口腔ケアについて                  

口腔ケアとは?
口腔ケアの目的
口腔ケアの実際
口腔ケアと誤嚥性肺炎の関連についての論文

口腔ケアとは?

 口腔ケアの定義は,狭義には,口腔衛生の改善のためのケア,すなわち口腔清掃を指すが,最近ではもう少し範囲を広げて,歯石の除去,義歯の手入れ,簡単な治療まで含められる事が多いようである。 さらに,摂食・咀嚼・嚥下訓練まで含められる場合もある。 すなわち,「口腔ケアとは,口腔清掃,歯石の除去,義歯の調整・修理・手入れ,簡単な治療などにより口腔の疾病予防・機能回復,健康の保持増進,さらにQOLの向上を目指した技術である」といえる。 つまり,在宅で行いうる歯科処置のすべてが,口腔ケアといえると思われる。 もちろん,介護保険の給付範囲を越え,医療保険の範囲になる場合もあるが,制度上のことは口腔ケアの定義とは別問題である。  



口腔ケアの目的

 口腔ケアの目的としては,以下のことが挙げられる。
 1.誤嚥性肺炎の予防
 2.口腔疾患の予防
 3.QOL ( Quality of Life ) の向上

1.誤嚥性肺炎の予防
 この場合の誤嚥とは,食物の明らかな誤嚥ではなく,不顕性の誤嚥 ( silent aspiration )である。 嚥下反射・咳反射の低下した老人は,睡眠中に不顕性の誤嚥をたびたび起こし,この際,唾液とともに口腔内の細菌も同時に誤嚥するため,誤嚥性肺炎を起こしやすいといわれている。 そして,口腔内の細菌を減少させるためには,口腔ケアが有効である。
 口腔ケアが誤嚥性肺炎の予防に有効であるという事実は,最近,歯科医療関係者にも認知され始めた事実であるが,残念ながら,介護の現場ではほとんど認識されていないのが現状であろう。 介護を要する人の生命を脅かす誤嚥性肺炎の予防ということに関しては,QOLの向上とは次元を別にして論じられるべき重要なことであると思われる。 そして,口腔ケアについての実践および啓蒙活動は,介護保険制度開始とともに,要介護人に接する機会が増すと思われる歯科医療従事者に課せられた重大な使命であるとも言える。
 介護関係者の間では,介護を受けている人の口腔内は,「介護の鏡」といわれている。 このことは,言い換えれば,生命の危険に直接関係のないと思われた口腔ケアまでは,なかなか手が届かず,後まわしにされていたというのが現状であったように思われる。 しかし,今後は,口腔ケアは,とくに脳血管障害等で嚥下・咳反射の低下した要介護人にとっては,誤嚥性肺炎の予防という観点から,ケアプランの中に積極的に組み入れられる必要があると思われる。

 
* 誤嚥性肺炎の成立過程  脳血管障害 → 嚥下・咳反射低下 → 不顕性誤嚥 →(+免疫機能低下)→ 誤嚥性肺炎

2.口腔疾患の予防
 適切な口腔ケアが,各種口腔疾患の予防に有効なことは要介護人に限ったことではない。
 
3.QOLの向上

 介護支援専門員標準テキストによれば,介護支援専門員の基本視点の一つとして,ノーマライぜーションとQOLを挙げている。 そして,生活の質( QOL : Quality of Life )を高めるという考え方は,高齢者にとって重要な価値基準であり,質の高い生活とは,自分の求めている暮らし方が現実のものとなる生活であり,そうした生活にこそ,満足があり,喜びがあり,笑顔のあるはずであるとしている。 口腔ケアの充実により,口から食べること,おいしく食べることがすべての要介護者の自立とQOLの向上に寄与することは,異論のないところであろう。


口腔ケアの実際

 介護支援専門員標準テキストでは,口腔ケア(口腔清掃)の基本として,ブラッシング(歯磨き)・フロッシング(デンタルフロスによる清掃)・リンシング(洗口)を挙げている。このうちフロッシング(細い絹の糸を用いて歯間を清掃する方法)は,老人は孤立歯が多いため,現実的でないかもしれない。
 実際の口腔ケアの方法については,様々な方法が考えられるが,対象とする要介護老人の病態は千差万別であり,それぞれのケースにおいての工夫が必要だと思われる。 常に念頭においておくべき事は,対象とする人は虚弱老人であり,易感染性であり,また,処置時の誤嚥を防ぐための配慮が必要であるということである。詳しくは,本サイトの「口腔ケアマニュアル」を参考にしていただきたい。

補足事項


口腔ケアと誤嚥性肺炎の関連についての論文

 口腔ケアと誤嚥性肺炎との関連についての論文の一例

  1. 佐々木英忠ほか:誤嚥性肺炎の予防と治療.月刊総合ケア,2(9):48-51,1992.
  2. 佐々木英忠:老年者の肺炎に関する研究.厚生省厚生科学研究費補助金長寿科学総合研究,平成6年報告書,Vol.4,137-139,1995.
  3. 佐々木英忠他:口腔・咽頭の機能低下と誤嚥性肺炎.厚生省厚生科学研究費補助金長寿科学総合研究,平成6年報告書,Vol.4,140-146.1995.
  4. Yoneyama,T.et al.:Oral hygiene reduces respiratory infections in elderly bed-bound nursing home patients.. Arch.Gerontol.Geriatr., 22:11,1996.
  5. 米山武義:口腔ケアと誤嚥性肺炎. Geriatric Medicine, 35:167-171,1997.
  6. 奥田克爾:老人性肺炎と口腔細菌.日本歯科医師会雑誌,Vol.49(9):4-12,1996.
  7. 弘田克彦ほか:プロフェッショナル・オーラル・ヘルス・ケアを受けた高齢者の咽頭細菌数の変動.日本老年医学雑誌,34(2):125-129,1997.
  8. 米山武義:口腔ケアの今日的とらえ方と誤嚥性肺炎予防.歯界展望,Vol.91(6):1276-1279,1998.
  9. 佐々木英忠ほか:誤嚥性肺炎のメカニズムと最近の知見.歯界展望,Vol.91(6):1280-1287,1998.
  10. 三宅洋一郎:誤嚥性肺炎の発症における口腔細菌の役割と細菌学的にみた口腔ケアの意義.歯界展望,Vol.91(6):1298-1303,1998.
  11. 米山武義:臨床家として誤嚥性肺炎をどうとらえ,歯科医療の発展に結びつけるか.Vol.91(6):1312-1321,1998.
  12. 花田信弘:誤嚥下性肺炎の与えた影響.歯界展望,Vol.94(3):550-551, 1999.