/index2.html
)
また、最近、エラック吸引ブラシという製品が発売されました。吸引機能付きの歯ブラシで、価格も約3万円と比較的安価なため、患者さんにも勧めやすいと思います。機能的にはこれで充分のような気がします。
※ 私は,下の写真のような,普通の歯ブラシの柄の内側にカテーテルをテープで固定し,吸引機に接続して使用しております。簡単に作ることができ,効果は絶大です。
ぜひ,試していただきたいと思います。
吸引機は,価格も比較的安価で(45,000円程度),バッテリー内蔵,吸引力も以外と強力です。
欠点は,重量が7Kgとやや重いことです。この場合,給水のための器具(シリンジなど)は必要になります。
吸引機は,ブラッシング時のみならず,あらゆる口腔ケア時に役立ちます。
ぜひ,装備したい機器です。 

4)含嗽・洗口剤
基本的には,ブラッシングによる機械的清掃の補助として用いられます。多くの製品が市販されていますが,歯ブラシが使用できなくて,スワブによる清掃しかできない場合は,殺菌力を第一に考えて選択すべきだと思います。
製品の一例としては,ポビドンヨード「イソジンガーグル」,グルコン酸クロルヘキシジン「コンクール」「ラカルト」,臭化ドミフェン「オラドール含嗽液」,塩化ベンゼトニウム「ネオステリングリーン」,アズレン「含嗽用アズレン」「含嗽用ハチアズレ」などがあります。
また,院内処方される含嗽剤としては,オキシドール,炭酸水素ナトリウム(重曹)などがあります。
私の考えでは,前述したスワブしか使用できない人は別にして,あまり薬理作用を気にするよりも,介護を受ける人の気に入った,できるだけ爽快感のある製品を選ぶべきだと思います。
その方が,口腔ケアのモチベーション(動機づけ)としても意味があると思います。あくまで,主体はブラッシングと考えるべきだと思います。
5.義歯について 
口腔ケアの参考書の中には,固定式のブリッジを入れ歯の種類の一つと書いているものもありますが,これは誤りで,取り外し式の装置を入れ歯といいます。(残念ながら,介護支援専門員標準テキストもブリッジを入れ歯の一種類としています。−ブリッジと義歯は,ケアの方法も全く違いますから別のものとして扱うべきです。) 入れ歯と義歯は同意語です。
入れ歯(義歯)には,総入れ歯(総義歯)と部分入れ歯(部分床義歯)があります。
総義歯は,床の大きい方が上顎用で,U字型の方が下顎用です。床の部分(白い人工歯以外の部分)は樹脂製のピンク色をしたレジン床義歯と金属製の金属床義歯があります。
総義歯の場合はわかりやすいですが,部分入れ歯の場合は,部位・大きさによって形が多様です。
しかし,基本的には,ピンク色の床の部分,白い人工歯,それに金属のクラスプと呼ばれる残存歯にかけるバネのような金具から成ります。(床が金属製の金属床義歯もあります。)
義歯の着脱について,総入れ歯の場合は比較的簡単ですが,部分入れ歯の場合は,少しコツがいります。
まず,はずすときは,基本的には,残存歯の生えている方向(ほぼ垂直方向)に金具(クラスプ)を指ではずすと義歯もはずれます。
装着の場合は,金具(クラスプ)の位置をあわせて,人工歯の部分を押すと装着できます。
完全に装着できているかどうかは,もし,完全に装着できていない場合は,残存歯の先の高さと義歯の人工歯の高さがズレているためにわかります。
部分入れ歯の場合,着脱についてはコツが必要ですので,介護日誌にでも大まかな義歯の形と金具(クラスプ)の部位をメモしておくことをお奨めします。
また,何日も装着したままにすると残存歯が移動して,極端にはずしにくくなるため,毎日,できれば毎食後はずして清掃することが重要です。部分入れ歯の場合は,残存歯がう蝕になりやすいため,残存歯のブラッシングも重要になります。 
清掃は,毎食後,義歯をはずして義歯用のブラシ(なければ硬めの歯ブラシ)で行います。
この際,落とすと義歯を破損することがあるので,洗面所あるいは洗面器に水を入れその中で清掃します。
歯磨き剤を使用すると,配合された研磨剤のために義歯がすり減ることがあるため,使用しないようにします。(介護支援専門員標準テキストには,「歯磨き粉を付け丁寧に磨く」−第2巻26ページ−とありますが,これは誤りです。次回の改訂版では訂正を望みたいところです。)
夜間寝るときは,義歯をはずして専用のケースに水を入れて保管します。
できれば,1週間に1−2度義歯洗浄剤で清掃するようにします。義歯は清掃状態が悪いと,汚れが残ったり,細菌の格好の繁殖場所になります。
誤嚥性肺炎の予防のためにも,義歯の清掃を怠らず,就寝時は必ずはずすようにします。(小さな部分入れ歯の場合は,義歯自体の誤嚥の危険性もあります)
6.それぞれの状態の口腔ケア
口腔ケアの基本は,今まで述べましたが要介護人の病態により,留意すべき点をそれぞれの場合に分けて述べます。
1)寝たきりの人の口腔ケア
寝たきりの人の,口腔ケアはとくに誤嚥に気をつける必要があります。
可能なら側臥位,不可能なら仰臥位で,顔を横に向けてケアを行います。
できれば自分で,無理なら介護人がブラッシングするようにします。
介護人が行う場合は,舌根部や咽頭部を刺激すると嘔吐反射を起こしやすいため注意する必要があります。
ガーグルベースン,できれば吸引装置の準備も必要です。
2)麻痺のある人の口腔ケア
口腔ケアの基本で述べましたが,上半身を起こせない場合は,側臥位または仰臥位で,顔を健側を下にして,横に向けます。
麻痺のある場合は,通常感覚障害も伴っていますから,麻痺側に食物残渣が残っていても気づかないため注意する必要があります。
また歯ブラシの柄も握りやすいものを選択する必要があります。
麻痺のある人の場合,嚥下反射・咳反射機能が低下しているため,誤嚥に対する注意が必要です。
3)痴呆のある人の口腔ケア
口腔ケアを習慣づけるには,実際に要介護人に口腔ケアの後の爽快感を体験してもらうことが一番効果的です。
これは,痴呆がある人の場合でもある程度可能です。
強制的にケアを行おうとすると,その後のケアが難しくなります。
誰でも,無理やり他人に口腔内を触られるのは不快なものです。
歯磨きの時間を決めて,生活の一部として口腔ケアを位置づけるのも効果的です。
4)意識障害のある人の口腔ケア
意識障害にもいろいろ程度がありますが,できるだけ声をかけながらケアを行います。
歯ブラシは,粘膜にあたっても傷を付けることがないよう,毛先の柔らかい,小さめのものを選びます。
歯肉,粘膜,舌の汚れはスワブで取ります。
口腔内に歯ブラシなどを入れると噛んでしまう人の場合は,バイトブロックを使用しますが,この際,口唇,舌などを挟み込んで傷つけることがないように注意します。
嚥下反射・咳反射が低下していますので,誤嚥に対する注意が必要です。
5)嚥下障害のある人の口腔ケア
嚥下障害のある人の口腔内は,汚染が強く,常に誤嚥による肺炎の危険性が高いため,口腔ケアがとくに重要になります。
また,口腔内を刺激することにより,間接的な嚥下の訓練にもなります。
ケアを行うときの体位は,ファーラ位またはセミファーラ位で顔面を健側を下にして横に向け,顎を少し引いた姿勢をとります。
手順は,ケースにより異なりますが,一般的には,まずスワブで口腔内を清掃した後,歯ブラシで清掃します。吸引機の準備は必須です。
口腔ケアを最も必要とするケースですが,最も難しいケースであるといえると思います。
6)口を開けてくれない人の口腔ケア
一口で言えば,実際に口腔清掃後の爽快感を体験してもらうことが一番だと思います。
これは,痴呆のある人の場合でもある程度は可能です。
強制的に行おうとすれば,その後のケアをさらに難しくします。
誰でも,他人に口腔内を触られるのは不快なものです。
初めから,完全に行おうとせず,最初は少しずつ少しずつケアを行うのが,逆に成功への近道だと思います。
口角部から歯ブラシを入れて,少しずつケアを行い,次第にその部位を広げていくのがいいと思います。
と言っても,強制的に行わなければならないケースもあり,辛いところです。
7)経管栄養を受けている人の口腔ケア
経管栄養とは,口から食事ができないため鼻から胃までチューブを入れ,栄養分や水分を補給する方法を言います。
嚥下障害,意識障害がある場合,口腔内・食道内に異常がある場合この方法がとられます。
介護の対象になる場合は,ほとんど嚥下障害と意識障害の場合と思われます。 口から食事をしないために汚れがつかず,口腔ケアも必要ないと思っている人がいますが,これは間違いです。
唾液の分泌量が低下するため,自浄作用が低下し,口腔内は汚れやすくなり,口臭もしやすくなります。
口腔内は乾燥しているため,まず,含嗽剤やお湯を含ませたスワブで口腔内を湿らせた後,歯ブラシで清掃します。誤嚥に注意が必要なため,座位がとれる場合は少し前屈した姿勢で行い,とれない場合は顔面を横に向け顎を少し引いた姿勢で行います。
介護者が行う場合は,座位だとケアを行いにくい場合があります。
この場合うは,ファーラ位またはセミファーラ位で行います。
この方が,気管と食道の位置関係から誤嚥しにくいと主張する人もいます。
いずれにしても,吸引機の準備は必須です。
8)気管切開を受けている人の口腔ケア
気管切開を受け,その後も呼吸障害や嚥下機能低下が残り,呼吸管理や誤嚥防止のため気管カニューレを装着したままの方がいます。
経口摂取がある程度可能な方から,経口摂取が全く不可能で経管栄養を受けている方までその程度はいろいろあります。
このような方は,当然,口腔内から唾液とともに雑菌を誤嚥する可能性が高い訳ですから,口腔ケアが重要になります。
とくに,カフの付いていないタイプの気管カニューレを装着している方で,通常は経口摂取している方は,口腔ケアに留意する必要があります。(カフの付いていないタイプの気管カニューレは,気管と気管カニューレの間にスペースがあり,ここより誤嚥する可能性があります。) 口腔ケアの方法は,前述の嚥下障害のある人,経管栄養を受けている人の場合と同様です。
注)脳血管障害等の方で,呼吸管理が必要なために気管切開を受け,その後,呼吸管理は必要なくなったが,嚥下障害が残るために,誤嚥防止のため気管カニューレを装着したままの方がいます。
この場合,気管カニューレをそのままにしておく利点は,物理的にカニューレの部分で誤嚥をストップする事ができる,多少の誤嚥ならカニューレより吸引除去できる,喀痰を吸引しやすいなどです。
在宅では,呼吸管理はまだまだ難しいため,嚥下障害のために気管カニューレを装着したままの方のほうが割合としては多いと思われます
9)無歯顎の人(歯のない人)の口腔lケア
歯のない人に対しては,口腔粘膜や舌に対してのケアが必要になります。
スワブやガーゼに含嗽水などを含ませて,丁寧に清拭します。舌の清拭は,舌苔の予防にもなります。
また,義歯を装着している人は,当然,義歯の清掃が重要になります。
10)部分入れ歯の人の口腔ケア
部分入れ歯を入れている人の場合は,歯が,飛び飛びに残っている場合が多く,1本1本ていねいに歯磨きをすることが必要です。とくに歯の内側や裏側は汚れが残りやすいため注意が必要です。
当然,はずした義歯の清掃が必要なことは言うまでもありません。
7.歯科医師・歯科衛生士が行う口腔ケア
口腔疾患の専門家である歯科医師・歯科衛生士が行う口腔ケアは,以下のようなものです。
1)本人・介助者に対する口腔衛生指導
2)口腔清掃
3)義歯の清掃・取り扱いについての指導
4)歯石除去・薬物塗布など口腔疾患の予防処置
5)口腔疾患の発見および治療に対しての適切なアドバイス(歯科医師)
6)義歯の調整・その他の簡単な処置(歯科医師)
7)場合によっては摂食・嚥下訓練
とくに4)の歯石の除去を行うと,口腔清掃の効率は飛躍的にあがります。ぜひ,一度は歯科医師・歯科衛生士とコンタクトをとって下さい。
お互いに協力して口腔ケアを行うと,より良いケアが可能になると思います。
8.口腔ケア関係の参考書の一例
介護保険制度の開始に伴い,口腔ケアが注目され始めたため数多くの参考書が出版されています。
1)「介護のための口腔保健マニュアル」 監修 日本口腔保健協会,医歯薬出版,1996.1,500円
介護のための口腔に関する知識が,簡潔にまとめられています。
ページも少なく,価格も安いため読みやすいと思います。
2)「口腔ケアQ&A 口から始まるクオリティ・オブ・ライフ」 監修 施設口腔保健研究会/日本口腔疾患研究所,中央法規出版,1996. 3,000円
Q&A形式で,口腔ケアの方法や歯科の知識について述べられています。
質問事項は多岐にわたっております。
3)「介護保険と口腔ケア−基礎から実践まで−」 監修 愛知県歯科医師会/埼玉介護力強化病院研究会歯科部会,口腔保健協会,1997.
3,600円
介護保険や口腔ケアに関してはもちろん,アセスメントからケアプランにいたるまでの解説も記載されています。
4)「高齢者・障害者の食の援助プログラム」 編集
大塚 彰,医歯薬出版,1995. 2,500円
口腔ケア関係の参考書とは少し違いますが,食事援助のあり方について多面的に解説されています。
栄養配慮,食事作り,食事機能のリハビリテーション,口腔衛生について懇切に解説されています。
5)「目で見る口腔ケア/口から始まるクオリティオブライフ」 http://www.aichi-gakuin.ac.jp/~oralcare/index.html
愛知学院大学が,厚生科学特別研究事業「口腔ケアの実態調査と手技の確立に関する研究」の成果をインターネット上で公開しています。
このサイトでは,口腔ケアに関する多くの情報を得ることができます。
9.おわりに
以上,簡単に口腔ケアについて述べましたが,問題にぶつかったときは,積極的に歯科医師や歯科衛生士に相談してみて下さい。
よろこんで,相談に応じてくれると思います。
今まで気づかなかったアイデアを提供してくれる場合もたくさんあると思います。もちろん,その逆に,歯科医療従事者が学ぶべきところもたくさんあると思います。お互いに智恵を出し合い,よりよい口腔ケアを目指そうではありませんか。
参考文献
1)新庄文明他:歯科衛生士による訪問歯科保健指導ガイドブック.医歯薬出版,東京,1994.
2)日本口腔保健協会監修:介護のための口腔保健マニュアル.医歯薬出版,東京,1996.
3)牛山京子:現場から学ぶ訪問口腔ケアのABC.歯界展望, 90(2):
301-323,1997.
4)施設口腔保健研究会・日本口腔疾患研究所監修:口腔ケアQ&A 口から始まるクオリティ・オブ・ライフ.中央法規出版,東京,1996.
5)佐々木英忠他:口腔・咽頭の機能低下と誤嚥性肺炎.厚生省厚生科学研究費補助金長寿科学総合研究,平成6年報告書,Vol.4,140-146,1995.
6)奥田克爾:老人性肺炎と口腔細菌.日本歯科医師会雑誌,Vol.49(9):4-12,1996.
※画像について
市販品の製品画像については,製品パンフレットおよびメーカーのホームページ製品情報よりダウンロードしたものを引用
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